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寿司を買う

本棚が完成したので、午前中は本を並べた。昼に近所のラーメン屋で味玉入りラーメンを食べる。

レンタルサイクルをかりて、間借りしている浅草のオフィスに向かう。車道のはじを走っていたら、後ろから大きな物体が迫ってくる気配がする。バスだ。

バスは大きなため息のような音をならして、私を追い越していく。その音に心臓が揺らされて、脈があがる。大きな物体が持つ迫力のようなものを感じる。仮に私が海に生息する魚だったとして、ジンベエザメが横を通ったらこんな心持ちになるのかもしれない。乗客あるいは降客のために、私が走る予定だった道筋をなめらかにふさぐので、仕方なく歩道をしばらく走ることにする。

仕事をして、少し遠い駅まで歩き、電車で帰る。駅に隣接するデパ地下をのぞく。

私が幼いころ、東京にいた伯母らはよく「東京でどこか行きたい場所ある?」と聞いた。「デパ地下とポプラ社」と私は答えていた。食べ物と「かいけつゾロリ」が好きだからだ。テレビで見るデパ地下は、美味しいものがぎゅうぎゅうと並んでいた。

デパ地下では閉店間際のセールをしていた。私は20パーセントオフになった寿司を選んで買った。ずいぶんと大人になったと思う。

寿司をつまみにして、オンライン飲み会に参加する。一回りくらい年上の夫婦二組と、私、という組み合わせだった。そういえばこの会は、彼氏と別れる前に企画され、私は彼氏を誘う予定だったことを思い出した。

「解散したの?」

と言われ、そうなんですよね、と私は顔を真ん中にぎゅっと寄せた。あら、っとあまり深刻にならずに聞いてくれたので、大人はいいなと思った。こういうのはきっと、よくよくある話なのだろう。

「誰か紹介してください」

とお願いしてみたら、知り合いにナマズみたいな男がいる、との回答だった。ついでに「バチェロレッテ」の話が盛り上がった。

「いいね、恋」と大人たちは言い、「そうか、ぽてとはまた恋をするんだね」と言われる。「だから、誰か紹介してくださいよ」と私は言う。ナマズみたいな男性は、外国の古い車に乗っていて、助手席に乗るときっとひどく車酔いしそう、と回答された。

二組ともとても楽しそうであり、そうか今日は「いい夫婦の日」だ、と思ったが、恥ずかしかったので言わなかった。



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