辰巳芳子さんと梅のこと


辰巳芳子さんの本に出会ったのはいつだったか。

たぶん高校の頃だと思うんですが。

なにがきっかけで出会ったのかもはっきりとは覚えていないんですが、もしかしたらNHKかなにかのテレビで辰巳さんの鎌倉でのスープ教室の様子が放映されて、それを見たのかもしれません。


僕が料理を好きになったのは小学校の高学年の頃でしたが、もっと小さな頃から台所仕事をしている母のところへ遊びにいって、ピーマンやにんじんの切れ端を口に入れてもらったり、ときにはじゃがいもを切らせてもらったりするのが好きでした。

大のテレビっ子として育ち、休みの日はほとんどテレビを見て過ごしましたが、そのなかでも料理番組を見るのが好きでした。

母は栗原はるみさんのレシピ本を何冊か持っていて、中学生になってからは時折、そのレシピを参考に料理をしてみたりしました。

そうやって好き勝手に料理をしているうちに少しずつできることが増えてきて、けれど「味が決まらない」とか「どうにも形や色が悪くなる」という「うまくいかないこと」も相変わらずたくさんあって、どうせならもっとうまくなりたいなと思っていた少年時代だったように思います。


そんなときに出会った辰巳芳子という料理研究家は、僕にとって神の啓示のようにうつりました。合理的な説明、派手さはないが本質的なところを的確に捉えたレシピ、食材の「命」や食べる人の「命」に心を寄せる姿勢、それでいて堅っ苦しくなく柔らかな語り口。

その放送を見たあとに、図書館から辰巳芳子さんの著書を借りてきて、何冊か読んだと思います。

きっとみなさんにも読んでいただけたらと思うんですけれど、辰巳さんの紡ぐ言葉はとっても温かいんですよ。料理とは、食材を扱い、人の命を育む仕事であるという矜恃からか、たしかにそこに向けられる視線は厳しさもあるのですが、でもそれは冷たいものではない。料理ができない人への非難は、そこにはないのです。


いまでも僕の料理の端々には、辰巳さんの著書から学んだことが織り込まれています。

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