上演台本「お別れの挨拶にかえまして」

はじめに

先日、新型コロナの影響により、5月に予定していた公演「おうちにかえる・オブ・ザ・デッド Take2」が無期限延期になりまして。

延期自体はもうしょうがない事と受け入れてはいるのですが、きっちり赤字が発生しましてん。

そこで、note上で今までの上演台本を販売しようと思い立ちました。今現在、多くの劇作家が無料で台本公開している中、有料でごめんね!ちょっとでも赤字を回収したい一心です。あと、基本的に上演台本は物販で売っているので、あんまり無料で出したくないんだ。わりと買ってくれた人いるし。

今回は一応有料設定になってますが、最後まで読めます。何せネットで公開するのが初めてなので、テストのつもりです。なお、期間は決めてませんが、しばらくしたらこの台本も有料に切り替えるかもしれません。読むなら今ですよ!次回からは途中まで無料で読めて、その先は販売、という形になると思います。

台本について

2019年の年末に行われた、guizillenという劇団の主宰・佐藤辰海さんによる「佐藤辰海演劇祭」で上演された短編です。なんと賞金総額100万円!どんどん規模を大きくしているguizillenとはいえ、小劇場の一劇団が出すには破格の賞金!舞台裏では参加団体によるカイジさながらの頭脳戦が繰り広げられた、伝説の演劇祭です。公式には発表されていませんが、各参加団体平均2人が鉄骨から落下。

うちは惜しくも5票差で2位でした。(惜しい!)でも長男役をやってくれたシンクロ少女の横手さんが俳優賞(10万)取りました!(よかった!)

内容としては、久しぶりに実家に集まった4人の兄弟が、ポルシェで地元をうろうろする話です。本当にそれだけ。今まで書いたことないくらい地味なテイストの話なんですが、その分たいそう気に入ってまして、上演時間の都合上書き切れてない部分が多々あるので、そのうち中編にして再度取り組みたいと思っています。

今回は、上演の際に削った部分を復活させたノーカット版で載せたいと思います。

それではどうぞ。

「お別れの挨拶にかえまして」(ノーカットバージョン)

                        作・山並洋貴

登場人物
長男 タカシ 実家に住んでいる。無職。
次男 マサシテキサスでBBQソースを作っている。既婚。
長女 エミコ 結婚して、実家から少し離れたところに住んでいる。
次女 メグミ 都会に住んでいる。地元にはあまり帰って来ない。

 何もない舞台。
 上手下手奥側に出はけ口。
 舞台後方上にはキャットウォークがある。

 明転。
 パイプ椅子を持った長男、登場。 
 椅子を置き、手紙を読み始める。

長男 日の丸の旗を振ってあなたを見送ってから、どれくらい経ったでしょうか。勝って来るぞと勇ましく。御出征前に、あなたが歌っていたあの声を、今でもはっきり思い出します。

 次男、登場。 
 長男の正面にパイプ椅子を置き、座る。

長男 その後はいかがご奮闘されていらっしゃいますか。もうひと月もお便りが届きませんので心配しています。ご帰還なさってからの幸せを思って、寂しさを紛らわせようと努めておりますが、あなたがいらっしゃらないこの家は、まるで住み慣れない他所の家のように感じます。またお会い出来たなら、初めて出会ったときのように、もう一度私の名前を呼んでくださいね。春の艶やかな桜花、夏の新緑、秋の紅葉、冬の清らかな雪模様、四季のうつろいの中を、また2人で歩いてみたい。あなたと過ごしたこの家で、ずっとずっと、お帰りをお待ちしていおります。

 手紙を読み終えた長男。そっと手紙を閉じる。
 舞台はゆっくりと家の中に。
 兄弟の実家の土間。
 舞台上にはパイプ椅子しかないが、一応、台所、家族用の大きめのテーブル、冷蔵庫などがあり、奥には食料を置いておく小さな倉庫がある。そういうテイ。

長男 、、どう?
次男 、、どうって
長男 どう思う?
次男 、、、え、何それ 
長男 うん。見つけたんだ 
次男 どこで?
長男 あっちの、物置にしてる部屋
次男 ああ、じいちゃんの部屋だったとこ? 
長男 うん。雨漏りがすごくて、あの部屋
次男 えー。ほんとに? 
長男 これさあ、、

 玄関から長女の声がする。

長女 ただいまー。ねー!なんかすごい車止まってるんだけどー! 
長男 ええ?

 長女、パイプ椅子を持って登場。

次男 おお、お帰り
長女 あれ、マサシ兄ちゃん。久しぶりー!早かったね
次男 ぶっ飛ばして来たから
長女 あ、そうなの?
次男 飛行機遅れてさ
長女 えー
次男 あー、時差辛いわ
長女 ふふふ

  棚か冷蔵庫に何かを仕舞っている長女。

長女 ねえ、あれマサシ兄ちゃんの車?
次男 うん
長女 (長男に)なんかすっごい高そうなの! 
長男 え、マジで?
長女 そうだよ。スポーツカー?
次男 まあね
長女 どうなの?順調なのテキサス?
次男 テキサスって。仕事?仕事は順調だよ 
長女 だよねー、あの車だもんね
次男 あははは
長男 え?そんなに?そんなにすごいの? 
長女 すっごいよー。も、テッカテカ
長男 えー

