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【FASHION】Be a Goodman ! _はじめてのシャツオーダー

 この記事は、テーラー・Goodmanのレポート記事です。お店の様子や開業された経緯は、前の記事で紹介していますので、まずはそちらをご覧下さい。

はじめてのシャツオーダー


バンチブックで生地を見る

 さて、はじめての来店にして、ずいぶんくつろいでしまったが、本題はこれから。さあ、服を作ろう。

 この日は五月の下旬だったが、オーダーして商品が届くのはおよそ一ヶ月後なので、今回は夏に着るシャツを注文しようと考えた。

 その旨を伝えると、松島さんがシャツ生地のバンチブック(生地見本帳)を出してくれた。

バンチブック自体もかっこいい
低価格帯の生地でも十分なボリューム
こちらは海外メーカーの高級生地

 生地を選んでいるこのときが、生きていていちばん楽しい。まさに目移りの連続である。

 バンチブックの生地はもちろんすべて実物なので、色柄だけでなく、風合いや手触り、透けぐあいなども確かめることができる。写真では似たように見える生地も、触りごこちは全く別物だったりするのだ。

コットンカシミアは極上の手触り
素材も生地ごとに記入されている

 中には生地自体が個性的なものもたくさんあった。

チョコミント
蛍光グリーンがまぶしい

 もう楽しすぎて何時間でも見ていられそうだ。

 しかし、そんな優柔不断な私に、ものすごい勢いでアピールしてきた生地があった。

ALBINI(アルビニ)社のリネン生地

 リネンのザラッとした手触りが心地よく、この生地で肌を包まれることを想像したら、鳥肌が立つくらい気持ち良さそうだった。

「これでいきます!」

 私にしては、珍しく即決であった。

同じシリーズの色ちがい
こちらは柄あり。青の部分に白や濃い青が混ざっている。

仕立てる服の全体像

 生地を決めたら、ディテールとサイジングに移る。襟の形やフィット感はもちろん、糸の色や体型補正など、マニアックすぎてここにはとても書ききれないが、恐ろしいほど細かくセッティングできる。自分のイメージを完璧に形にできるのだ。

 ただ、あらゆる項目を好きなように設定できるということは、そのひとつひとつを自分の好みに合わせて断片的に選択するということではない。コーディネートに全体のテーマが必要なのと同じで、あらかじめどんなシャツを作りたいのか、その全体像をはっきりとイメージしておくことが大切なのだ。その完成イメージをフィッター(テーラーのスタッフ)と共有して、ディテールとサイジングに落とし込んでいく。

 この生地にかんしても、まずどのようなシャツにするのか、松島さんと話し合った。

 リネンという素材や、完成する時期をかんがえてみて、「さらっと涼しく着られるシャツ」ということは自然と想像できる。しかし、松島さんと話しているうち、この生地の風合いを最大限活かすならば、もっと夏らしく吹っ切れてもいいような気がしてきた。生地の色はムラのある茶色。ヤシの木やココナッツなど、リゾートを連想する。

「だとしたら、これでアロハシャツを作ってもおもしろい」

 私たちの意見は、ここに行き着いた。

 テーラーはビジネスマンがメインの客層なので、基本の売れ筋は白のワイシャツだ。オーダーでアロハという発想は、なかなか珍しいかもしれない。

 しかし、アロハもシャツの一種。もちろんオーダーすることができる。しかも、アロハは既製品が少なく柄が派手なので、好みのものに出会えるかは運しだいだし、サイズもルーズすぎて野暮ったかったりしがちだ。

 それならばということで、今回はこの生地でセンスのいいアロハを作ることにしたのだ。

「涼しく快適で、夏っぽさやアロハらしいリラックスしたムードがありつつも、ルーズすぎないサイズ感やディテールの上質さに品の良さが漂う、大人のアロハ」

 ずいぶん欲張ったが、これが今回のシャツの完成イメージである。

定番と冒険

 服のイメージが固まると、ディテールは一気に決まっていく。襟は開襟、裾は水平カット、背中はプリーツ・ダーツなし。アロハの定番スタイルだ。

 その流れで言えば、ボタンは木製などマットなものがベーシックだ。リラックスしたムードになる。

上から二段目、ムラのあるボタンあたりが無難

 しかし、今回はこのボタン選びに意外性を求めた。あえて光沢あるものを選んだのだ。

茶色を基調としているが、青やグレーの光沢がある

 この生地のマットな風合いに対して、光沢あるボタンは、ちぐはぐかもしれない。しかし、このシャツには大人っぽい気品や色気を加えたかったので、すこし冒険することにした。

 なお、ボタンで迷ったら、ぜひ冒険することをオススメする。なぜなら、ボタンはあとからいくらでも付け替え可能だからだ。

フィッターの感性

 その後、採寸に入ったのだが、サイズ感がこのシャツの肝である。ドレスシャツのようにタイトではアロハらしくない。ゆったりとしたルーズさが魅力なのだが、逆にオーバーサイズすぎると野暮ったくなる。

 鏡の前にサンプルのシャツを着て立ち、松島さんが私の体にメジャーをあてながら、絶妙な数値を探っていく。共有した完成イメージをもとに、アロハらしいサイズ感を具体的な数字に置き換えてくれた。

「肩はルーズショルダーのほうがリラックスした感じがでるから、ジャストより各肩2センチ追加で」
「シャツを出して着たときに長すぎないよう、股上が5センチは見えるようにしましょう」
「ウエストは絞らずボックスシルエットで」
「ジャケットの下に着てもシワにならないよう、胸まわりはややタイトに」

