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興行目的のeSportsはつまらないんだよ

 本稿では、昨今流行りの「eSports」と、それにともなう「興行」、すなわちお金儲けとの関係について論じる。

 昨今のeSportsやゲーム配信を観戦すること、あるいはもう少し話を広げて、インターネット界隈全体についての持論を展開したい。

※2021年の古い記事です。書き直したい。

1.king halo氏の記事

 5月18日に、king halo氏がたいへん素晴らしい記事を投稿された。読んでいない方はぜひ読んでいただきたい。

 MTGの競技シーンの解体と、カードゲームのeSportsというものについて、非常にわかりやすく、興味深くまとめられている。
 他人の記事を簡略化してまとめることはあまり礼儀がいいとは言えないが、要点と流れを箇条書すると、

・ある程度は誰でも凄さがわかる格闘ゲームと違い、カードゲームは視聴者にも知識が求められる。

・将棋や囲碁もそのような知識が求められるが、圧倒的に歴史が違い、またルールも変わらないため、常時競技シーンを追いかけていなくても観戦が可能である。

・カードゲームはそのような観戦の難しさや、個性の無さや地味さにより、魅せることに向いていない。

・カードゲームの目的は、興行や商売ではない。

といった内容である。カードゲームに関しては完全に門外漢なため、非常に参考になった。内容についてもほとんど完全に同意できる。

 さて、氏の記事の目玉は、「プロ化して職業になることがカードゲームのゴールじゃない」という項目である。これについては完全同意である。それは、カードゲーム以外でもそうだ。どんなゲームでもスポーツでもなんでもいいが、金儲けのための興行は目的ではないのだ。

 経済活動の目的は金儲けであることは間違いない。普段の仕事に「やりがい」などというのは私もあまり好きではない。仕事の目的は金儲けだ。
 しかし、経済活動以外の活動の目的は金儲けではない。そして、そのようなものの目的を金儲けにしてしまうと、つまらなくなる。それが記事タイトルの、「興行目的のeSportsはつまらないんだよ」ということである。

2.興行としての前提は「わかりやすい」ことではない

 1.のような考え方はking halo氏の記事が初出ではない。氏の記事の内容と似たようなことは様々なところで語られてきた。「一見してわかりにくいゲームは興行に向かない」という意見はよく見られる。

 たしかに、それは一理ある。しかし、私はそもそもその前提が間違っていると思っている。すなわち、「興行は一見してわかりやすくないといけないのか?」ということである。

 カードゲームや、将棋だけではなく、一見してわかりにくいものは多くある。プロ野球だってそうだ。ただ「野球を見て楽しむ」というだけではなく、「日本のプロ野球観戦を楽しむ」というのは、あらゆる意味でファン向け、玄人向けであったりする。

 「野球のルールは複雑でわかりにくい」というだけの話ではない。多くの人は「贔屓球団」を持ち、そのチームの勝利を願い、応援している選手の活躍を見たいと思っている。「ただ野球というスポーツを見ること」を楽しんでいるだけではない。私も、全く知らない人たちがやっている野球を見て楽しむということはない。
 例えばこの記事を書いている前日の横浜DeNAベイスターズ対千葉ロッテマリーンズの試合を見るとき、私はベイスターズの選手についてよく知っているし、マリーンズの選手についてもある程度は知っている。どの選手にどのような働きを求めるかもわかるし、野球やチームの戦術的なことも楽しめる。9回裏にオースティン選手に代走を出したのだが、私は「それ代走出して大丈夫か?」と思った。(プロ)野球や選手の知識等があったから、そう思ったのである。初見の人にはわからない楽しみ方もある。

 したがって、興行として見て楽しむことに、一見してわかりやすい必要などないむしろ、プロ野球観戦に多くのお金を払うのはコアなファンの方だ。現在のプロ野球のレギュラーシーズンの中継において、実況の人が「インフィールドフライ」についてわざわざ解説することはほとんどしない。現在のプロ野球中継は、そのルールを知っている人向けのものなのだ。

 一方で、野球の国際大会や日本シリーズ、サッカーの日本代表戦のような、地上波で放映され多くの素人が見るような場合では、それに合ったような実況や解説がなされる。それは視聴者層に合わせているので、適切であると言えよう。

 では、eSportsにおいて適切であるといえるのは、素人向けのものなのか、玄人向けのものなのか。問題はそこである

3.「素人向け」でないとファンは増えないのか?