 長男、出て行く。

長女 ねえ、メグミは?
次男 自分の部屋行ったみたいよ
長女 ごめんね、なんかリフォームのこと任せっきりにしちゃって 
次男 ああ、いい、いい。俺に出来るのこのくらいだし

 次女の声が聞こえる。

次女 タカシー!タカシー!
長女 どうしたー?
次女 あれー?エミちゃん?来た?
長女 うん。今
次女 ねー、タカシ知らない?
次男 今居ないよ。さっきまで居たけど、タカシ兄ちゃん

 次女、パイプ椅子を持って登場。
 4つの椅子が、食卓のように置かれている。

次女 マジで?
次男 どうした
次女 なんか、部屋めちゃくちゃになってるんだけど
長女 あー
次女 あれじいちゃんばあちゃんの?なんか色々置いてあって
長女 あれさー、移動したんだって。雨漏りすごかったから、あっちの部屋 
次女 えー、マジで?
長女 別にいいじゃん、もうあんたの部屋じゃないんだから
次女 だって、まだ私のもの置いてあるんだよ
次男 まあまあ。もうすぐ部屋自体無くなっちゃうから
次女 ああ、建て替え?
長女 リフォーム
次女 え?建て替えじゃないの?全然別じゃん、あれ
長女 ねー、、
次男 あれなー。お母さんの要望全部取り入れたから
長女 豪邸だよねー
次男 そうでもないって
長女 いや、すごいよマサシ兄ちゃん
次男 まあ必死でやってますから
次女 テキサスで(笑)BBQソース売って(笑)
次男 何だ。何だおまえ
次女 あははは
長女 シンディさん元気?
次女 シンディー!
次男 元気だよ
次女 会いたかったな、シンディ
長女 ねー。一緒に来れればよかったのに
次男 来れるわけないでしょ。俺、仕事だし。シンディ今大事な時期なんだから 
長女 あれ?もう生まれるんだっけ
次男 まだ。もうちょっと先
長女 楽しみだねー
次女 エミちゃんちの子っていくつだっけ?
長女 うち?8歳と5歳
次男 えー。もうそんなになるのか
長女 そうだよ

 なごやか。 長男、戻ってくる。

長男 なあ!ちょっとちょっと! 
長女 何?
長男 何あれ何あれ、外車じゃん! 
次男 そうだけど
長男 え、何あれ 

 パイプ椅子を並べて車にする一同。
 舞台は外の駐車スペースに。

次男 ポルシェだよ
長女 へー!これが!
次男 ポルシェだよ!
次女 テキサスなのにねー
次男 あっちじゃアメ車。こっちじゃポルシェ 
長男 え、バカじゃないの
次男 バカじゃねえよ
長男 こんな田舎でポルシェはバカだろ
次男 いいだろ別に
次女 私、これ乗って来たし
長女 へー!
次女 駅まで迎えに来させたから

 車に乗り込む次男、長女、次女。 

長女 わ!
次女 全然違うでしょ
長女 えー、ソースって儲かるんだねー
次男 BBQね。BBQソース
次女 すっごいスピード出るよ
次男 ふふふ。で、どうなの?じいちゃん元気?
長女 うーん。まあまあかなー 
次男 あ、そう?
次男 ほら兄ちゃん、行くよ 
長男 、、、
次男 何?
長男 え、なんか、運転していい?
次男 ええ?
長男 俺、運転していい?
次男 、マジで?
長男 俺、ポルシェ運転したい。俺、ポルシェ運転したい 
長女 え、じゃあ私も運転したい
長男 おまえは田んぼに落とすだろ、車
長女 3回だけでしょ。タカシ兄ちゃんだって運転荒いじゃん 
長男 子供たち言ってたぞ。お母さんの車乗りたくないって 
長女 何、無職のくせに
長男 、今は子供たちに卓球を教えているよ。
長女 、そうなの?
長男 うん。小学校で
次男 それ職業じゃないよね?
長男 、、、
次女 早く行こうよー
長男 どうする?どっちがいい?
次男 えー、
長男 どっちにするんだよ

 次男、長男と長女を見比べ、長男に

次男 事故んないでね?絶対事故んないでね?
長男 わー(嬉しい)
長女 (同時に)えー!?
次男 じいちゃんのとこまでね?じいちゃんのとこまでだよ? 
長男 ああ、うん。えー(?)これがポルシェ、
次女 何年ぶりだっけ?じいちゃんに会うの 
次男 さあ、5年は会ってないかな
長女 ちょっとびっくりするかもよ
次男 え?そう?
長女 痩せちゃってさー、じいちゃん
次男 ああ、そっか、
次女 ねえ、キミコ行かないの?
長女 お母さん?なんか焼いてたよ。畑で
次女 え、今?
次男 (長男に)え、どうした
長男 あ、いや、、ちょっと、、
次男 どうしたどうした
長男 や(ばっ)、すっげえ緊張してきた
長女 えー?
長男 なんか、手震えるんだけど
次男 おい、ちょっと
長男 あ、や、、ちょっ、、
次女 大丈夫?ポルシェに負けそう?
長男 プレッシャーがすげえんだよ
長女 やっぱ無理なんだよ。無職にポルシェは 
長男 この、ポルシェ、、ポルシェがさあ、、! 
長女 みんなの命がかかってるからね
次男 タントで行く?兄ちゃんのタントで行く? 
長女 やっぱ私が運転するって。私の方がおっきい車乗ってるんだよ?
次男 (同時に)え?大丈夫?無理しない方がいいんじゃない?
次女 (同時に)どうせそんなに車走ってないんだからさー。緊張しないでいいって

