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私の好きな短歌、その31

われの身のがものならぬはかな日の一年とはなりぬ日暮待ちし日の

 松倉米吉、『松倉米吉歌集』より。(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p189)

 当時作者は金属メッキ工場の職工である。すなわち一首は、自分の身が自分のものではないかのように、仕事をこなすだけの毎日が積み重なり、そのまま何も変わらずに一年が過ぎた、ということ。「はかな日」が結句で「日暮れ待ちし日の」と言葉を変えてより具体的になって繰り返され、厳しい現実を思わせる。これを読んでいる私自身も毎日仕事が終わるのを待ちながら働いている。そして一年が経ち、二年が経ち、すでに五十代となった…。「はかな日」の集積としての人生か。一首は一本の矢となって現実を私の胸に突きつける。この鋭さは短歌の力だと思う。下二句の字余り、現実へのもどかしさを感じさせて効果的。

 歌集は死後の1923年、大正12年に、仲間たちによって刊行された。作者生没年は1895年(明治28)ー1919年(大正8)、享年25歳。

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