 「将棋や囲碁、野球はすでに多くのファンがいて、その人たちを楽しませるために玄人向けでもよい。しかしeSportsはまだまだ発展途上でファンも少ないため、素人向けにするべきだ」という意見があるだろう。

 その意見は完全には間違ってはいないとは思う。しかし、「素人向けにしたらファンが増えるのか?」あるいは、ファンになった人は「素人向けだったからファンになったのか?」という疑問もある。

 例えば、私はFPSゲームはほどんど経験がない。数多くの無料FPSがあったがそれらは全くプレイしていないし、爆発的な人気を誇ったPUBGやAPEXもプレイしていない。1年ほど前にOverwatchを購入し、プレイするようになったぐらいだ。昨今ではVALORANTが人気だが、私は爆破系FPSの知識は全くなく、サービス開始当初にスパイクラッシュを10回程度遊んだだけだ。

 そのようなFPSに関してはほとんどエアプの状態だったが、FPSを観戦することは楽しいし、Overwatchを購入してプレイしようと思うようにもなった。Overwatchに関しては1年前には流行はとっくに過ぎており、素人向けの要素など全くなかったにも関わらず、だ。

 動画や配信等でも人気を博したPUBGが発売されてから既に4年が経った。当時からFPSに関しては完全にエアプだったが、配信やプロの試合を見るのは楽しかったし、様々な知識もついた
 VALORANTは5vs5の爆破系と呼ばれるジャンルであり、PUBGやAPEXとは異なる。それらのゲームからFPSに入った人たちは、知らないことも多くあっただろう。
 しかし実際にプレイし、配信者やプロの競技シーンを見ていくことで、ルールはすぐに覚えることができるし、様々な戦術やセオリーについても学ぶことができる。それらの基本的なことを理解した上で、トッププロたちの戦術やスキルの凄さがわかるようになる。あるいは、「「何やってるかわからねー!」ということが凄い!」ということもわかるようになる。

 配信のコメント等を見ても、視聴者の熟練度は上がっているようにも感じられることが多くある。VALORANTでいえば、エアプであってもそれぞれのエージェントの特性や役割、ラッシュやエコラウンド等の戦術知識も身につけている視聴者も多いだろう。

 そして現在では攻略系のウェブサイトはもちろん、いわゆる「プロ」と呼ばれる人たちの解説等の動画も多くあり、検索すればすぐに見つけることができる(それらの内容については、また別の機会に記事にするかもしれない)。知らないことや知りたいことは、すぐに調べてわかるようになる
 将棋や囲碁に代表されるような、調べてもわからない高度な知識や戦術等ももちろんある。しかし、全てを知らないと楽しめないわけではない。2013年より行われてきた将棋の「電王戦」はニワカばかりのニコニコ動画でもたいへん盛り上がった。あるいはプロ野球のファンでも、戦術や配球等については全く知識がない人も多いだろう。

 まとめると、初めはわからなかったことでも、自分でプレイしたり、配信やプロの試合を観戦し、わからないことは自分で調べることで、競技の観戦を楽しめるようになることは可能である
 上記のように、私はFPSは完全なエアプであったが観戦は楽しめるし、野球の場合でも、競技経験もなければ素人向けの解説なんかも受けたことはないが、今では横浜DeNAベイスターズのファンとしてプロ野球観戦を十分に楽しめている。

 2.3.で述べたように、ある競技の視聴者やファンになることは、一見してわかりやすいことが絶対条件ではないし、わかりやすかったら興行として成功するわけでもない。例えば陸上競技の短距離走は、ほとんどの人が経験があり非常にわかりやすいが、プロリーグなんてものはないし、あっても人気は出ないと思う。しかし文化的・歴史的な後ろ盾やマーケティングもあり、オリンピックや世界陸上では短距離走は皆の注目の的である。

 わかりやすいことは良いことかもしれないが、一見してわかりにくいことでもファンになれる。マーケティングに成功すれば、多くの視聴者を獲得することは可能だ。
 APEXという同じゲームでも、プロの試合よりもマーケティングに成功したCRカップの方が視聴者は多かったし、先日行われたVALORANTの国際大会も、人気配信者のstylishnoob氏がミラー配信することにより、多くの視聴者を集めることができた。

