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降り落ちる雨は、黄金色#最終話

 デビューしてからは、学校に行くのが楽しくなった。あんなにも憂鬱で嫌いだったクラスメイト達が今では、うつくしく光ってみえた。みんなを執筆のネタにする事にした。 そう考えると、微笑ましい気持ちになってくる。

 教室では私は相変わらず一人きりだったが、デビューする前の様な後ろめたさが無くなくなり、じぶんを許せるようになった。

 書く才能が認められたことで、心の中にずっとあった大きな氷のようなシコリが消えた。教室ではいつもの様に奈津美の話をみんなで聞いていた。

彼女が相席屋でタダ飯とカラオケを、サラリーマンに奢ってもらった話をしていた。相席屋は同席した女性客の食事代を、 来店した男性客が支払うシステムの店だ。 

 奈津美は別れ際にLINE交換した後に、速攻 でブロックしたと愉快そうに笑っていた。みんなもそれにつられてケラケラ笑っている。「相席屋なんか、タダ飯とカラオケしたい時しか行かない」と奈津美は大声で話していた。本当に面白い。

 早く家に帰り、いま聞いた相席屋の話を一字 一句もらさずに書きたい。私は彼女と教室で会っても、劣等感を一切感じなくなっていた。 それどころか、奈津美に会うと創作意欲がどんどん沸いてくる。

いつか彼女を主人公にして、自意識過剰でプライドが高い女の子の話を書こうと考えた。奈津美は、サイコーの女だ。

 執筆の合間にヤフーニュースを見ると、北朝鮮が核ミサイル実験を凍結したと発表した。サイトでは、角刈りの眼鏡をかけた北の将軍と韓国の大統領が嘘っぽく笑って握手をしていた。まるで、日本の選挙ポスターのように薄っぺらい。

 記事には、南北戦争の歴史的終結の見出しがある。 密室の四十五分間。怪しい。将軍にノーベル平和賞を贈る声も出ている。ふざけてる。

素行不良なヤンキーが少しでも、優しい一 面を見せるとみんなの評価が変わる。これでは、まじめに日々を積み重ねた人達が馬鹿みたいだ。

 あれから一年経ったが、東京にミサイルは降らなかった。そして、この平坦な世界での闘いは、これからも続くのだ。

 私は今、長編小説を執筆をしている。この物語は高潔で慈愛に満ちた女の子が、世界を変えるまでの物語である。タイトルは「佳代」だ。

 パソコンの目の前には、彼女が私のために作ってくれた、イチョウのバーバリウムの小瓶が置いてある。私はその黄金の輝きに負けないような小説をいま、書いている。

(了)

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