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地方自治小景 11


「広島市 地域コミュニティ活性化ビジョン」を読む

広島市は2022年度に「地域コミュニティ活性化ビジョン」を策定した。同ビジョン内で広島市は概ね小学校区を地理的な範囲とした地縁に基づいたコミュニティを基軸に据えた施策を実施している。

「地域コミュニティ活性化」は、「自分たちのまちは自分たちで創り、守る」という市民主体のまちづくりが全ての地域で続けられるようにするために不可欠な取組です。連合町内会・自治会や地区社会福祉協議会を核として、町内会・自治会に加入しているか否かにかかわらず、全ての地域住民を対象に様々な活動が行えるよう、新たな協力体制を整備し、今後は、これを市内全域に展開していく必要があると考えています。

広島市長 所信表明 2023-06-19

地域コミュニティ活性化施策が松井市政下で本格的に始まったのは平成29年度のコミュニティ再生課の設置からとなる。本施策は地方分権改革の流れからの「都市内分権」でもなければ市民参画を基軸に置いた住民自治の振興施策を軸とした地域振興策とも異なるものである。本施策は平成29年に改正された社会福祉法に基づいた「地域共生社会」に向けた福祉施策であり他市の自治振興を基軸に据えた地域コミュニティ施策とは根本的に異なっている。
このことは「地域コミュニティ活性化ビジョン」の巻頭に掲載されている市長の方針文にある通りである。

「自助、共助、公助の一体的な機能発揮」を目指し、「共助」の精神の下、住民同士が支え合い、安全・安心に暮らすことができる地域共生社会の実現を図ってまいりたいと考えます。

広島市 地域コミュニティ活性化ビジョン

広島市の地域コミュニティ活性化ビジョンをめぐる議論は市長が諮問する審議会と広島市議会の2か所でおこなわれてきた。ビジョン策定に至るまでの議論を見る限り本ビジョンの政策目標である地域福祉施策が中心課題として取り上げられることはなかったようだ。ビジョンの議論の中心はいかに疲弊した既存の地域の中から市が主張する「新しい協力体制」を構築するには?に終始しておりビジョンの実現の目的である「地域共生社会」へ目が向くことは残念ながらなかったようである。
広島市の地域特性として概ね小学校区単位に社会福祉協議会が設置されている。市の主要な政策目標は住民自治の振興ではなく地域福祉体制の構築にあるので当然のこととして小学校区の社会福祉協議会を基軸とした体制を主眼に置いている。小学校区社会福祉協議会の活動や体制には地域により強弱があるとともにその地区の地域地縁組織(町内会、自治会)と重複する部分が多分にあることから地区ごとの組織体制の構築において社会福祉協議会を組織体制の主軸に置くとは明言はされていない。
ビジョン策定後の予算調製において市社会福祉協議会へ本ビジョン推進にあたって多額の予算が割り振られている。市はこの施策の中心的な役割を社会福祉協議会に担わしている。
社会福祉協議会へ多額の公費からの予算が出されるとしても末端で実際に共助を担うのはその地域に住む住民自身となる。結局のところこの施策の結果は地域住民の福祉政策への動員という形として現れることとなる。無論この政策決定に広島市民が十分に同意をしているのであれば問題はないのだが、地域福祉政策を含めて厚生分野における行政の責任範疇について本施策に関連してきちんと議会等で議論されていないのであれば住民合意に関しては非常に疑わしいと言うほかない。
広島市は2023年度の補正予算にて本ビジョンの推進を目的にした新たな条例制定を目指した施策を実施している。私のように住民自治や市民参加を是とする人間からすると正気の沙汰とは思えない。

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