 しかしこれまでに書いてきたことは、ある意味で理想論のようであり、現実に即していない。はっきり言ってそれではたぶん儲からない。

4.(インターネット上の)「視聴」興行

 ここで、話題がeSportsとは少し離れる。商業の話であるが、私の専門ではないため浅い内容となっているかもしれない。ご了承。

 多くの商品は、質にともなって値段が決まる。高性能なパソコンのほうが値段が高いし、牛丼屋は料理としての質は高くないが、安価である。もちろん様々な要素が付随するため、単純な話ではないことも多いが、基本的にはそうである。
 消費者は自分のニーズに合わせて必要なものを選び、それに応じた値段を払う。高級で、ニッチなものほど値段が高い。私はいわゆるロードバイクと呼ばれる自転車に乗っているが、たとえば2万円くらいするサドルを装着している。自転車に興味がない人、必要ない人からすると、あんな座るだけの三角形になんでそんな金がかかるのかと思うだろうし、もっと高級な自転車に乗っている人ならばもっと高級なサドルを装着している。

 上記でもプロ野球を例に挙げているが、昔に比べると地上波で放映されるプロ野球の試合はかなり減っている。野球が見たい人は、お金を払って球場で観戦したり、JSportsやパ・リーグTVなどの有料チャンネルに登録する。
 球場での観戦はいい席ほど料金が高く、プロ野球12球団でなく独立リーグでは料金は安い。Jリーグの場合でも、J3やJ2に比べるとJ1の方が料金は高い傾向がある。

 一方で、特にインターネット上の「視聴」という商売においては、そのような質と値段のシステムはあまり働いていない。より高級なもの、クオリティの高い動画や配信を視聴するのに、多くのお金を払うというシステムにはなっていない(もちろん、一部例外はあるが)。

 YouTubeでもTwitchでもいいが、どんなに人気がある人でも、視聴者は基本的には無料でその動画や配信を楽しむことができる。大人気YouTuberが「○○を100万円ぶん買ってみた!」という動画でも、例えば私が喋るだけの配信でも、どちらも視聴者がお金を払うことはない

 一般的な商売では、同じ1,000万円の売り上げでも、1万円の商品を1,000人に売ったり、100万円の商品を10人に売ったりするような商売の多様性がある。前者であれば、「より多くの人に受け入れられるものを作ること」や「コストを減らすこと」が求められ、後者であれば「より質の高い商品を作ること」や「希少価値」が求められる。高級な料亭やバーなどは、なんなら「人が少ない」ということに価値があることもある

 しかし上記のように、ネットで動画や配信を視聴するときは、そのような料金のシステムではないのだ。視聴者は基本的にはお金を払わない。今後、YouTubeで「メン限」と呼ばれる有料会員のみが視聴することができるようなものが広まり、それが基本になっていくかもしれないが、現状ではそうなっていない。

 繰り返すが、通常の商品であれば、1万円の商品を1,000人に売っても、10万円の商品を100人に売ってもいいわけだが、ネットの「視聴」商売はそういうシステムではない。基本的に視聴者は金を払わず、広告主によるスポンサードで配信者は対価を得る。
 そうすると、とにかく視聴者が多いことが儲けに繋がる。野球観戦では1円しか払わない人をいくら客席に入れても全然儲けにはならないが、ネット配信では観客者数も(基本的には)制限がなく、宣伝が目的で広告料が主な収入ならば、1円も払わない人でも1人でも多くの人が見ることが重要なのだ。

 先にも挙げたが、プロ野球はコアでマニアックなファンほど多くのお金を払う。何度も球場に行き、ユニフォーム等の応援グッズを買う。
 そういうファンが増えることが利益につながるし、新規のファンが「そうなる」のが、球団にとってはありがたい。

 球団の目的は、お金を多く落としてくれるコアなファンを増やすことが目標だ。無料で視聴する人を集めるのは過程でしかない。

 では、eSportsの目的とはなんだろうか。ただ、現状でeSportsというだけでは目的も組織も様々なことが異なっているため、一緒くたにはできないし、共通の見解を定める必要もない。これに関しては、私の以前の記事の1章を読んでいただけるとありがたい。

