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在宅医療における意思決定支援を考える - より良い支援の実現に向けて

こんにちは。やまとドクターサポートの原田です。毎週開催している「15分間の医師カンファ」では、現場での気づきや悩みをテーマに、やまとの全診療所の医師が様々な視点から解決策を考える場を設けています。今回は、日常診療における意思決定支援のあり方について話し合いました。

課題背景

在宅医療の現場では、認知症などでコミュニケーションが難しい方への対応、療養先の決定、経管栄養を含めた治療方針の決定など、様々な場面で意思決定支援が求められます。また、地域によっては多職種での取り組みも始まっており、医療者としての適切な関わり方が問われています。

カンファレンスでの意見交換

A医師(問題提起):「日常診療での意思決定支援について、皆さんがどのように実践されているのか、具体的な工夫や考え方を伺いたいと思います。特に、認知症などでコミュニケーションが難しい方への対応や、療養先の決定、治療方針の決定などの場面でのアプローチについて、お聞かせください」

B医師:「医師の発言は他職種の方に予想以上に重く受け止められることが多いので、最初から方向性を決めすぎないよう注意しています。医学的な判断が必要な場合を除いて、できるだけ皆でご本人の意思を探るような形での支援を心がけています。特に『先生にお任せします』と言われた時が最も難しく、その際は道筋を示しつつも、皆で話し合って決めるようにしています」

C医師:「まず大切にしているのは患者さん本人の意思です。ただし、それがすぐには出てこないことも多いため、早急に結論を出さずに、繰り返し話し合いを持つようにしています。そうすることで、急変時など急な判断が必要になった場合でも、自然と方向性が見えてくることが多いと感じています」

D医師:「最近感じるのは、患者さんやご家族が意思決定支援という過程自体に慣れていないということです。特に紹介元の医療機関でそういった経験がない場合、『自分の気持ちを言っていいのだろうか』と躊躇される方も多いです。まずは『言っていいんですよ』という雰囲気作りから始め、気持ちの揺れ動きも含めて受け止めていくことを心がけています」

E医師:「私の場合、ご本人から直接お話を聞くことが苦手と感じることもあり、看護師さんや他のスタッフからの情報も大切にしています。また、家族の負担にも特に注意を払っています。経済的、精神的、身体的な負担が大きくなりすぎると、意思決定自体にも影響してくるため、負担が少ない選択肢を提示できるよう心がけています」

F医師:「サービス担当者会議を重視しています。訪問診療だけでは見えない患者さんの価値観が、他の関係者との話し合いの中で見えてくることがあります。本人の直接の発言がなくても、家族や支援者から『こんなことを言っていた』『こう考えるのではないか』という意見が聞けることが多く、独断的な判断を避けるためにも有効だと感じています」

G医師:「意思決定支援で最も重視しているのは、選択した結果どうなるのかを患者さんやご家族が本当に理解できているかという点です。病院でICを受けたと言っても実際には理解が不十分なことも多く、できるだけ平易な言葉で説明するよう心がけています。

また、『先生にお任せします』と言われた場合は、『私があなたの立場だったらこう考えます』という形で提案するようにしています。どうしても方向性が定まらない場合は、臨床倫理の4分割法を用いて整理することもあります」

H医師:「私たちの診療所では、患者さんの生き様を知っているスタッフ全員で方向性を探ることを大切にしています。医学的なエビデンスと患者さんの人生の物語(ナラティブ)を上手く測りにかけながら、高圧的にならず、チームで良い方向を見つけていく姿勢を心がけています」

おわりに

意思決定支援は、単なる選択の手伝いではなく、意思の形成から実現までの一連のプロセスを支えることだと考えられます。患者さんの価値観を理解し、多職種で支援していく中で、医師には医学的な知見と患者さんの人生の物語を結びつける役割が求められています。今後も各診療所での経験を共有しながら、より良い支援の在り方を模索していきたいと思います。