 等、同時に適当なことを言う兄弟たち。
 パニックに陥る長男。

長男 あああああ
 
 車が発進する。

長女 おー、、
次男 行くの?このまま行くの?
長男 ふー、ふー、
次女 、、勝った?ポルシェに勝った?
次男 マジで事故んないでよ
長男 うん!
次女 大丈夫だって。事故ってもポルシェ強いから
次男 やめろよー
長女 でも、実際すごいよねー。1人でアメリカ行って。今はこれだもん 
次男 別に凄くないよ。この車も税金対策

 窓の外に母を見つけた次女。

次女 あ、キミコ
長女 あ、お母さーん。行ってくるね 次女 バイバーイ

 手を振る2人。
 一息。

次男 兄ちゃん、あれ何だったの? 
長男 ん?
次男 あの手紙
長男 ああ、あれなー
次女 何それ
長女 なんか、出て来たんだって。じいちゃんの部屋片付けてたら
長男 うん
長男 あれさあ、ばあちゃんの手紙だと思うんだよ。あんまり詳しく聞けてないんだけど 
次女 へー、、
長男 なんか、じいちゃんとこの家の思い出、いっぱい書いてあって
次男 、、そっか
次女 読んだの?
長女 うん。いっぱい出てきてさ、手紙。ばあちゃん、じいちゃんずっと待ってて。あの家で 
長男 戦時中のね。ずーっと手紙でやりとりしてて。満洲とこっちで、、
一同 、、、
長男 なんか、あれ読んじゃったらなあ、、
次男 、、何
長男 リフォームするの、もうちょっと先でもいいんじゃないかなって
次男 、、ええ?
長男 じいちゃん見送るなら、あの家でがいいかなって思って
長女 、、うん。そうなんだよね
次男 図面もう出来てるんだけど、、
長男 でも嫌だろ。最後に帰る場所が見知らぬ家って
次男 まあそうだけどさぁ、、
次女 でもじいちゃん死ぬまでなんでしょ?
長男 うん
次女 結構早そうだけどね
長女 え、そういうこと言う?
次女 え、だってそうじゃないの?
長女 、そうかもだけど。あんた1番可愛がられてたのに
次女 嘘ぉ
次男 えー、お母さんはなんて?
長女 それが、お母さんさー
長男 すっげえノリノリなんだよ
長女 ねー!
長男 ノリノリなんだよキミコ。思い入れ全然無いの。しょっちゅう図面見てっから 
次女 あははは
長男 ワクワクが止まんないんだよ、キミコの
次男 そりゃそうだろ。お母さんがリフォームしたいっつってんだから
次女 まあ古い家だからねえ、実際
長女 ねー
次女 色々あったんでしょ?私あんまり覚えてないけど。お父さんとかさ、、
次男 あー

 沈黙。 

長女 あ、牛
次男 牛だね
次女 牛だねー
次男 いい牛だなあ
長女 分かるの?
次男 あ、うん。テキサスだから 
次女 あー、やだやだ。臭そう

 ほんの少しの沈黙。
 不意に車のスピードが出る。

次女 わ、え?
次男 兄ちゃん?
長女 ねえ、ちょっと早くない? 
次男 兄ちゃん?どうした兄ちゃん? 
長男 あれ!
次女 え?
長男 あれ!あれあれ!
次女 何何何?
長男 汽車!汽車走ってるだろ! 
次男 ちょっ、やめろよ
長男 ああああ、ああああ、

 汽車を追いかける長男。 
 結構な加速に慄く一同。

次男 やめろ、やめろってば、おーい 
次女 やだ。怖い怖い怖い
長女 もー!もー!
次男 何やってんだよバカ!バカ!

 みたいなことを言ってるうちに、汽車を抜き去る。

長男 ふー
次男 ほんっとやめろよそういうの!バカ! 
長男 ふふふふ
長女 ちょっと!前前々!
兄弟 え?
長女 赤赤赤!
次女 あ、あ、、!
長男 あ、、!
次男 シンディーーー!!!

 テキサス。(シンディは次女が演じる。)

シンディ 何?
次男   あ、、
シンディ どうしたの?マサシ
次男   、、ごめん、シンディ。こんな時に日本に出張だなんて
シンディ 、、ううん。いいの
次男   この取引だけは、どうしても俺が行かなきゃ
シンディ 、、うん。分かってる。テキサスだけじゃ、足りないんでしょ?
次男   そんなことないよ
シンディ ううん。足りない。足りないんだよ。マサシはテキサスだけじゃ、、 
次男   シンディ、、
シンディ 故郷に届けてあげて。あなたの、BBQソース
次男   ああ。、、1日だけ、実家にも顔出して来るよ。兄弟みんな集まるって 
シンディ ふふっ、、マサシのファミリー、、
次男   ん?
シンディ メグミ、会いたかったな
次男   あいつバカだよ
シンディ うん。面白い
次男   、、出来るだけ早く帰るから
シンディ 待ってる。ベイビーの名前、、考えておいてね、、
次男   ああ。どんな名前がいいかな、、
シンディ そうだね。うーん、、、テキサス!
次男   はぁ!?