  先にも挙げたプロ野球の場合だと、よりコアなファンを増やし、喜ばせることが重要だ。自分の贔屓球団が勝利することでファンは喜ぶし、さらに球場に来てくれるようになる。また、私が購入した自転車のサドルの場合だと、安物の質の低いサドルではなく、質の高いやや高級なサドルを作ることによって、それを求める私が数万円を払って購入することになった。

 では再び、eSportsの目的とは何だろうか。これも私の以前の記事にも書いているが、現状のeSportsというのは「プロ活動」であり、「興行」であるといっていい

 そして4.で述べたように、ネット上の「視聴」興行は、客(視聴者)が求める質によって料金を払うシステムではない

 現在でも、多くのゲームには多くのコアなファンがいる。格闘ゲームでもFPSでもカードゲームでもいい。「熱狂的な阪神ファン」と同じように「熱狂的なFPSプレイヤー」もいる。
 しかし上述のように、「熱狂的な阪神ファン」は多くのお金を支払ったとしても、ゲームのファンは熱狂的だろうがニワカだろうが、同じ1人の視聴者なのだ。ゲームのファンが多くの料金を払うことがなくはないのだが(プロチームのグッズ購入など)、基本的な視聴という興行においては、等しい価値を持つ「1」という数字でしかない

 だからこそ、「わかりやすさ」や「興行に向く/向かない」といった話が議題に上がることになる。
 極端に言えば、どんなにeSportsの競技の質を上げたとしても意味がない競技の質を上げるということは、一見するとわかりにくくなるという意味でもある
 king halo氏のカードゲームについての記事でもあるように、競技性が高まるほど、素人は凄さがわからなくなる。上述したような野球観戦や高級な料亭の場合だと、それが価値となりうる。ハイレベルな試合を勝ち抜いてくれることに球団のファンは喜びを覚えるし、質の高い料理を少数人で愉しむことが高級な料亭では可能である。だからこそ、それらに多くの代金を払うのだ。

 高級な料亭が、味音痴にもわかるようなジャンクフードを提供するべきだとか、料金を下げて学生などの客も増やしたほうが良いと言われることはない。そんなことをすれば、高級な料亭の価値が無くなる

 しかし、ネット上の視聴興行は質の高さが価値にならない。低レベルでも高レベルでも、基本的に視聴者は料金を払わない。同じ「1」という数字だ。eSportsが興行的に成功しているということは、少人数がハイレベルな試合を観戦しているということではない。レベルに関係なく、一人でも多くの視聴者が見ているということだ

5.だから、「つまらない」のだ。

 本稿のタイトルは、「興行目的のeSportsはつまらないんだよ」である。ここまで読んでいただけたなら、その意味することがわかっていただけると思う。

  eSportsが興行目的でないならば、面白いものだし、「スポーツ」のような素晴らしいものであると私は思っている。そのあたりは上に挙げた私の過去の記事で述べている。

 プロ野球を観戦し、贔屓球団をもって楽しむということは、様々な複雑な要因を楽しむということでもある。複雑な野球のルールを知り、球団の選手たちを知り、相手チームの特色を知る。相手チームもプロであり、一流選手である。その投手から贔屓球団の若手がホームランを打つことが、ファンの喜びとなるのだ。
 プロ野球が、「打ったー!やったー!打たれたー!ちくしょー!」という単純なものならば、私は観戦したりしない

 しかし、eSportsが興行的に成功するということは、質が高くマニアックであることとは背反する。誰にでも一見してわかるようなことが求められているらしい
 競技というのは、成熟していくほどレベルが上がり、特に「プロ」と呼ばれる人たちの能力は一般人に手が届かないものになるし、作戦等が素人に簡単にわかるようなものではない。
 興行的に成功することが、「わかりやすい」ことであるならば、それは「単純で浅い」ことであり、それは「つまらないんだよ」。これが本稿の主張である。
 ただ単にシンプルな娯楽としてゲームを楽しむのではなく、ハイレベルなプレイングスキルや戦術を用いた試合を楽しむことが、eSportsと呼ばれるようなものではないのだろうか。
 それを、わかりやすいほうがいいとか、一見してわからないのはダメだとか。それは、「つまらないんだよ」。

