降り落ちる雨は、黄金色#28
書き上げた私の作品は、短期間で数万アクセスをこえた。私の小説のページビューは一日の平均数200〜300だったので、この数字には正直驚いた。こうして私は小説家になった。
「デビューした」
佳代に報告するとすぐに返事が来た。
「おめでとう。アイスいこう」
この店は、私達の行きつけのジェラード屋さんだ。いい事があった時や、誕生日にはこの店でアイスを食べてお祝いをしている。
頻繁に通っているので、お店で貰える水色のスタンプカードはだいぶ貯まった。
ここのジェラードは世界大会で三位になった実績のある店で、雨でも雪の日でも天候の良し悪しに左右されず、地元の人達に愛され、遠方からはるばるアイスを食べに来るファンが絶えない。世界大会で三位に輝いた店がこんなに近所にあるなんて信じられない。世界は狭い。
しかし、値段は五百円と他のアイスと比べて高い。アイスの王様のハーゲンダッツよりも高級品なのだ。一度食べるとやみつきになる。市販のアイスが食べられなくなってしまう中毒性がある。
そして、アイスには北海道産の牛乳をふんだんに使っており、牧場のしぼりたてのミルクを食べているかのように円やかだ。執筆を続けて頭がパンパンに膨らんだ時に口にすると、すーっとする。
佳代は苺のジェラートを頼んだ。苺味は凍らせた苺を食べているかの様に酸味がある。私は売り上げ一位のバニラを注文した。
「ねえ知っている?苺ってバラ科の植物なんだよ」
「えっ、苺ってバラなのー」
「あたし今、バラ食べてんだよ」
「おいしいね」
透明なスプーンで掬いながら、口の中に運ぶと濃厚な甘みがじわりと広がった。このゆったりとした快楽の波に、ずっと浸っていたい。佳代がアイスを齧りながら上目つかいで聞いてきた。
「先生、次の目標は何ですか?」
私は腕を組み、考えるポーズをした。
「佳代を主役にして書いていい?」
彼女は満面の笑みを浮かべている。しあわせ。友達と笑いあえるこんな最高な毎日が、いつまでも続きますように。そう願いながら今日もパソコンのキーボードを無心で叩く。
短編小説を何本かサイトに載せてもらうと、リンクの貼ってあった私の個人サイトもアクセス数が増え「いいね」の数が徐々に増えた。 通知が毎日来る。まったく知らない人からも、コメントが貰えるようになった。
「あなたの作品好きです」
そう書かれた文字を指でなぞり、口づけをしたい気持ちになった。私はそのコメントの写真を撮って大切に保存した。
つづく、、
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