 時空が戻る。

次男 おまえふざけんなよ
次女 えー。いいじゃんテキサス
次男 一生テキサスって呼ばれるんだぞ。一生テキサスって! 
長男 かっこいいじゃん
次女 ねえ、エミちゃんとこの子、どうやって名前決めたの? 
長女 うん、、
次女 、、大丈夫?
次男 エミコ?
長男 どした?
次男 おい、大丈夫か
次女 酔っちゃった?
長女 ごめん。なんかさっきから気持ち悪くて
次女 えー?
次男 兄ちゃんが変な運転するからー
長男 え?俺のせい?
次女 そうに決まってんじゃん
次男 バカ。バカ
長男 うっせえな!
次男 、、、
次女 エミちゃん、ちょっと休む?何か飲む?
長女 あ、うん。ちょっと欲しいかも、、
次女 何かある?飲み物
次男 BBQソースしかないな
次女 はあ?
長男 コンビニかスーパー寄る?
次男 あそこのファミマでいいんじゃない
長男 はーい

 車、ファミマへ。 車から降り始める一同。
 パイプ椅子を置き換え、店舗の前のベンチへ。

長女 あー、怖かった
次女 大丈夫?
長女 あ、うん
次女 何。ふらふらしてんじゃん 
次男 エミコ、水でいい?
長女 あ、ごめん
次男 ううん。(長男に)兄ちゃんも行く? 
長男 あ、うん。タバコ吸ってくる

 長男と次男、はけ。
 ベンチに座っている長女。

長女 はー、、
次女 大丈夫?
長女 なんか、私が死んだら、うちどうなっちゃうんだろうって考えちゃった。朝ご飯とか、幼稚園の送り迎えとか、
次女 あははは。危なかったね
長女 ほんとだよ
次女 、、
長女 ん?
次女 ねえ、ここファミマだったっけ?
長女 え、そうだよ。結構前から
次女 あれ、ここ雑貨屋じゃなかったっけ?小ちゃい子供向けの、 
長女 あー、メグミ通ってた(?)
次女 あ、やっぱりそう?
長女 そうそう
次女 わー、、さすがに無くなっちゃったか、、
長女 ねー、、
次女 あそこのおばさん、好きだったんだけどなー

 次女、ふと歩き初め、はけ。
 一人になった長女。どこか遠くを見ている。
 キャットウォークから次男が出てくる。

次男 エミコ、メグミ知らない? 
長女 えー?知らないよ?
次男 居ないんだけど、メグミ
長女 えー?うちの中どこにも?
次男 うん
長女 また喧嘩したの?
次男 してた
長女 またぁ?
次男 ばあちゃんとお母さん、探しに行くって 
長女 、、ほっといていいんじゃない?
次男 でももう暗いからさあ
長女 もー、、

 長男、登場。

次男 兄ちゃん、メグミ見てない? 
長男 え、見てないけど
次男 なんか出て行ったっぽくて 
長男 えそうなの?
次男 ちょっと探しに行かない?
長男 、、俺セーブしてねえんだよ
次男 はあ?
長男 セーブポイントが見つかんねえんだよ 
次男 ゲームはいつだって出来るだろ
長男 俺セーブしてねえんだよ! 

 長男、はけ。

次男 ダメだあいつは
長女 そうだね
次男 俺、ちょっと行ってくる。エミコ、別にうち居ていいから。電話とかあったらあれだし

 次男、はけ。

長女 ああ、うん、、どうしよっかな。私も、行こうかな、、

 長男、戻ってくる。

長男 おう
長女 、、、
長男 見た?
長女 え?何を?
長男 今のおっさん。すげえポルシェ見てた 
長女 あー、、
長男 見てたんだよ。ポルシェ。ふふふ 
長女 何、気持ち悪い
長男 え?
長女 別にタカシ兄ちゃんのじゃないからね 
長男 、、分かってるよ

 次女と次男、戻ってくる。

次男 エミコ、水
長女 ああ、ありがと
次男 大丈夫?
長女 うん。もうだいぶ
次女 早く行こー
長男 そうだな
次男 あ、兄ちゃん
長男 ん?
次男 俺運転しようか?
長男 え、いいよ
次男 俺運転するよ
長男 え、いいって。道分かんねえだろ 
次男 あそう?

 車に乗り込む人々。 
 車、出発。

長男 なんかさ、
次男 ん?
長男 俺もアメリカ行こうかなー
一同 、、、
長男 俺アメリカ行ったらどうなると思う?
次女 どうにもならないんじゃない?
長女 ああ、
長男 え、そう?
次男 そうだろうね
長女 うん
長男 え、そうかな?例えばだよ。例えば俺がマサシの会社に入ったとするじゃん 
次男 ああ、、
長男 どうなると思う?
一同 、、、
次男 えそれ本気で言ってんの?
長男 いや、例えばの話
次男 兄ちゃん、正社員の経験は?
長男 そんなのお前、、知ってるだろ、、
次男 今までの職歴は?
長男 東京いた頃はバイトしてたけど
次男 今現在の職業は?
長男 子供たちに卓球を教えているよ
次男 それ職業じゃないよね
長男 まあ、ボランティアだけど
次男 職歴ないんじゃなぁ。さすがにうちも
次女 だよねー
次男 メグミんとこの銀行でも無理だろ 
次女 まあねー
次男 まあ、そういう事だよ
長男 、、、
次男 ごめんね。兄ちゃん
長男 、、だから!例えばって言ってるだろ!
次男 あ、兄ちゃーん