補足:「eSports」の「興行」でなければもちろん問題はない

 タイトルの通り、「興行目的のeSports」がつまらないというのが本稿の主張である。普通にゲームを楽しんだり、配信を楽しむというのはつまらなくない楽しいものだ。配信者の方々には、多くの人を集めて楽しい配信をしていただきたい。
 興行目的でなければ、eSportsももちろん楽しいものだ。プロと呼ばれるハイレベルな人達によるスーパープレイを見て楽しむことができる。先にも述べたが、「何が起こってるかわかんねー!」ということさえ楽しむポイントとなりうる。

 あるいは、私が過去の記事でも書いたように、eSportsは一般的なスポーツのように、部活のような活動を通して教育の目的になることも可能だと私は思っている。それに関しても、興行からはかけ離れているからそういう主張をしている。
 中学や高校で部活に勤しんでいる人は、99%の人は興行(プロ)のためにスポーツを楽しんでいるわけではない。eSports(ゲーム)においても、興行関係なく競技として楽しむことはいくらでも可能だ。

 それが、ネット上の「視聴」興行が目的となってしまうのならば、途端につまらないものへとなってしまう。eSportsとは、誰でもわかる簡単なものを、カジュアルに楽しむようなものなのか?私は、そうではないと思う

 これも私の過去の記事で書いたことだが、eSportsは「プロありき」の「興行目的」のものである必要はないと思っている。「eSportsのこの種目はプロとして儲かるから成功で、儲からないから失敗」というものではない。
 一般に言うスポーツも、水泳や陸上競技はプロリーグなどないが、多くの人達が競技を楽しんでいる。それは興行目的ではないし、簡単でわかりやすい必要など無い

 初めに紹介したking halo氏の記事でも、同じようなことが述べられている。そもそも記事のタイトルが、「カードゲームは競技プロ化、eスポーツに向いてない」というものである。そして、再び引用するならば、「プロ化して職業になることがカードゲームのゴールじゃない」と、私も思う。
 (氏と私のeSportsという言葉の使い方が違うのでやや語弊が生じるが、私はeSportsを「プロ」という意味だけではないと思っているので、カードゲームは競技プロには向いていなくとも、「eSports」に向いていないとは思わない。)

 ここ数年、eSportsの「バブル」的な状況であると言っていいだろう。「プロ」と呼ばれる人たちが人気を博し、多くの大会が開催されてきた。
 しかし、それはあくまでも「バブル」だ。興行として、文化として定着しているものではない。はっきり言えば、それが興行になるかどうかなんてわからないし、無理だとしても何らおかしくはない。

 わかり易かろうが、競技のレベルが高かろうが、観戦して面白くない競技なんて山ほどある
 例えば私は「麻雀」についてはある程度の熟練者であるが(上級者ではないけど)、プロの麻雀はほとんど見ない。見ていても面白くないのだ。Mリーグというものが始まり、チーム戦という要因で多少の面白さはあるが、それでも麻雀の内容を観戦していて面白いとはあまり思わない。
 Mリーグは今の所、ある程度の成功を収めているようだが、eSportsにおいては、無理なものは無理であると思う。そのタイトルを興行的に成功させたいと思っている人や団体も多いだろうが、「レベルの高さ」や「面白さ」との両立はできるのだろうか。多くのゲームでそれができていないから、多くのタイトルで今ひとつeSportsという興行が成り立っていないのである。

追記:
 
高級な料亭は、多くの金額を払ってくれる人たちを対象にすることで成功することができる。では、eSportsも多くの金額を払ってくれる人たちを納得させられればいいのではないだろうか。
 それが、もしかしたら「学校」や「税金」かもしれない。私の思うような、eSportsが他のスポーツと同様に、「部活のような教育のためにもなる競技活動」という方向性で発展していけば、あるいは。飛躍しすぎか。

補足2:単純視聴だけでない楽しみ方が広がれば、あるいは。

 GDP(国内総生産)のうち、スポーツだけを集計したGDSPというものがある。この調査によると、2012年の日本全体でスポーツに使われたお金のうち、興行はわずかに4%である。
 用品・施設・旅行・教育・情報などの様々な項目があるが、興行はそれらのどれよりも低い割合である
 
