『30年でできること。』777文字小説
「私の方が洗濯して、料理作って、掃除して家事がんばってるんだから、あなたお皿洗いぐらいやってくれなきゃ困るじゃないのよ!」
「俺の方が、風呂掃除して、トイレ掃除して、お前がスタートボタンだけ押した洗濯物、干してるんだよ! 皿洗いぐらいおまえがやれって!」
共働きで、ふたりともフルタイムで働いている夫婦によく陥りがちな
禅問答に、トシキとハルミは陥っていた。
「アタシ、疲れてるのよ!」
「俺の方が疲れてるよ!!」
「アタシ、もう会社辞めるから!」
「俺だって会社、辞めてやるし!!」
そして2人は会社を辞めた。どちらが疲れてるかを見せつけるために、
この勝負に勝たねばならなかったからだ。
「アタシもう、出家するから!」
「俺だって出家してやる!!」
そういうわけで2人はそれぞれに出家した。ハルミは比叡山延暦寺へ。
トシキは浄土真宗のメッカ・東本願寺へ。
「世界平和とか祈ってないでやらなきゃ意味ないから!! あたし、ここを出てイラクに行くから、イラクに!!」
「なら俺とか、ロヒンギャ難民救ってみせるし! ミャンマー政府に迫害されてるあいつら、マジで助けるし!?」
30年後。
2人の終わらない意地の張り合いは難民を救い、迫害する政府の要人に考え直すきっかけを与えた。どこでこうなったのかはわからないが、毎日を戦火に追われる子どもたちを救うことしか考えずに暮らし、病に倒れながらも「あいつにだけは負けたくない」という気持ちで踏ん張ってきた2人は、
当たり前の道を選ばずに暮らした30年でいがみ合うことを忘れた。
だいぶ年を取り、「第二のマザー・テレサ」と呼ばれたハルミは30年ぶりに「ガンジーの生まれ変わり」と呼ばれたトシキに出会った。
「……アンタ、いい男になったじゃんよ」
「お前だって……俺、そろそろ皿洗ってやってもいいよ」
「……優しいじゃん」
「そっちこそ」
~THE END~
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