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宮柊二の歌(「私の好きな短歌」より)

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2022年1月の記事一覧

私の好きな短歌、その44

朝に夕に苦しみ過しし一年のある日道路に蜆買ひけり

 宮柊二、『小紺珠』より。(『宮柊二歌集 p63』岩波文庫)

 1948年(昭和23年)刊行の歌集『小紺珠』の中の、「一年」という題を掲げられた一連の中の一首。「一年」とは、敗戦からの「一年」という意味。一首の前には「直かりし国の若きら面振らず命を挙げて修羅に死にゆきぬ」という歌がある。戦争、敗戦の衝撃はまだ生々しく、苦しい時代だった。その一方

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私の好きな短歌、その43

ひきよせて寄り添ふごとく刺ししかば声も立てなくくづをれて伏す

 宮柊二、『山西省』より。(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p371』)

 衝撃的な歌である。中国大陸での戦闘の歌で、まさに人を殺害する時を歌にしている。読者はどこに共感すればいいのか。短歌としての定形に即したこの文字列の背景、その事実の瞬間は血なまぐさい、およそ和歌的に優雅などとは言われぬ、残酷な命の奪い合いの瞬間なのである。

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