
在宅医療における心不全管理を考える - 実践的な対応と課題
こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分間の医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は、在宅医療における心不全管理について話し合いました。
課題背景
日本における高齢者心不全患者数は年間1万人以上の割合で増加しており、令和2年で120万人、令和12年には130万人に達すると予測されています。超高齢社会の到来とともに、いわば「心不全パンデミック」の時代が到来しつつあります。高齢者が一度心不全を発症すると、活動量が低下し、リハビリ期の需要も高まります。心不全医療の在り方は、病院完結型から地域完結型へとシフトしており、在宅医療の役割がますます重要になってきています。
カンファレンスでの意見交換
急性増悪時の対応について
循環器専門医:「急性心不全のクリニカルシナリオについては理論としてはあるのですが、実際の現場では急激な経過をたどり、酸素飽和度が80%台になってしまうこともあります。そうなると予約の調整が難しく、救急車を要請するか、モルヒネによる症状緩和を選択するかの二択になることが多いのが現状です。
当院では利尿薬管理をパルスオキシメーターを使用しながら可能な限り行っていますが、原因が肺性心や肺塞栓などの場合は、コントロールが難しく最終的に入院となることもあります。また、持続点滴を選択肢として持つ場合は、看護師さんやホームヘルパーさんの協力が不可欠で、そのための教育も必要になってきます」
薬物療法の選択について
B医師:「利尿薬の使用について素朴な疑問なのですが、心不全が増悪したら安易にラシックスを投与すれば良いというわけではないと思います。循環器を専門としない医師として、どういった患者さんに対して注意が必要なのでしょうか?」
循環器専門医:「大動脈弁狭窄症(AS)が強い患者さんでは、利尿薬投与によってボリュームが下がった時に血圧が急激に低下する可能性があります。また、一見血圧が興奮して高く見えても、基礎の心機能が弱っている場合もあり、急激な利尿薬投与は危険です。在宅では心エコー検査が難しい環境もありますが、こういった背景を考慮する必要があります。
基本的には急性増悪を防ぐような予防的な管理、すなわちラシックスやサムスカなどの利尿薬の微調整が重要になってきます」
ニトログリセリンの使用について
C医師:「ニトログリセリンの使用についても、安易に使用して良くない病態などありますか?」
循環器専門医:「スプレー程度であれば大きな血行動態の変化は起こりにくいですが、ASなどでは反応が強く出る可能性があります。ただし、後負荷を下げることで症状が改善することも多いため、ASがなければ比較的早めの使用を推奨しています。
往診時に1回使用した後の継続使用については、血圧をモニタリングしながら、高血圧が持続する場合は使用を継続します。ただし、サチュレーションが80%台で、非侵襲的陽圧換気(NPPV)や呼吸管理が必要な場合は、現実的には病院での管理が必要になると考えています」
新しい治療薬について
D医師:「最近のガイドラインでは、EFの低下した心不全に対して4つの基本薬が推奨されていますね。ACE阻害薬/ARNのエンレスト、β遮断薬、MRA、そしてSGLT2阻害薬です。これらの導入のタイミングについて、何か指針はありますか?」
循環器専門医:「従来は6ヶ月かけて段階的に導入していく考え方でしたが、最近は4週間程度でより早期に導入する傾向にあります。ただし、この点についてはまだ統一見解がなく、実際の導入方法は施設や医師によって異なります。在宅の患者さんが一度入院すると、この4剤が導入されて退院してくることが増えると予想されます」
おわりに
心不全パンデミック時代を迎え、在宅での心不全管理の重要性は更に高まっています。安全で効果的な治療を提供するため、最新の治療指針を踏まえつつ、各患者さんの状況に応じた適切な対応を心がけていきたいと思います。