見出し画像

#1 映画「AWAKE」これまでの制作時系列


「AWAKE」と書いて「アウェイク」と読みます。


はじめまして。12月25日に公開する映画「AWAKE」の脚本・監督を務めました山田篤宏といいます。本映画は木下グループ主催の「新人監督賞」の第一回グランプリ作品として、また自分にとっては商業映画デビュー作として製作されました。公開まであと2ヶ月、ということで、これを機会に自分でも様々な情報を発信していけたら、と思います。

映画の内容とか、あらましは公式サイトその他で知って頂くとして、ここでは自分しかわからない諸々ディープなところを伝えていけたらな、と思っています。需要あるの?っていう気はしますが、誰かが見てくれているもんだろうと思って気楽に書きます。

で。「AWAKE」は「電王戦FINAL第5局」という実際にあった将棋の対局をベースにした話となっているんですが、直後に藤井ブームが起こったりしたこともあり、ひいてはその後に将棋コンテンツがかなり世に出たこともあって、自分としてはそこのブームに引っ張られたんじゃないんスよ!というのを弁明したく、一回時系列を改めて書いてみよう、とまずはじめに思いました。第一回に全くふさわしくない後ろ向きな動機な気もしますが、まあ気にせず。

以下、ほぼ年表です。

2015年4月 電王戦FINAL第5局 阿久津主税八段 vs AWAKE戦が行われる

当時将棋にハマって間もない僕は、これを普通に楽しみにしながら、自宅のリビングで見てました。語られているように、対局はたった21手、わすが49分で終了しました。当時から色々と物議を醸した内容でしたが、まだ将棋界のアレコレもほとんど知らなかった僕は、この対局に到るまでの盛り上がり含め、その顛末に素直に大興奮。「これをいつか映画化するぞ!」→五年後。

2016年9月3日 藤井四段誕生

この頃には立派な一将棋ファンに成長していた僕は、当然藤井三段というものすごい新人が奨励会にいる、そしてこの日プロになるための三段リーグ最終局を2局対局している、という話はチェックしてました。プロ野球ファンが有望な新人を求めて高校野球、果ては中学野球とかリトルリーグを探り出すのと同様に、将棋ファンは将棋の強い小学生を探ります。

現藤井二冠は、プロも参加する「詰将棋選手権」を、トッププロを押しのけて小学生の時点で連覇していたので、当時既に筋モノの間では相当に有名でした。そして、「その日、自力で2局勝たないと三段リーグ一期抜け記録は無い」となっていた瀬戸際のこの2つの対局に、藤井三段(当時)は連勝、一期でプロに昇段します。星の元に生まれた人はこうなのだな、と思った記憶があります。でも、この時点では藤井四段は世間ではまだそれほどは知られていません。

2016年9月15日 木下グループ新人監督賞募集開始

一方(?)、ことあるごとに電王戦FINAL第5局の面白さを人に説明してた僕。ただ、これそもそも「投了」の概念とか、奨励会の仕組みとかそういうのから説明していかないといけないので、将棋知らない人に説明するとめっちゃ時間がかかるし、ゆえにあんまりみんな最後まで聞いてくれない。というところでこの新人監督賞募集開始の報を受け、「ここに応募してやっぱり映画にしよう」と決意。締め切りは2017年1月31日。

2016年12月24日 藤井四段 vs 加藤一二三九段戦

四苦八苦して脚本を書いている最中、ついに藤井四段がデビュー戦を飾る日が訪れます。相手は今やお茶の間の人気者加藤一二三九段。最年長棋士と最年少棋士の対局として、当時かなり話題になりました。矢倉の爽やかな将棋でしたね…。ここから藤井四段の快進撃が始まるとともに、世間では加速的に藤井四段の知名度が増していきます。

2016年12月末 脚本初稿完成

同じ年の瀬の頃。諸事情あり、1月末の締め切りに対してどうしても年内に脚本を仕上げなければいけなかった僕。確固とした締め切りがあった方が、なあに返って諦めがつく、みたいなところがありまして、とりあえずなんとか完成に持っていきました。ちなみに、この時点では173ページの超大作になってました…。

