居心地のいい場所から一歩踏み出す


「ヤマガヒ」の稽古が2週目に突入しました。

本番は来月12月21,22日なのであと1ヶ月とすこしの準備期間です。

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この舞台は、山梨県甲府市に伝わる「天津司の舞(てんづしのまい)」という人形神楽からインスピレーションを得て書かれ、2018年7月に初演されたオリジナルの音楽劇です。

「天津司の舞」自体、かなり謎の多い文化財で、はっきりとした成立年もわかっていません。だいたい今から600〜900年前に生じたというのが通説になってますが、そこには300年のギャップがありますからね。300年って・・・。

山梨県には「湖水伝説」という言い伝えがあります。

盆地地形の甲府にはむかし、たっぷりと水が張っていて人が住めるような場所ではなかった。けれどそこに神様が降りてきて、山を蹴り飛ばして水を抜き、人が住めるようになった、という。

「天津司の舞」も湖水伝説との関連があると指摘されることがありますが、その辺もはっきりとはせず。

「むかし、十二体の神様が降りてきて、二体の神は天にかえり、一体は水に沈み、残りの九体が舞楽を奉し続け、それによって土地が拓けた」

というのが「天津司の舞」のお話、だと言われています。

現在残る人形神楽にも、九体の人形が登場します。

ちなみに、「ヤマガヒ」の主な登場人物は12人です。

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この芝居は、日常私たちがテレビや映画で見るような、筋のわかりやすいお話ではありません。商業ミュージカルの多くにあるような英雄譚や恋愛物でもありません。

劇作の技法としては、不条理演劇的な要素や、表現主義的な要素を使っています。

よくいう「アタマじゃなくってカラダで感じる」みたいなやつです。

ただ、モチーフになっている「天津司の舞」も然りですが、劇作上の要素として、日本の伝統芸能や日本固有の文化からインスピレーションを受けて構築した要素をふんだんに組み込んでいるので、

むしろ日本という国で生まれ育った人には、受け取れるものがたくさんあるんじゃないかなあと僕は思っています。


「ヤマガヒ」の物語の筋としては、

三方向からやってきたそれぞれ別の種族が山間の土地で出会い、湖をめぐって対話をする

というのがメインの流れです。

こういうことって、いくらでもありますよね。日常生活の中で。

複数の中学校から入学生がくる高校の新年度の、スクールカースト上位の取り合い、とか。

電子決算が政策で推進されたときに、どの会社が大手のシェアを取るかの戦い、とか。

それなりの人数での飲み会やパーティで、気になっている人の近くの席をどう確保するか、とか。


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今回も前回と引き続き僕は、歌唱指導も担当しています。

「ただ音をとって、歌い方を指示する」に終始しないように、よりクリエイティブな歌唱指導としての関わり方を大事にしようと思っています。

戯曲を読み、そこから生まれた楽曲たちの楽譜もきっちりと読み、劇作家と作曲家の意図や思いを汲み取り、それをパフォーマーたちにきちんと伝えること。

「ドレミは読めない」というハードルを持っている役者たちにも、「楽譜に目を向けて、そこから何が読み解けるかを考えよう」と問いかけ続けること。

音楽的側面からも、作品の表現の強度を上げられるようなアプローチをしたいと思っています。

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「ヤマガヒ」という作品は、「湖のある山間の土地に、三方からやってきた種族の違う人々の話」であると同時に、

「激動の時代に生み落とされ、限られた資源をシェアしながら、あるいは奪い合いながら生きている私たちの話」でもあります。

この話を見たからといって、ほっこりと温かな気持ちになるわけでは、恐らくないでしょう。ハッピーな気持ちになる人は、ごくごく少ないと思われます。

けれど、僕らはひとりでも多くの人にこの作品を見てもらいたいと強く思います。

なぜならば、「僕らはいま、この場所で、どう生きるべきか」という問いは、これからのこの国に、あるいは僕らに、必要不可欠な問いだからです。

「ヤマガヒ」の根底には、この問いが横たわっているのです。

「僕らはいま、この場所で、どう生きるべきか」


大きな震災を経験し、科学の暗部にも直面し、度重なる台風にボロボロになり、政治と経済は混沌としていくなか、いま僕の住んでいる国はいまだに、「21世紀中盤をどのように生き抜いていくか」の明確なヴィジョンを打ち出せずにいます。

対立を煽り、格差を作り、富を巨大化し続け、一方が他方を支配することで秩序を保たざるを得なかった時代はもう終わりを告げているはずです。

新しい生き方を見つけなければいけません。

過去の栄光や居心地の良かった場所から足を踏み出し、未知なる領域で試行錯誤をしなければなりません。

それこそがこの国に、いまの僕らに必要な「行動」であるはずです。

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居心地のいい場所から一歩外へ踏み出す勇気。

その勇気を胸に、稽古の時間に向き合っています。

ぜひぜひ、ご観劇いただけたらと思います。


生演奏創作音楽劇ヤマガヒ〜とうとう〜山梨に根付く古来の物語をもとにしたオリジナル音楽劇。 『演劇×舞踊×和楽器』のコラボレーションを生演奏でお届けします。 公lake-of-culture.tumblr.com


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