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美しい革の名刺入れを直した記録-kawa-tsugi

初めまして、の不安とドキドキの時間を自分と一緒に共有してくれるパートナーなので名刺入れって身の回りのアイテムの中でも自分の中では特別なひとつだなーと思っています。自分は緊張しいなのでとりあえず名刺入れがあるとなんとなく安心します。そして ない時の不安感。。。


ある日預かった、大切に使ってきただろう革の名刺入れ。
新しい物がたくさん溢れる時代に、使ってきた物を直して使いたいという気持ちになんだか同志を得たような嬉しさを感じ、手の中でとても美しいなと感じ、修理させてもらいました。
このnoteは ちぎれてしまった部分に革継ぎをして修復した、記録として。

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どうやって直すか

こちらの名刺入れ、マグネットホックという留め具で開閉する形式のものだったのですが、とても手の込んだ作られ方をしていて、1枚の革を厚みを半分に割き、その中にホックを仕舞い込むという形をしていました。

革には銀面と言って一番外側の、繊維が細かく強い層があるのですが、作られ方の特性上、その銀面がない部分にホックのパーツが取り付けられる形になって負担のかかる部分が破れてしまっていたのだろうと思います。
(この辺、伝わっているのかどうかわかりません、、詳しく知りたい方いらっしゃったらコメントか何かでお知らせを、、)

革継ぎする前の名刺入れ
縫い目のない美しいデザイン。。

破れた部分を元の通りに戻すのは不可能なので、革をあてがって補強することにしました。その際縫いを入れることも考えましたが、元のプロダクトの美しい形をなるべく変えないように、今回は縫わずに仕上げることにしました。

継ぐ革の形

ちぎれた元の形から、継ぐ革の形をデザインします。ここでも元の形を尊重。ホックのパーツの凹凸に合わせた穴もきちんと。

継ぐ革の形をデザイン

ちなみにお気に入りの鉛筆はPalomino Blackwingの602-Firmというもの。色を濃く出せるのに力は要らず、でも濃い芯の鉛筆に多い柔らかすぎるということがなくシャープな線も引けるバランスが心地よくて、色々試してもやっぱり戻ってきてしまう鉛筆です。
鉛筆にしては高いですが名だたる芸術家が愛してきたというのも納得。。定番の他に限定モデルなども出ていますので興味があれば使ってみてください。みているだけで楽しいです。

パロミノブラックウィングというお気に入りの鉛筆の写真
芯の部分を長めに削って使うのが好み。

継ぐ革の条件

裏のパーツには床革という先程説明した銀面のない革を使うこともあるのですが、丈夫に仕上げたかったのでしっかり繊維が詰まっていて 薄く漉いても大丈夫な、ハリのある「CRUST」というイタリアンレザーを使いました。

条件は
・薄く漉いてもしっかりしていること(硬いだけではなくしなやかさも必要)
・自然な経年変化をすること(修理した部分も一緒に育つように)
・色が近いこと
・環境に配慮して作られた革であること

修理用のパーツに使うには勿体無いくらいのいい革ですが、国内外色んな革を比べて決めました。


パーツ作りの工程

デザインした型紙を写し、穴を開け元のパーツを取り付けます。

革に穴を開けている写真
穴は垂直に近い穴が開けられるようポンチではなく、プレス機を使いました。
マグネットホックを取り付けた写真
元のホックを取り付け。
ナイフで革を切り出したところの写真
引っかかりのないラウンド形にしました

継ぎ革部分をナイフで切り出します。銀面を凹ませたくなかったので裏からカットしています。(通常は銀面(革の表)を上にして切ることが多いです)

革の縁を薄く漉いている写真
削っている途中

なめらかに繋がるように、継ぎ革の縁を可能な限り薄く漉きます。

本体の処理

前についていた接着剤をやすりで削り落とします。革が伸びてしまわないように短いストロークで丁寧に。

革に付いた接着剤をヤスリでけずる写真

「縫い」なしで仕上げることにしたので、ピタッときれいに整えられていたフラップの周辺部分ものりの食いつきを良くするために荒らします。

ヤスリで荒らした革の床面の写真

接着します

のりをつけているところの写真を撮り忘れましたが、、

革を水性のりで接着したところの写真
接着。この状態で1日以上開けます。

溶剤系ののりを使うともっと早く、強く接着できるものもあるのですが、乱暴な気がしてあまり好きではないので(臭いし。)私は専ら革用の水性ののりを使っています。
その分乾かすのに時間がかかったりはしますが、人にも環境にも優しいならそっちの方がいいなと思って選んでいます。


以前ヨーロッパの職人さんが ものづくりの工程で大切なものの一つとして「時間」を挙げていて、「時間がかかってしまう」のではなく、時間も大切な資源でありそれを縮めようとするのではなくきちんと使うことでしか得られない物が確かにあるなと心を打たれたことがあり、それ以来ショートカットや効率化に傾きがちな姿勢を少し改めて時間ともっと仲良くなりたいなと思っています。

カット

良く切れるナイフでスパッと。

革をカットしたところの写真
カットしました。
革の縁を丸く落としている写真

カットしたままの革は角が尖っているのでそのままだとすぐに捲れてしまいます。
なのでエッジをほそくカットします。 カットしすぎると形が変わってしまったりするので本当にほそーく。

ピンボケ😭

コバの保護

切ったままの革の断面は水に弱いので専用の塗料で保護します。
綿棒やフェルト、真鍮の専用ツールで塗る方が多いですが、私は高校から使っている製図用のガラス棒を使っています。
ちなみに、ガラス棒は少量の塗料を混ぜる際なんかにも便利です。(筆や綿棒で混ぜてしまうと気泡が入ってしまうことがあるので)

革のコバに塗料を塗ったところ
ぷっくり。


一度塗って乾かし、を5回ほど。ぷっくりするくらい重ねます。
この時乾く前に塗ってしまうとあまり綺麗に仕上がりません。
(ネイルと同じですね。。私はコバは待てますがネイルは待てないので乾く前に塗ってしまい大抵失敗します)
言うの忘れましたが修理前についていた塗料は先にはがしてあります。

コバに塗った塗料を乾かしているところ
それにしても美しいプロダクト

コバ(革の断面のこと)だけピカピカだとおかしいので、マットに仕上げます。

修理が仕上がった革の名刺入れ
色も馴染んでくれたみたいです


革にホースオイルを塗ったところ

最後にカビや汚れから守ってくれる天然のケア剤「ピュアホースオイル」を塗布しておしまいです。

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直すこと

今回なぜこんなに詳細に革継ぎの過程を記録したかと言うと

普段ものづくりをしている自分が「直すこと」に新しい物を作る時とは違う 静かなjam session感-- のような創造性を感じ、レコーディングしてみようと思ったからです。

-人生は途中参加- って誰かが言ってて  始まりと終わりとが緩やかに連なっていく時の流れの中でこうやって継いでいけるというのはとても心地よいことだなあと そんなことを思ったのでした。

とても心が澄んだ時間でした。
ありがとうございます

#革とナラティブ
#革継ぎ
#革セラピー


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