 長男、椅子を持って逃げる。
 舞台上は老人ホームの中に。
 長男は、そのまま祖父になり、舞台の端の方に座る。

長女 あれ、タカシ兄ちゃんどっか行った?
次男 知らない
次女 いじけてんじゃない、どっかで
長女 え、ほんとに?38歳なのに?
次男 いいんじゃない?
長女 よくないでしょ
次男 ああいや、兄ちゃんはしょっちゅう会ってるんだし 
長女 、そうだけどさー
次男 メグミは会ってんの?じいちゃん
次女 ううん。今年はお正月帰れなかったから
長女 結構久しぶりだよねー。あ、

 祖父に気付く3人。
 わりと衝撃を受ける次男と次女。

長女 じいちゃーん
祖父 、、、
長女 じいちゃん、久しぶりー
祖父 おお、キミコか
長女 キミコじゃないよ。エミコエミコ 
祖父 エミちゃんか
長女 そうだよ。孫孫
祖父 元気しとったかい
長女 元気元気。(2人に)今日は調子良いみたい 
2人 、、、
長女 今日はね、マサシ兄ちゃんとメグミも一緒だよ 
祖父 、、、
長女 マサシ兄ちゃんと、メグミ 
祖父 メグミか
次女 うん
祖父 元気しとったかい
次女 うん。元気。(大きな声で)元気だよ 
祖父 学校はどうね
次女 学校?学校は、卒業したよ
祖父 ほんとか
次女 うん
長女 メグミはもう社会人だよー。働いてるよー
次男 そうだよ、じいちゃん
祖父 タカアキ君か
次男 え?違う違う。マサシマサシ
祖父 、、、(戸惑う)
次男 え?じいちゃん忘れちゃった?マサシだよマサシ。じいちゃんの孫! 
祖父 マサシは死んだ、、
長女 あははは。マサシ生きてるよ。ここ居るでしょ
次男 そうだよ。アメリカから帰って来たんだよ
祖父 マサシは死んだ、、
次男 えー?
祖父 事故にあって死んだ
長女 何言ってんの
長女 死んでないよ!生きてたんだよマサシ兄ちゃん。ほら!
次男 じいちゃん
祖父 タカアキ君か
次男 マサシだよ

祖父、心を閉ざす。

長女 あー
次女 心閉ざしちゃった
次男 え?俺のせい?
長女 今日はあんまり調子良くなかったか
次男 ああ、
長女 調子いいと、もうちょっと普通に話せるんだけどね 
次男 そうなんだ
長女 じいちゃん、時代劇面白い?

 祖父、ゆっくりと歩き出す。どこかへ行こうとしている。
 現実には歩いていないのかもしれない。

祖父 、、、
次男 じいちゃん痩せたなー
次女 、、うん
次男 全然知らなかった
次女 、、うん
長女 なんか、食べ物上手く飲み込めなくなっちゃって。飲み込んだのが、気管?肺に入るようになったんだって。それで全然ごはん食べられなくなってさー

 祖父を見ている3人。

長女 じいちゃん、どうしたの?どっか行く?部屋戻ろうか? 
祖父 、、、
長女 おーい、どこ行くの?

 祖父、はけ。

次男 なんか、じいちゃんもメグミ探しに行くって 
長女 あ、ほんと?そっち、居なかった?
次男 居なかったなー
長女 友達のとこにも居ないっぽいよ
次男 あ、そう?
長女 うん。お母さんが電話して
次男 どこ行ったのかねえ
長女 ねー
次男 ほんと心配させてあのバカ
長女 あ、あそこは?あの、雑貨屋さん 
次男 えー?遠くない?
長女 メグミ、あそこのおばさん好きだから
次男 ああ、

 長女と次男、はけ。
 座っている次女。
 長男、登場。

長男 おう
次女 あ、居た
長男 どうだった、じいちゃん
次女 うん。ボケてた
長男 あ、調子悪かった?今日
次女 あと、すっごい痩せてた
長男 びっくりしたろ
次女 なんか、悲しくなっちゃった
長男 おまえ、じいちゃんと仲良かったもんなー
次女 仲良くないよ
長男 あれ?そう?
次女 だって、私が東京の大学行こうとしたとき、お参りしてたんだよ?神社に 
長男 ええ?
次女 私が落ちるように
長男 ああ、そうだっけ?
次女 ほんとに落ちたし。マジ何なの
長男 あー、、

次女、泣いているかもしれない。 

長男 えっ、、あっ、、

 あわあわする長男。 
 次男と長女、やって来る。

次男 あ、兄ちゃん 
長女 どこ居たの?

 次女に気付く2人。

長男 なんかこいつ泣いてんの! 
次女 (長男の脇腹とかを殴る) 
長男 あっ、、
次男 兄ちゃん、、
長女 どうした? 
次女 ううん
次男 ほら、車行くよ 
長女 あ、うん

 長男次男、先にはけ。

長女 なんか、美味しいもの食べに行こっか
次女 え?帰るんじゃないの?
長女 帰ってもいいけど、温泉行ってその後ごはん行こうかって話してて 
次女 あー
長女 お母さんも呼んでさ。奢ってくれるって、マサシ兄ちゃん
次女 え、ほんと?何でも食べれるじゃん
長女 ねー。何食べようか

 次女、立ち上がる。

長女 メグミが家出したときさ、
次女 、、何?
長女 大体じいちゃんが最後まで探してたよね 
次女 、、そうだっけ?
長女 見つけるの、いっつも私だったけど 
次女 全然覚えてない、、

 姉妹のハケと入れ違いで兄弟。

次男 は?無理だよ。バカじゃないの?
長男 バカじゃねえよ
次男 会社の車だから。俺の車じゃないの
長男 え?マジで?明日だけだよ?
次男 貸せるわけないだろ
長男 えだって、もう写真あげちゃったんだよ 
次男 知らないよ
長男 子供たちが沢山いいねしてるんだよ? 
次男 悲しい顔しても無理なもんは無理だよ
長男 あ、ちょっと、、
次男 バカな事言ってないで行くよ

 次男、車に乗り込む。 
 姉妹、登場。

長女 何ー?どうしたの?

