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私の好きな短歌

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私が好きな短歌を紹介します。主に大正、昭和の歌です。時々現代のものも。
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#関東大震災

私の好きな短歌、その7

遠近の烟に空や濁るらし五日を経つつなほ燃ゆるもの

 島木赤彦、歌集『太虚集』より(『日本の詩歌 第6巻』中央公論社 p62)。

 「関東震災」中の一首。詞書に「九月三日信濃を発し五日東京に着く。六日下町震災中心地を訪ふ」とある。一首から、焼き尽くされた街の様子が目に浮かぶ。五日を経ってもなお物が燃えている、厳しい状況だ。三句で切って結句を体言止めとして、呆然とした人のやるせなさが描かれ、感情を

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私の好きな短歌、その2

中村憲吉、歌集『しがらみ』より(中央公論社『日本の詩歌 第6巻』p203)。

国こぞり電話を呼べど亡びたりや大東京に声なくなりぬ

 「関東大震火災」中の一首。当時作者は大阪毎日新聞の経済部記者として働いていた。詞書に「大阪にて関東大地震を感じたれど、未だ大災害の起れるを知らず。ただ総ての通信機関その活動をとどめ、夜に入るも帝都の音信伝はらざるを怪しみ、人人初めて不安の念に駆らる」とあり生々しい

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