
在宅医療における医療技術の習得を考える - 安全性と必要性のバランスを目指して
こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分間の医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は、在宅医療における医療技術の習得と実践について話し合いました。
課題背景
在宅医療では、中心静脈ポートの管理からPCAポンプの使用、胸水腹水穿刺、人工肛門の交換、トリガーポイント注射など、様々な医療技術が求められます。一方で、安全面を考慮すると、新しい技術の導入には慎重にならざるを得ません。地域医療を支える医療機関として、どのように必要な技術を獲得していくべきか、また、できないものは割り切るべきなのか、という課題について議論を行いました。
カンファレンスでの意見交換
A医師(問題提起):「先日、人工肛門の交換ができますかと問い合わせがあり、経験のある医師がいないため対応できませんでした。在宅では中心静脈ポート管理、PCAポンプ、人工肛門交換、トリガーポイント注射など、できた方がよい技術が多くあります。地域を支える医療機関として、必要な技術をどのように獲得していくべきか、もしくはできないものは割り切るべきなのか、皆さんのご意見を伺いたいと思います」
B医師:「実際、私の場合は以前の上司から学んだ技術が基本となっています。それに加えて、近隣の病院の先生や同世代の医師に相談して学ぶことが多いですね。良い教材があれば学びたいのですが、現時点では見つけられていません」
C医師:「病院にいた時にできていた技術でも、在宅では安全面を重視して、あまり攻めた技術は必要ないと考えています。患者さんのQOLを上げるために必要な技術であれば、他の医療機関と相談して、一時的にその医療機関で処置をしてもらうなど、連携を活用する方が良いと思います」
D医師:「病院での経験からすると、ガイドワイヤーを使用する処置は予想以上にトラブルが多いため、在宅では極力控えています。一方で、関節注射などは比較的安全に実施できるため、そういった技術は積極的に行っています。また、医師の構成によって対応できる技術に差が出るため、診療所全体として最大公約数的な範囲で技術を提供するのが現実的だと考えています」
E医師:「私たちの診療所では、できるかどうかというより、できるようになろうという姿勢で取り組んでいます。ただし、重要なのは患者さんが選択できる環境を整えることです。同じ技術でも患者さんによってリスクの程度が異なり、万が一の際の受け止め方も違います。そのため、私たちは技術を提供する際の選択肢を提示し、患者さんと一緒に決めていく形を取っています。
例えば、人工肛門交換は比較的簡単な処置ですが、うまくいかないケースもあります。そのため、交換は外来の空いている時間に行い、緊急時の対応も考慮して実施しています。また、胃瘻交換では、安全性を高めるためレントゲン撮影で確認するなど、工夫をしています」
F医師:「緩和ケア的な処置が多い当院では、予後1年以内の患者さんで必要性の高い技術(輸液、人工肛門、胃瘻など)は積極的に習得するようにしています。ただし、失敗した際のバックアップとして、近隣の大きな病院の先生に事前に相談しておくことを心がけています。
一方で、トリガーポイント注射や関節注射など、予後が長い患者さんの症状緩和に関する技術は、整形外科に依頼する方針としています。無理に自院で行うのではなく、適切な医療機関との連携を重視しています」
今後の展望
カンファレンスでの議論を通じて、以下のような方向性が見えてきました:
技術習得の基本方針
安全性を最優先
診療所全体としての対応可能範囲の明確化
バックアップ体制の確保
習得方法の工夫
経験豊富な医師からの直接指導
病院との連携による段階的な習得
診療所内での技術共有
リスク管理の重要性
処置後の確認方法の確立
トラブル時の対応体制の整備
患者への適切な情報提供
おわりに
在宅医療における技術習得は、安全性と必要性のバランスを取りながら進めていく必要があります。診療所の特性や医師の経験を考慮しつつ、適切なバックアップ体制を構築することで、より安全で効果的な医療の提供が可能になると考えられます。また、グループ内での技術共有や動画による学習など、新しい取り組みの可能性も示唆されました。