 長女、運転席へ。

次男 ううん
長男 あ、俺、運転、、
次男 エミコがしたいって。運転 
長女 ふー
次女 あははは
長女 すごいね、、ポルシェ、、! 
次男 兄ちゃん十分運転したろ 
次女 早くしてよー

 長男、悲しげに車に乗り込む。 

長女 じゃあ、行くよー。ふー↙︎

 車、発進する。

長女 おおおお、、
次女 おっそ!
次男 いいんじゃない。安全運転で 
次女 ポルシェが泣いてるよ
長女 とりあえず温泉?温泉だよね? 
次女 そうねー
次男 山道気を付けてよー
長女 うん!わー、緊張する
次男 そういえば決まった?ごはん
次女 あ、ううん。まだ
長女 お肉か魚か、何がいいだろうねーって
次男 お母さんは魚じゃない?
長女 そうでもないよ
次女 お母さん、まだ全然お肉も好きだから
長女 焼肉とかね
次女 じゃ、あれじゃない?BBQじゃない?
長女 お、いいね
次男 ええ?やだよ
次女 あっちのキャンプ場、出来るでしょ?
次男 俺、いっつも食べてるから
長女 いいじゃん、こうしてポルシェ乗ってるのもBBQのおかげだもんね
次女 BBQ様様だよねー
次男 はははは。普通に食べに行こうよ
長男 全然美味しくないしな
次男 はははは
長男 全然美味しくないしな、BBQとか
長女 何言ってんの
次男 兄ちゃん怒ってんの。ポルシェ貸さないって言ったから
長女 ええ?
次男 約束しちゃったんだって。明日ポルシェで練習行くって
次女 あはははは。何それ
長男 子供たちが待ってるんだよ、俺を
長女 何?慕われてるの?
長男 うん。あいつら、俺に憧れてるんだ。あいつらにとって俺たぶん、ヒーロー的な

 長女、一瞬スピードを出す。
 のけぞる3人。

長女 きゃー!
次女 わー
次男 エミコ!?エミコ!?
次女 ちょっともー!やめてよ!
長女 ごめんごめん!わー、これやっぱすっごい、、! 
次男 だろ?
長女 加速が全然違う、、!
次男 そうなんだよな
長女 わー、結構楽しいかも
次男 今のうちにお母さんに食べたいもの聞いとく?
次女 ああ、そうだね
長女 温泉入る前に予約した方がいいよね
次男 何がいいかねー
長男 BBQ以外
次男 はははは
次女 キミコ優柔不断だからなー
長男 BBQ以外
次男 はははは
長男 BBQ以外。美味しくないから。あー、美味しくない美味しくない 
次男 エミコストップ!
長女 え?え?
次男 エミコ、車ストップ!
長女 あ、あ、うん、、
次女 えー、ちょっとやめてよー

 車、ゆっくり止まる。

次男 兄ちゃん
長男 BBQは嫌だ
次男 兄ちゃんいい加減にしろよ
長男 だって
次男 BBQをバカにするな!
長男 だってBBQ、、
次男 俺が、俺がどんな気持ちでBBQソース作ってたか分かるか?ジャップのBBQソースってバカにされて、、アメリカ人以外のBBQソースは認めないって言われて、、!寿司にBBQソースをぶちまけられた事もあったよ。それでもひたすら作り続けて来たんだ。シンディ、(シンディ「マサシ」)、シンディと一緒に、、!
長男 、、、
次女 タカシ、、
長女 タカシ兄ちゃん、、
長男 、、でも美味しくないから
次男 おまえー!
長女 ちょっと!ちょっと!
次女 もう!やめてよー!
次男 ハァハァ、、
次女 タカシ、今のはひどいと思う
長男 、、、
長女 なんかタカシ兄ちゃん、、お父さんみたい、、 
次男・次女 、、、
長男 、、、、うっ

 思わず泣いてしまう長男。

次男 エミコ、言い過ぎだぞ 
長女 、、、ごめん

 沈黙。

次女 どうする?帰る?
次男 ごめん。予定変更していい?
長女 え?
次男 ジャスコ行こう
次女 え、ジャスコ?
次男 肉、仕入れなきゃ、、
長女 え?
次男 ソースならあるし。みんな俺が作ったBBQ、食べたことないだろ。 
一同 、、、
次男 BBQしよう
長男 、、!
次女 ああ、いいんじゃない

 車に戻り始める兄弟。

次女 えー、楽しみ
長女 なんか違うの?
次男 全然違うよ。日本のとは
次女 へー
次男 まあ、見てなさいよ 
次女 へへへへ
長女 (長男に)乗らないの? 
長男 、、、
次女 何?歩いて行くつもり? 
長男 、、、
次男 、、乗れよ
長男 !(いいんですか?) 
次女 ほらほら。早くー