 一般的なスポーツというものは、プロの視聴興行だけにお金が動いているわけではない。プレイヤーが用具やウェアを買ったり、施設を利用したり、指導を受けたり、新聞や雑誌などを買う
 そのようなお金の動きが、現状のeSportsには殆どない。

 今のところeSportsの殆どは、YouTubeやTwitchの配信の一種のような仕組みでしかお金を集められていない。
 動画や配信を見る人が多ければ勝手にスポンサーが付いたり広告料で稼げると勘違いしている一般視聴者も多いようだが、単に一人のYouTuberや配信者でなく、eSportsという競技に関わる人たち全員に十分な給料を払うだけの広告料を集めるのは、なかなか厳しいだろう。

 eSportsの楽しみ方が、YouTubeやTwitchのチャンネルの一つのようなものであるのならば、なかなか無理がある。
 eSportsも一般のスポーツのように、ただ動画や配信を見るだけではなく、自分たちでプレイすること、指導を受けること、施設を利用すること、情報を集めることなどに価値を感じる人が増えれば、あるいは、「プロ」側がそういうことに価値があるということを示していけば、価値を作っていけるのならば、eSportsはただの視聴興行ではなく、もっと大きな規模で経済に関わっていけるはずだ。

 まあ、無理だろうけど。そういう需要も供給もないだろうし。

後記:つまらなくなるのは、eSportsだけではない

 ここからは、完全に私のワガママである。内容について、不愉快に思われる人も多くいるかもしれないが、こんな面白くもない長文を読んでいただいた方なら、理解してもらえるかもしれない。

 「深夜番組がゴールデンに進出したら面白くなくなった」というようなことは、よくあることである。「インディーズバンドがメジャーデビューしたら、大衆受けするつまらない曲ばかり発売するようになった」でもいい。

 あるいは一昔前に、スマホゲーム、いわゆる「ソシャゲ」が大流行した。何でもソシャゲとして展開され、おびただしい数のクソゲーが乱発された。今ではある程度落ち着いてはいるが、それでも「課金ガチャゲー」に不満を持っている人は多いだろう。特に、ゲームが好きな人は
 ゲームをやる時間がなかったり、プレイングスキルがなかったり、そもそも大してゲームに興味がない人たちを取り込むのは、そのやり方で正解だったといっていい。しかし、経済的に成功していても、ゲームとしては「つまらない」

 ネット上の興行的な成功により、つまらなくなるのはeSportsだけではない。人気なものに迎合しないという逆張りをかましたいわけではない。良いものは良いし、そういうものはやはり人気が出る。しかし、人気を出すために大衆受けを狙うこと、すなわち「レベルを下げる」ことを初めてしまえば、それは「つまらない」ものになる

 何かと話題なアンジャッシュの渡部氏だが、それについては今は関係がない。
 このリンクの記事だけでは番組やアンジャッシュを知らない人はわかりにくいと思うので解説を入れると、アンジャッシュのコントは「お互いが状況を勘違いしていることにより成立しているようでチグハグな会話」が面白いポイントである。
 しかし、「エンタの神様」というゴールデンの番組でそれを放映する際、台詞や状況のテロップが入るようになってしまったのだ。「児島は○○だと思っている」「渡部は××だと思っている」といった解説や、それぞれの台詞の字幕を入れて、わざわざ説明しているのだ。

 記事にもあるように、渡部氏はそれを耐え難いと感じていたようだし、そう思う視聴者もいただろう。しかし、ゴールデン帯で、多くの人にわかりやすいものを目指してしまうと、そうなってしまったのだ。


 インターネットは、かつてはマニアックな場所であった。それがいつの間にか、大衆受けを目指す一般的なものになってしまっていた。まさか、ネット上で「オタクがキモい」と言われる時代が来るとは思ってもみなかった。

 ゲームの話でも、「APEXのようにPS4でもプレイできるカジュアルなものでなければ流行らない」などと、まさかFPSというジャンルのゲームで言われることになるとは。流行るかどうかなんて、どうでもいいでしょ消費者は
 しかし、繰り返しているように、ネット上の興行は質より量が全てである質を高くすると、わからなくなるからダメらしい。つまらないね。


