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#連載小説
降り落ちる雨は、黄金色#最終話
デビューしてからは、学校に行くのが楽しくなった。あんなにも憂鬱で嫌いだったクラスメイト達が今では、うつくしく光ってみえた。みんなを執筆のネタにする事にした。 そう考えると、微笑ましい気持ちになってくる。
教室では私は相変わらず一人きりだったが、デビューする前の様な後ろめたさが無くなくなり、じぶんを許せるようになった。
書く才能が認められたことで、心の中にずっとあった大きな氷のようなシコリ
降り落ちる雨は、黄金色#28
書き上げた私の作品は、短期間で数万アクセスをこえた。私の小説のページビューは一日の平均数200〜300だったので、この数字には正直驚いた。こうして私は小説家になった。
「デビューした」
佳代に報告するとすぐに返事が来た。
「おめでとう。アイスいこう」
この店は、私達の行きつけのジェラード屋さんだ。いい事があった時や、誕生日にはこの店でアイスを食べてお祝いをしている。
頻繁に通っている
降り落ちる雨は、黄金色#27
津田が逮捕されたニュースのコメント欄を見ると、そこには悪意に満ちた中傷が溢れていた。私はそのコメントを見て吐いた。
ネットで一度炎上すると、社会復帰できない位に制裁を受ける。本名。顔写真。卒業文集。性癖。家族。住所。すべてが晒される。
津田は池袋のホテルで未成年に如何わしい行為をした後に、金銭を支払ったとそのニュースサイトは報じていた。
ふざけんじゃねえ。私の中に怒りがこみ上げてきた
降り落ちる雨は、黄金色#26
短編作品を百本くらい書いたある日、いつも通りに自分のサイトを開くと見知らぬ人からのメッセージがあった。
その人はコンテンツプロデューサーと名乗っていた。彼は、マンガやイラストや小説を集めたサイトを運営していた。メールには、私の短編小説を運営しているサイトに載せたいという内容だった。
運営しているサイトを覗きに行ってみた。水色や白を基調とし、 明朝体の文字を使ったシンプルなデザインだった。
降り落ちる雨は、黄金色#25
執筆した小説に「シン・桃太郎」と言うタイトルをつけてネット上に作品を発表した。しばらくすると「いいね」が三個ついた。私は反応がもっと増えないかと思い、スマホから何回も自分のページを開いた。
私の中では「いいね」が十個以上はいくと計算していた。しかし、現実はきびしい。私にはやはり才能がないのかもしれない。憂鬱な気持ちで佳代にこの作品を送った。すると「面白いからもっと続けなよ」と褒めてくれた。
降り落ちる雨は、黄金色#23
質疑応答後にサイン会は淡々と行われた。気がつくと私は、くしゃくしゃのメモの裏に自分のアドレスを書き「連絡ください」と文章を添えて津田に手渡していた。なぜあんな事をしたのだろう。
私はその後に頭が真っ白になり、その日はどうやって家に帰ったのかを覚えていない。
サイン会の後は悶々として過ごしたが、自作の小説をネットに発表する事を決めた。津田のアドバイス通りに好きな小説を書き写す作業もした。とて
降り落ちる雨は、黄金色#17
「今日はゆきちゃんに機種変付き合ってもらったよ」
私の表情は能面のようだ。
「笑って」
それに気づき佳代は慌てて撮影の手を止めた。
「誰にも見せないでよ」
「二十四時間で消えるから大丈夫」
動画を再生すると、ブサイクな表情の私の映像が流れた。 佳代の馬鹿笑いが止まらない。さっそく二人で撮った写真を待受にした。私のiPhoneは勲章の様に輝きを放っている。
「わん」
携帯ショップを出ると
降り落ちる雨は、黄金色#16
お茶を飲み終えると、佳代は静かにイチョウの葉っぱを拾っていた。
「なにしてるの?」
「キレイだから、バーバリウムにしようかな」
バーバリウムとは植物の標本だ。花やドライフルーツをガラス製の瓶に入れ、専用のオイルを注ぐと完成する。前に花屋さんでバラのバーバリウムの小瓶を見たことがある。美しい花は死骸でも需要があるのかと関心した。
バラの花は、死ぬ前と変わらない真紅の輝きを怪しげに放
降り落ちる雨は、黄金色#15
コンビニに着き、二人の大好物なキャラメルコーティング・ポップーンをカゴに放り込んだ。
新商品の棚を見ると新しい味のポテトチップスを見つけた。醤油味ベースの蟹のエキスが入った新商品の値段は、普通のポテトチップスと比べると割高で五十円ほど高い。二人ですぐに消えそうだねとか、無くなる前に一回位買ってみようかと話した。
コンビニの新商品の棚は、猛スピードで変わっていく。試してみたいと思った時には
降り落ちる雨は、黄金色#14
佳代の家は新築マンションの最上階にある。父親は放送業界の人らしく、インテリアも華やかでテレビのセットの様に生活感がない。
彼女は家の中では花や苺柄のデザイナーブランドのパジャマを着ている。本人曰く、身体の締め付けがなく楽だと話していた。
「あのさ…」
「なに。好きな人でも出来た?」
佳代の瞳が煌々と輝いた。
「小説家になりたい」
「ウケる」
私のやりたい事が決まったお祝いに、コ
降り落ちる雨は、黄金色#13
「今週のMステにちょっと映るかも」
取り巻き達は鈴木奈津美の話に、おおげさにうなづいている。みんな身近のキラキラした人に吸い寄せられる、蛍光灯に群がる蛾みたいだ。くだらない。一箇所にあつめて殺虫剤をかけてやりたい。
彼女の父親は海外で働いている為、奈津美は日本で未発売のブランド品を持っている。クラスメイト達はいつも、奈津美を眩しそうに 見つめる。私はその眼差しが気に入らない。 心底軽蔑する
降り落ちる雨は、黄金色#12
佳代の居ない淋しさから、私は本の世界へ没頭していった。活字を目で追っている間は、嫌なことを忘れられた。想像力の翼を使えばここではない何処かへと行けた。
小説は私にとっての薬だ。崇高な作品のページの隙間からは、悲鳴が聞こえる。その声はとても心地がよく、マイノリティであることに悩む主人公が、足掻きながらも生きる姿にいつも勇気をもらっていた。私はいつも小説の中で希望を探している。
あれから、学
降り落ちる雨は、黄金色#11
「この抗鬱剤は、都内のクリニックで一番飲まれている軽めのだから安心してね」
と薬剤師のおじさんは優しい口調で教えてくれた。
都会には心が病んでいる人が沢山いるのだ。毎日、朝早くから満員電車に押し込まれて疲れた顔をして優先席に座る大人を見ると、病まない方が異常だ。
鬱病はそんなに珍しいものではない事がわかると、心が軽くなった。よくあること。薬剤師のおじさんはアメリカでは、心が不調だと思ったらす