 長男、車に乗る。

長女 じゃあ、行くよ。ふー↙︎

 車が動く。

次女 おっそ!
長女 最初はね。最初は
次女 あ、ねえ。エミちゃんとこの旦那と子供も呼ぶ? 
長女 あー、、
次男 いいよ
長女 あ、ほんと?いいの?
次男 いいよいいよ。呼びなよ。ただなあ、
長女 ん?
次男 もう普通のBBQは食べられなくなるよ。子供たち 
長女 えー?
次女 何それ?
次男 ふふふ

 次男、古いカントリーミュージックをかける。

長女 うち、BBQとかあんまりやらないから、子供たち喜ぶよー 
次女 元気?あいつら
長女 元気元気
次女 私のこと覚えてるかなー
長女 あー。あんまり覚えてないっぽい
次女 え、そうなの?あんなに遊んでやったのに
長女 昨日聞いたけどねー。きょとんてしてたから
次女 えー、薄情
長女 メグミが帰って来ないからでしょ。マサシ兄ちゃんとか、初対面みたいなもんじゃない?ねえ?
次男 、、、(考えている)
次女 ねえ、何この曲
次男 、、、
次女 ねえ何この曲
長女 すごい古そうだね
次女 ねえ、ちょっとダサいんだけど
次男 ちょっと、今考えてるから
次女 え?何?
次男 BBQの段取り!邪魔すんなよ 
次女 あそう
長女 あ、
次女 ん?
長女 ほら。あんたの高校
次女 あ、ほんとだー。(眺める)ちょっと綺麗になってるなー
長女 そうなんだ
次女 もっとボロかったもん。私のとき
長女 へー
次女 エアコンとか効かなくてさー。そっちと違って
長女 あー。でも楽しそうだったよね。高校
次女 まあ、、中学よりはね、、
長女 私さー、メグミもうちの学校来ると思ってた
次女 えー
長女 近いし。マサシ兄ちゃんも私も居たし。高校でも一緒に部活やるもんだって思ってた 
次女 、、だって、可愛くなかったんだもん。そっちの制服
長女 あー。まあね
次女 それに、
長女 うん
次女 知り合い少ないとこがよかったんだよね
長女 、、そっか
次女 、、うん

 短い沈黙。
 車が止まり、音楽、以下の会話中に静かに消えていく。

長女 着いたよー
次男 ああ、
次女 お肉、お肉
長女 でっかいの買うんでしょ?
次男 うん。子供たち、アレルギーとかある? 
長女 えー、無いけど
次男 よーし、じゃあ、エビだな。エビも買おう 
長男 えっ
次女 エビいいねー
次男 伊勢海老とかあるかなー
長女 マジで!本気!?
長男 あ、俺、甲殻類、、
次男 忘れられないBBQにしなきゃ 
長女 えー
長男 俺、甲殻類アレルギー、、

 ざわざわしながら4人はけ。
 一瞬の静寂後、
 キャンプ場の駐車場。
 出てくる4人。

長男 おー、結構景色いいなー
長女 上の方がいいんじゃない?
次女 そりゃそうでしょ。展望台なんでしょ? 
次男 2人とも来た事ないの?
長男 無い無い。無いよな?
長女 これだけ近いと、逆にねー 
次男 お母さんは?
次女 近くに来たら連絡するって 
長男 はしゃいでたなー、キミコ 
長女 嬉しそうだったね
次男 まあね
長男 こいつ
次男 何だよ
長男 何照れてんの 
次男 別にいいだろ 
長女 あははは 
次女 あ、ねえ、 
長女 んー?
次女 あれ、うち?
長女 えー?
次男 違うんじゃない?
次女 でも、あの辺でしょ。電気ついてる 
長男 何で電気ついてるんだよ
次女 さあ。消し忘れ?
長男 さすがに忘れないだろ
長女 分かんないよ。お母さんだもん 
次男 エミコに言われたくはないだろ 
長女 はあ?
長男 でもキミコならありえるよなー 
長女 でしょー?

 街を眺める4人。

次男 よし、上行って仕込むよー 
長女 はーい

 次女を残して、3人歩き出す。

長男 なあ、何でエビ買ったの? 
次男 必要だからだよ
長男 俺、食べられないんだけど 
次男 知ってるよ
長男 甲殻類ダメなんだけど 
次男 知ってるよ
長男 何でそんな意地悪するの
次男 うっせえなー。食わなきゃいいだろ食わなきゃ 
長女 もー、やめなよ

 3人、はけ。 

次女 あ、消えた、、

 長女、出て来る。

長女 こんなとこ居た 
次女 、、、
長女 帰るよ
次女 、、、
長女 ほら。メグミ。帰るよ
次女 、、、
長女 みんな探してるんだよ。あんたのこと 
次女 、、知らない
長女 はあ?、、帰るよ?
次女 知らない。絶対帰らない
長女 メグミ

 子供っぽく泣いている次女。

次女 だって。何で捨てちゃったの?何で捨てちゃったの?あれ
長女 知らない
次女 だってあれすっごい大事に、大事にしてたのに。何で捨てちゃったの? 
長女 知らないよ。お母さんに聞けば?
次女 あれ捨てるって事は、私捨てるって事じゃん。私捨てたのと一緒じゃん 
長女 もー
次女 私捨てたのと一緒じゃん
長女 はいはい
次女 ほんと嫌い。こんなとこ
長女 ああ、そう
次女 どこも、どこにも行くとこ無かったし 
長女 、、、
次女 うえええ(泣く)
長女 もー、何?
次女 (泣いている)
長女 あー、はいはい