追記 後記2:eSportsは「どのような」楽しみか

 記事を書いてからしばらく経ち、eSportsというものは様々な発展を遂げている。
 もちろん発展は喜ばしいことだが、私が考える「ゲームの競技的な楽しみ方」というものだけでなく、ゲーム関係ならなんでも「eSports」と呼ぶようになってしまっている気もする。
 動画や配信、SNSでの流行など、ゲーム関連の様々なコンテンツをすべて「eSports業界」とみなし、「eSports業界は盛り上がっている」というような調査報告もある。

 「eSports」という名前で様々に展開し、プレイし、楽しんでいる人たちに私が問いたいのは、「eSportsはどのようなコンテンツか?」「どのような価値・楽しみを見出すのか?」ということだ。

 本文でも例に出したが、例えば高級なレストランの価値は美味しい料理、いい雰囲気、快適な接客などがある。それを求めてレストランに行き、やや高額な料金をレストランに支払う。
 逆に牛丼屋ファストフード店にそのような価値を求める人はいないだろう。そういう店はそういう価値を求めて利用する。
 
 高級レストラン「若い学生の客を増やすために飲み放題プランを作った方がいい」という指摘をするのは的はずれだ。高級レストランは「そういうものじゃない」から。
 逆に、過去にマクドナルド高級路線に舵を切ろうとして何度か失敗していた。客はマクドナルドにそういうものを求めていない。

 では再び、eSportsはどのような価値・楽しみを見出すものなのだろうか
 それは自身でプレイすることもだし、何らかの仕事とする場合でも、一人のファンとして観戦を楽しむことも含まれる。

 私は、eSportsは他のスポーツのような、時間・お金・労力・能力を費やすだけの価値がある素晴らしいものになれると思っているし、そういうふうなeSportsを観戦・応援したいと思っている。

 年をとった今ではそうでもないが、私も若い頃はかなり趣味に時間もお金も労力も費やしてきた。家賃2万のアパートに住み、食費を切り詰め、さまざまな趣味に没頭していた
 サッカーを毎試合観戦に行き、自転車に乗り、麻雀を打ち、ゲーセンに通い詰めていた。それらには、それだけのものを費やすだけの価値があると私は思っていたからだ。

 一方で、もちろんそこまでの価値を求めていないようなものもある。私はあんまりソシャゲに熱中する人間でもないので、課金をせずにログボやデイリーミッションだけこなし、たまにガチャが引ければ良い、ぐらいのゲームもある。
 ゲームの動画や配信だって、なんとなく見るだけというものがほとんどなので、いわゆる「投げ銭」や「メンバーシップ」や「サブスク」のようなものはしたことがない。

 では、みなさんにとっては「eSports」というものはどういう楽しみ・価値をもつものだろうか。
 生活を費やしてでも行うほど熱中・熱狂するほどの価値があるものなのか。あるいは、なんとなくこなしているソシャゲと同じようなものなのか。
 甲子園球場に巨人対阪神の試合を観に行くようなものなのか、あるいは好きな配信者がゲームやってるのを横目で見るようなものなのか。

 先に、「高級レストランに『若い学生の客を増やすために飲み放題プランを作った方がいい』という指摘をするのは的はずれだ」と述べた。
 では、「興行目的のeSportsはつまらない」と指摘するのは、果たして的を射ているのか、的外れなのか

 この記事は思ったよりも多くの人に読んでいただき、良い評価を頂いている。
 それを鑑みると的を射ているようにも思えるが、それはこういう長文記事を読んでくださる読者の方の思惑と一致したというだけで、やはり一般的には、そうではないだろう
 「eSports」という名前が付いたものに対する価値や楽しみは、「そういうもの」ではないと、一般的には思われている。


 はじめに公開してからしばらくたったし、記事全体を書き直したい。
 最後の「追記 後記2」の内容だけで、この記事の全文よりも長い記事を書いてたんだけども、割と一方的な批判の内容ばかりになるので公開するのはやめました。

 「倍速映画」の時代だからね。「倍速eSports」の時代なんでしょう。
 「eSportsはこうすれば流行る/こうだから流行らない」みたいな話がよくあるんですけど、「流行るかどうか」って価値観や楽しみ方が根底にある時点で、「そういうもの」なんでしょう

 私のような老害オタクの意見が正しい必要はありません。未来をつくるのは若者です。


2021/06/05 山下

2023/02/13 「追記 後記2」を追記。

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