 こちらが「もっとすっきり」とか「ルーズな感じで」など、どんなアバウトな要望を出しても、その意をくんで形にしてくれる。さすがフィッターである。まだこの世にない服を頭でイメージしながら、サイズの微調整をしていくのだからすごい。

 しかも今回はアロハという変わり種。ビジネスシャツであれば、形にある程度の正解があるのだろうが、このようなシャツとなると、フィッターのセンスによって、まったく違う服になる。そんなアロハにたいしても、つぎつぎ最適解を導きだす松島さんを見ていて、あらためて、フィッターはただ採寸するだけの仕事ではないと思った。

 フィッターは、客の要望を形にする能力はもちろんのこと、作る服のイメージ・着用シーン・客の個性などに合わせて、あらゆる可能性を提案できる人でなくてはならない。その際、豊かな美的センスや独自の感性が必要となる。

 もちろん松島さんは紳士服に詳しいし、採寸経験も豊富だ。しかし、それだけを勉強してこられた方ではない。松島さんはレゲエミュージックを愛好されていたり、じぶんでもDJをしたりと、意外な一面も持っているのだ。

 しかも、デザインも習得され、Goodmanのロゴや名刺、さらには服につけるタグなども自作されている。

 松島さんの知識やセンスは、クラシカルな紳士服の世界にとどまらず、デザインやストリートにも根差した幅広いものだ。そのルーツが、客のあらゆる要望に対応できる拠り所となっているのは間違いない。

 リネンでアロハという、珍しいオーダーにも即座に対応する姿を見ていて、頼もしさを感じるとともに、フィッターという仕事の奥深さも垣間見た気がした。

オーダーまとめ

●生地
○リネン100%
○ムラのある茶色
●完成イメージ
○リラックスしたムードと、品の良さを両立
○日常的に着て出かけられるアロハ
●ディテール
○芯なしの開襟、裾水平カット、背プリーツ・ダーツなし
○光沢ある茶色の貝ボタン
●サイジング
○ややルーズショルダー
○すこし緩めのボックスシルエット
○股上がしっかり見える短い裾

帰りながら考えたこと

 採寸も済み、ようやく注文完了となった。疲れたのは松島さんだが、こちらもほっと一息つく。

 それからもう少し店内を見せてもらった。

 時計を見て驚いた。迷惑にならないよう、手短に済ませたつもりが、三時間ちかく経っていた。時が経つのも忘れるとは、まさにこのことである。さすがに居すわりすぎなので、このあたりで松島さんに別れを告げて店を出た。

 ちなみに支払い金額は27000円程度だった。イタリアメーカーの生地を選んだため少々値が張ったが、低価格帯の生地であれば、15000円くらいから注文できる。デパートやセレクトショップに並ぶ高級既製品と比べて、そう高い額ではない。

 そしてオーダーには、それだけの金額を払う価値がある。服を作るだけでも、じゅうぶん満足な体験だし、もちろん、これから受け取る楽しみや着る楽しみも待っているのだ。

 そして、帰りながらあらためて思ったことがある。

「もっとオーダーが広まって欲しい」

 これはいつも思うことだ。

 ひとつにはもちろん、こんなに素晴らしい体験をみんなに楽しんでほしいという気持ちがある。服にこだわりある人はもちろんだが、ふだん紳士服を着ることの少ない人、たとえば学生さんなどにもぜひおすすめしたい。

 また、オーダーは贅沢と感じる人もいるだろう。たしかにオーダーは既製品より高価だが、その一着に生地やシルエットなど、自分の好みが反映されているから、他の服を買う必要がなくなる。オーダーは贅沢かつ、実は安上がりな買い物でもあるのだ。

 そして、オーダーが広まってほしいもうひとつの理由は、環境問題。

 綿も麻もウールも、上質な生地はもちろん自然由来。ということは、我々は服を買うたびにその貴重な資源を使っているし、服を捨てるたびにその資源を無駄にしている。アパレルショップに並ぶ服は氷山の一角だ。実際には、サイズ違い、色違いなど、膨大な服が作られ、そして人に一度も着られることなく捨てられていく。

 オーダーは注文があってはじめて服が作られるから、生地の浪費はない。そして、作られた服は、客の好みが反映されているから満足度が高い。他の服がいらなくなるし、もちろん、体にもフィットしているから痛みも少なく長持ちする。

 これから服や資源の節約にひとりひとりが取り組まなくてはならない中で、オーダーは間違いなくひとつの解決法になりうるのだ。

 今回、Goodmanに来店して、テーラーとは優雅な時間を過ごしながら最愛の一着を手にいれるだけでなく、人と服、つまり人と自然の本来あるべき繋がりを取り戻させてくれる、本当の「良い服屋さん」だと思った。

 そして、資源の問題にも目を向け、服を大切にしながら自分らしくファッションを楽しむ人が、これからの時代の「Goodman=いい男」なのではないだろうか。

Goodmanと松島さん

つづく

編集後記

店舗情報 

 Goodmanに興味を持たれた方は、ぜひウェブサイトやインスタグラムからお問い合わせください。

 いきなりは不安という方や、店に行けないという方は、山田に相談してくださっても構いません。

 なお、この記事で紹介したオーダー形態や料金は変更になる可能性があります。また、生地は人気のものから売り切れる傾向にあります。

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 よろしくお願いいたします。

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