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定性調査を実効性高く楽しくやるために(3)

まだちょっと4)インタビューフローが続きます。

さて、前回少し申し上げましたように、インタビュー内容は気を抜くと簡単に売り手目線のものとなり、聞きたいことは聞けますが聞いたところで全く役に立たない内容になってしまいます。

その要因は様々ですが、残念ながら依頼部門からのリクエストに応えようとしすぎることが、そのような結果に繋がってしまうことがままあります。
依頼部門としては、お金と時間をかけて調査をやるわけですから、当然多くの学びが欲しく、リクエストを多く出してくるのは当然です(むしろ、ここでリクエストを多く出せない依頼部門の方がヤバい度合いは上です)。

ただ、定性調査自体にあまり機会がない組織だったりしますと、この調査で明らかにしたい課題とは全然別の、ふだん少し気になっている課題未満のことを、盛り盛りにフローに入れてこようとするケースが………けっこうあります。

「直接お客様からヒアリングできる、せっかくの機会」だからそうする方もいらっしゃいますが、それなら日常業務に普通にその機会を持てばいいだけなのに、と思わなくもありません。しかもその課題未満のこと、定量調査で取得済み説明済みのことだったりとかすることもよくあります(すいません愚痴です)

とはいえ、これは調査の機会を意思決定に活かそうという意欲の表れであることは間違いありません。このような意欲をきちんとした意思決定に結びつけていくことこそ、マーケティングリサーチャーの役割ですし、腕の見せどころです。

このような場合は、とにかく質問を入れたい意図と、その課題感の共有・すり合わせを行い、インタビューのテーマから遠いと合意できたものは「時間の関係でフローに入りきらない」という伝家の宝刀を躊躇なく抜いて切り捨てることが必要です。

これをするためには、まずは元々の調査の背景と目的がはっきりしていることが必要でして、いい加減にしつこいと思われるかもしれませんが、とにかく最初の段階でここをはっきりと言語化しておくことです。
本当に大事なので何度でも言います。調査企画の段階で、背景と目的をしっかりさせることが最も大切です。

調査目的がしっかりしていれば、このように脇道に外れそうになったときも、すぐにガイドして元の幹線道路に戻ることができます。

ただ「脇道」リクエストを入れてきたのが偉い人だったりすると、処理に困りますよね。
その対処については、身も蓋もない話ですがマーケティングリサーチャーとしてのキャリアやその組織での存在感によって、難易度が全く変わってきてしまいます。要するに力関係ということですが…自分はこの世界でまだ15年弱の若輩者ですが、それでも初期と現在ではやはり差を感じます。

一目置かれるようなベテランであれば、そのようなリクエストをごめんなさいすることは比較的容易にできますが、新人に近い立場ですと難しいですよね。それに、真面目な新人ですと、前述のように依頼部門のリクエストに誠実に応えようとするあまり、全部やろうとして断れないという事態に陥りがちだったりします。

新人に対して普段から伝えているのは、自分たちは依頼部門の先にいる顧客に価値を発揮するために働いており、依頼部門からのリクエストに応えることが必ずしもそれに合致しないこともある、ということです。
偉い人からのリクエストはなかなか断りづらいですが、リサーチャーの「あるべき」は、顧客に価値が発揮できる意思決定をどう導くかということであり、それに不必要なことは(本当に不必要であれば)優先度を下げるという行動です。

「でも発言権がないと相手が言うことを聞いてくれない」というときは、調査会社や、フローを作成しているモデレータに断ってもらいましょう。第三者のプロが「それは流石に時間内に収まらないですね」と言ってくれれば説得しやすいです。インタビュー調査は時間が限られていますが、それはリサーチャーにとって強力な説得材料でもあるのです。

まったく余談ですが、ある程度のポジションを築くと、余計な調整や説得、エビデンスの提示(と、それに付帯する集計分析業務)を必要とせずに自分の言うことを聞いてくれるようになるので、リサーチャーとしての生産性は格段に上がります。
一方で、それにそれに胡座をかいていると一瞬で裸の王様と化すのは言うまでもありません。

なお、あなたご自身がモデレータをやる際は、インタビューフローの中にトークスクリプトを記述しておきましょう。何を喋るのかを台詞のレベルにしておくという意味です。

ここは手を抜きがちなところなのですが、聴取内容を箇条書きレベルにしておくと、それを話す前に脳内で話し言葉に変換するというトランザクションが発生し、その処理は会話のテンポを著しく毀損します。
対象者と会話しながら、箇条書きを話し言葉に脳内変換する。実際に試してみるとすぐご理解いただけると思うのですが、けっこうできないものです。対象者の集中力やインタビューへの良いノリを保全するためにも、必ずトークスクリプトまで落としましょう。

このような形で、売り手目線ではない、顧客目線のインタビューフローを組み立てていきます。
ただし、この時点でのインタビューフローは、実は暫定であるということは認識しておきましょう。というよりも、定性調査のインタビューフローは、定量調査の調査票と異なり、実査(インタビュー)が終わるごとに修正を繰り返すものです。

実査の段階で「ここはこう聞いた方がいい」と気付いたり、ひとつの仮説が見えてきて、その仮説について話を聞く必要が出てくるなど、定性調査は一回の実査ごとに発展して行くものです。

その発展をきちんとフローに取り込むことで、インタビューの成果は劇的に変わります。これだけ精魂込めてつくったフローではありますが、実査の段階では躊躇なく変更していきましょう。
そのあたりの詳細は実査パートでお伝えします。

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