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小説『雪目線』

「ヤベェ……この世界を動かしてるのって本当は、俺か?」

冬のバスを待っている時だった。強い風が雪を吹き上げ、俺の髪を逆立てると、頭から熱が奪われていく。

プシュウ、とバスが揺れて止まった。誰も何も言わないがバスに「乗れ」と言われてるような気がする。

定期券を見せながら乗車する。
運転手は本当に、俺がバスに乗らないときも運転をしているのだろうか?

腰掛けたシートが暖かい。しばらくすると熱くなる。
 よくあることだが、空が一面の雪で覆われる時、俺にはその空の側から、俺や、街や、バスが見える。

航空図から遠近法で小さくなった俺がバスに乗るところが見えるのだ。

だからといって、好きなあの子が俺のことを好きになったりはしないし、テストの点が良くなりもしない。ただ、雪の目線でこの世界が二重映しに見える。雪の見ている世界の人間は、

ただ静かだ。


「バスが雪で滑って死にませんように。」

バスは、あらゆる可能性を孕んでいる。俺の好きな子が、偶然俺の隣に座ればいいんだけど。雪の目線はその彼女が乗車するのを外側から見ていた。

「ここ、空いてますか?」

顔を傾け、遠慮がちな顔で彼女がこちらを見ていた。制服の上の白いコート。長い黒髪。愛くるしい目。
今までこんなことはなかった。
今日のバスはいつもより混んでいた。外から見たら人の影で真っ黒だ。

雪は僕の口が、「ど、どうぞ」と動くのを見た。「どうも」と彼女は優しく言った。そして……………

彼女は後ろからおばあさんを引っ張り出し、僕の横へと座らせた………。ババアは「ありがたいねえ」とつぶやき、太い体で俺の領土を侵害した。

走り去るバスの姿と寂しげな俺の顔を、雪の目線で俺は見ていた。


ー了ー

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