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休養 入浴法

疲労回復のための休養方法として、睡眠、瞑想について紹介しましたが、この二大休養法に匹敵する効果を発揮する休養行為がもう一つあります。
入浴です。

日本人は世界一の入浴好きだと言われます。
時事通信社の調査によると、お風呂が「好き」「どちらかといえば好き」な人は、合わせて94.8%にも上り、入浴頻度では「毎日」が75.5%と、圧倒的多数を占めています(2005年20歳以上男女2000人を面接聴取)。
われわれ日本人としては、この結果は当然の事のように思えるかもしれませんが、バスタブに毎日浸かる習慣が一般的に定着している国は、意外にも日本の他にはあまりありません。

江戸末期、開国したての日本にやって来たイギリス人外交官は、日本人が毎日お風呂に入るのに驚き、
「1人のヨーロッパ人が1回入浴するよりも、100人の日本人が一つの浴槽に浸かる方が湯の汚れが少ないだろう。日本人は世界で最も清潔な民族と言える」
と書き残しています。
イギリスは1848年世界各国に先駆けて「公衆衛生法」を制定した衛生先進国であったにもかかわらず、入浴の習慣についてはなかなか定着せず、現代に至ってもなお「もう2年間、頭を洗っていない」とコメントしたヘンリー王子を筆頭に、毎日入浴しない人が多いようです。
イギリスの水道水は、カルシウムやマグネシウムの含有量が多い、硬水の地域がほとんどで、生のままの飲用に適さず肌や髪の毛がゴワゴワになりやすいのも、入浴回数が少ない理由の一つだと思います。
日本列島には水資源が豊富にあり、水道水もほぼ軟水で蛇口からそのまま飲むことができますが、世界中の国々で飲用に適した水道水を供給しているのは、オーストラリアやニュージーランド、カナダなど、わずか15か国に過ぎないそうです。

日本では古来より、神道の「禊ぎ」や、仏教寺院の「施浴」という習慣があり、たくさんの種類の温泉に恵まれた自然環境で、入浴が当たり前のようになっています。
平安時代の京都には「湯屋」が作られ、江戸時代には、下半身を湯に浸し上半身に蒸気を浴びる、「戸棚風呂」方式の「銭湯」が繁盛しました。
明治期になると男女混浴が禁止され、男女別の広く明るい空間で、大きな湯船に浸かる「改良風呂」が登場して人気を博しました。
大正期にはモダンなタイル張りや、富士山のペンキ絵が描かれた銭湯が生まれ、昭和期に入ると押せばお湯の出る「カラン」が備え付けられました。
終戦後テレビの本放送が開始されると、一般家庭では手の届かない高額の受像機がいち早く脱衣所に設置されるなど、銭湯は近隣に暮らす庶民にとって無くてはならないコミュニティ・スペースとなりました。

各家庭に内風呂が備わっている現代では、毎日銭湯へ通う人も少なくなり、1968年には全国に18,000軒を数えた町の銭湯も、2018年には約2,300軒と、この半世紀で8分の1にまで減りました。
しかしその一方で、普段使いではないスーパー銭湯や日帰り温浴施設の数は逆に増えており、1980年の8,004軒から2015年には16,892軒へと倍増しています。
露天風呂やサウナ、ジャグジー、岩盤浴など、色とりどりのお風呂に入り、食事やマッサージなども楽しめる、日帰り温浴施設でのひとときは、現代日本を代表する庶民的レジャーとなっており、日本人の風呂好きの象徴とも言えるでしょう。

入浴には、一般に次のような効果があると言われています。
1. 温熱効果
2. 静水圧効果
3. 浮力効果
からだを温め、適度に刺激し、重力の束縛から解放されることで、自律神経のバランスが整いリラックスできるのです。
東京都市大学人間科学部教授で、温泉療法専門医の早坂信哉博士が、静岡県の住人6,000人を対象に行った調査によれば、毎日お風呂に入る人は、毎日入らない人に比べて、「幸福度」が約10ポイント高いということです。
日本人の入浴好きも当然だと納得できる結果ですが、入浴効果の詳細やその理由、気をつけるべき事などについては、次回のテーマといたします。


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