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幻覚症状への対応をどう進めるか? - 在宅医療における認知症ケアの課題

こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分間の医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は、認知症患者さんの幻覚症状への対応について話し合いました。

Take Home Message

  • 幻覚の性質と患者・家族の困りごとを丁寧に評価することが重要

  • 抗精神病薬の使用は慎重に検討し、時に減薬も選択肢となる

  • 生活環境の調整など、非薬物的なアプローチも考慮する

カンファでの意見交換

A医師:「レビー小体型認知症という診断がついているわけではないですけれ認知機能の低下と幻覚が見えるような方が複数いらっしゃいまして、その対応に困っています。幻覚の時に皆さんどういった薬を使っているのかをお伺いしたくて。私の場合、ファーストでクエチアピン使ったり、DM(糖尿病)があったらセカンドでリスパダールを使っているんですけど、なかなか初期症状の幻覚ってコントロールがつきにくいことが多いと感じていて。皆さんのご意見を伺えればと思います」

B医師:「幻覚ってどういった幻覚ですか?」

A医師:「例えば今日これから行く人なんですけど、家の中で斧を振りかざした人がいるとか、猫が死んでるとか、そういう幻覚もあれば、孫が来たとか子供が来たなんていう良い幻覚もあります。ただその対応に付き合いきれない奥さんもいらっしゃって、なんとかして欲しいということでした」

B医師:「認知症以外の周辺症状で暴言だったりとかあとは夜寝れないとか、徘徊とかそういうのもありますか?」

A医師:「今のところその方に関しては幻覚以外特に目立った症状はなくて、まだ初期なんだろうという印象です」

B医師:「物忘れは...?」

A医師:「物忘れはありますね。短期記憶障害があるけど他のBPSD(認知症の行動・心理症状)は特になくて、幻覚がそういう感じです」

B医師:「ちなみに今飲んでる抗精神薬とか認知症薬ってありますか?」

A医師:「ガランタミン8mgあります。あと、リスペリドンを就寝前に使っています」

C医師:「1人いまして、猫が見えるという方で周辺症状は全くなくて、自分で薬の管理まで全部やっているという方なんですけど。猫がいるって言って見に行くといないと。それが半年位続いてるっていう方なんですね。レビー小体型の認知症の診断はついてないですし、そもそも認知症の診断もついてないので薬は何も内服されてないんですけど」

D医師:「レビー小体型認知症もそうだと思うんですけど、いわゆる抗精神病薬、ドパミンレセプターのブロッカーを使うと逆に症状がすごい悪化する人って結構経験されてるかなと思います。例えば、その方の定期で飲んでるリスペリドンを思い切って状態見ながら止めてみるというのは1つの手なのかなと。例えば夜眠れないとか夜になると暴れるってなると、本薬でクエチアピンとかコントミンとかを用意しといて、1回定期を止めてみるっていうのは1つの手なのかなと思いました」

E医師:「私も考えたのが、レビー小体型認知症だと抗精神病薬で逆に感受性が高くなってしまって落ち着かなくなってしまうこともあるので、夜眠れるようにっていうので抗精神病薬の鎮静作用以外にも睡眠導入剤の方に作用するデパスとか、生活環境の方にまずは関わっていくのがいいのかなと思いました」

F医師:「まず幻覚があって何に困るかっていうところだと思うんですよね。お孫さんが来てるとか、そういう幻覚は肯定してあげてもいいのかなと思うんですけども、刃物持った人が来てそれで眠れないとか、そういう困ったところには今お話があった睡眠剤とかにフォーカスするのがいいのかなと思いました」

G医師:「今のケースですと結局焦燥性であるとか、注意力欠如がどうなのかとか、そっちの問題が大きいような感じがします。そういうのに対する薬ですね、先ほど出た睡眠剤でまず夜眠ってもらうとか。あとは調整してみる、今の薬を見直してみる。ガランタミンを飲んでいるというお話が出ましたけど、そちらもどうなのかってことですね。休んでみる価値はあるかどうかというところだと思いますね」

H医師:「ステップバックして考えた方がいいかなと思ってるんですね。なぜかと言うと、レビー小体型認知症ばかりが精神症状出る病気ではないし、そういう精神症状が全面に出たうつ病っていうのも結構あったりして。昔、薬物療法で難しかった患者さんは、電気食療法で結構妄想と幻覚がすごく良くなったこともあるので。受診ができるかわからないですけど、ちょっと精神科のインプットがあるといいのかなと思いました」

I医師:「その幻覚が何から来るものかっていうのは、しっかり介入し始めたばかりだと思うのでしっかりと考える必要があると思います。お薬の副作用、例えばH2ブロッカーとか、幻覚を起こしやすい薬ってあると思うんですけど、そういうものなのか。あとはレビー小体型って幻覚がかなり出やすいので、原病によるものなのかっていうセオリーを1回しっかり考えて。1つずつ可能性が高いものから対応していく」

A医師:「あと症状だけでなく、誰が困っているかという視点も大事ですね。奥さんへの対応がまず1番ですので、本人にはそんなに困ってなくても、その辺を今日まずしっかり見てきたいと思います。あと1点、皆さんにお伺いしたいのが、抗精神病薬等の使い方で良い本とかおすすめの本とか、後ほどチャットとかで教えていただけるとありがたいです」

おわりに

幻覚症状への対応は、症状の評価から治療方針の決定まで、多角的な視点からのアプローチが必要です。今回の議論では、薬物療法の選択肢や、家族支援の重要性、原因の特定など、様々な観点からの意見が共有されました。

患者さんと家族それぞれの困りごとを丁寧に評価し、個々の状況に応じた適切な対応を選択していくことの大切さが確認されました。今後も、認知症ケアの質の向上に向けて、知見を深めていきたいと思います。