 姉妹、座る。次女は長女に寄りかかっている。
 次女が少し落ち着いた頃、キャットウォークから長男。

長男 美味っ!え、美味っ!エミコ! 
長女 何?
長男 エミコ美味いんだけど!
長女 えー?
長男 何これ。俺が知ってるのと全然違うんだけど
長女 よかったじゃん
長男 なんか悔しいな。食べるたびに悔しいんだよ。マサシ、ニヤニヤしてて。でも、美味しいんだよ
長女 別にニヤニヤはしてないでしょ
長男 悔しいんだよ
長女 でも美味しいんでしょ
長男 うん。美味しいんだよ。メグミ寝ちゃった?
長女 うん。寝ちゃった
長男 お酒取って来て
長女 えー
長男 まだ車にあっただろ。取って来て 
長女 動けないでしょ
長男 えー?
長女 見たら分かるでしょ。動けないの 
長男 しょうがねえなー

 長男、キャットウォークからはけ。

次女 うーん
長女 あ、起きた?
次女 、、うん
長女 行く?
次女 、、うん
長女 、、どうした?
次女 私、大人になったら、ここ出て行く 
長女 、、、
次女 絶対戻って来ないから
長女 うん
次女 二度と、絶対、絶対戻って来ない
長女 うん。好きにすれば。、、私の方が、先に出ていくし 
次女 、、!
長女 帰ろ

 姉妹、はけ。 
 入れ違いに長男。酒を取りに行っている。 
 キャットウォークから次男。

次男 兄ちゃん。兄ちゃーん 
長男 おお
次男 あのさあ
長男 何?
次男 リフォームなんだけど、
長男 ああ、、やっぱあれ、もうちょっと先にしよう
次男 、、、
長男 、、じいちゃんが帰るのは、あの家なんだよ。色々あったけど、じいちゃんの家だもん。あの手紙だって(次男:あ、)あの手紙だって、ばあちゃんがじいちゃんに 
次男 あ、それ
長男 何?
次男 ばあちゃんからじゃないらしいよ
長男 え?
次男 なんか、浮気相手?からの手紙らしいよ 
長男 、、ええ?
次男 残りの手紙、全部燃やしたって
長男 嘘ぉ、、
次男 嘘じゃないよ
長男 嘘だぁ、、
次男 お母さんの前でするなよ、この話。ちょっと機嫌悪くなるから 
長男 、、、
次男 でも、まあ、ね。もうちょっと先でもいいかな。リフォーム 
長男 、、ふふふ
次男 え?
長男 、、じいちゃんやるなあ! 
次男 笑ってんじゃないよ。バカ! 
長男 次、何焼く?
次男 スペアリブ
長男 お、いいねえ

 暗転。
 工事の音が聞こえる。
 明転。
 数ヶ月後。
 リフォームが始まった模様。 
 それを眺める長男、長女、次女。唖然としている。

長女 ねえ、、
次女 うん
長女 これって、
次女 うん
長男 あ、これ建て替えだね 
次女 うん
長女 建て替えだね。完全に 
長男 うん
次女 え?止める?止める? 
長男 あ、いや、もう、

 工事の音、大きくなる。 
 よきところで次男、入ってくる。
 崩れて行く実家。

3人 あー、、
次女 えー、一応リフォームじゃなかったの? 
次男 いや、なんか。いつの間にかこうなってて
次女 マジかー
長女 お母さんかなー
長男 キミコだなー
次男 うん

 工事の音、遠くなって行く。

次女 なんか、これ見なくてよかったね。じいちゃん 
長男 ああ、うん、
長女 急だったもんねえ
次男 でもまあ、大往生でしょ
長男 うん
次女 あの歳だしね
長男 うん
長女 頑張ったよー。うん。頑張ったよじいちゃん 
長男 うん
次女 すごいよね

 次女、一礼。 
 自分のパイプ椅子のところへ。
 椅子をたたみ、持つ。

次男 そうだな、、

 次男、一礼。
 自分のパイプ椅子のところへ。
 同じように椅子をたたんで持つ。

次女 テキサス、元気?
次男 テキサスって言うなよ 
次女 テキサスはテキサスでしょ

 長女、一礼。
 2人と同じようにパイプ椅子を持つ。

長女 でも良かったよねー、シンディさんに似て 
次男 おい、失礼だぞ
次女 でも可愛いじゃーん
次男 ははは。まあね
長女 うちで写真見せてよー
次男 えー?いいよ

 はけて行く3人。 
 家を見ていた長男。
 自分のパイプ椅子のところへ。 
 一礼。
 椅子を持ってはけ。
 何も無くなった舞台。
 静寂。 
 暗転。


                                                                     幕



参考文献:「大場栄と峯子の戦火のラブレター」 これから出版 水谷眞理・竹内康子編

また、「春の艶やかな桜花、夏の新緑、秋の紅葉、冬の清らかな雪模様、四季のうつろいの中を、また2人で歩いてみたい。」の部分は、柳原タケさんの手紙(第1回日本一心のこもった恋文コンテスト大賞)を参考に書いています。

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