2017年6月26日 藤井四段29連勝 世は将棋ブームに

ご存知の通り2016年末にデビューした藤井四段は快進撃を続け、前人未到の29連勝を達成します。藤井四段が記者に囲まれまくる画像は既にミーム化して久しいですね。30連勝の大台に乗るのを佐々木勇気七段が7月2日にストップしたことにより、将棋会館に人が詰めかけるフィーバーは一旦落ち着きを見せます。

2017年7月26日 木下グループ新人監督賞結果発表 グランプリに

そんな最中、春先の一次選考通過を経て、「AWAKE(仮)」の脚本は木下グループ新人監督賞を受賞します。この時点ではまだそのまま名前が使えるかどうかもわかってませんでしたので、題名には「(仮)」が付いています。よし、これですぐ制作に、というわけでもないんだな、これが……。勝って兜の緒を締めよじゃないですが、自分としてもここからそう易々と制作にこぎつけることもなかろう、とある種鷹揚に構えてました。

2018年12月まで 脚本改稿作業 

で、結果断続的にずっと脚本改訂作業。そうこうするうちに藤井四段は藤井七段に変貌を遂げていました。将棋ブームは去った、というよりは定着した、という感じに。藤井先生中心とはいえ、明らかに将棋がニュースに取り上げられることが以前より多くなってました。

話を戻して脚本の改稿の最優先はとにかくページ数を削ること。予算規模考えればそりゃそうだよね、ということなんですが、当初分厚かった主人公・英一(開発者)のライバル・陸(プロ棋士)のバックストーリーを大幅に簡略化したり、英一の奨励会時代の師匠を別の役に統合したりすることで、なんとかダウンサイズを達成し、最終的な撮影稿では121ページにまで切り詰めました。

そして、この間に途中からキャスティングなども進行。この辺りが具体的になるにつれ、ようやく「映画が撮れる」ということが、徐々にですが現実的に感じられるようになってきます。まだギリギリ眉は乾いてない、乾いてないぞ!という姿勢ではいましたが。

2019年上旬

時は経ち、ついにプリプロダクション(撮影準備)が開始されます。スタッフの招集、役者との顔合わせなどを経て、こうなるとさすがに眉毛もカラッカラ。「ほんとに撮れるんだな」の感慨も一瞬のことで、怒涛のようにいよいよ撮影へと突き進んで行きました。

2019年 5月〜6月 撮影

詳細な撮影期間はうにゃっと濁しますが、この期間に収まっています。撮影自体の各種エピソードは他でも出るだろうので詳述は避けるとして、一つあるのはニコファーレが無くなる直前の滑り込みセーフでロケすることができました。これまでの他作品の撮影でもそういったケースに遭遇したことがあるので、なんか自分はそういうとこはツイてんなあという気になったようなことがありました。

2019年 12月 初号試写

撮影終了後は約半年ないくらいの時間で編集と音とをやってました。まだ公開時期が確定していたわけでもないので、比較的のんびりやっていたかなーという印象です。時に将棋界では木村王位が誕生したりもしましたね。全ての将棋ファンが木村先生のファンであるように僕も当然ファンなので、この王位戦はものすごい熱心に観てました。

初号試写、というのはざっくり言うと「キャスト・スタッフ向けに完成品を見せる日」というものになります。試写に関しては色々初めて思い知ったことも多いんですが、ポイントとしては「感想を言うのも技術、受け止めるのも技術」ということでしょうか。基本的には脚本含めて全て知っている人が観るわけで、直接的に「Good or Bad」みたいな単純な感想にはまずならないので、言外の意味の読み合い、受取り合いになります。いずれにしても、完成の喜びというか、緊張の方が大きかったですね。

2020年 藤井二冠爆誕 第二次藤井ブーム

年明けて今じゃコロナの世の中でと世相が激しく変化していく中、藤井先生が初タイトル挑戦から矢継ぎ早に二冠を達成し、世は「第二次藤井ブーム」とでも呼ぶべきかのような様相を呈してきます。2017年のブームは一旦落ち着きを見せていた最中でしたので、同年公開の本作にとっては嬉しい後押しになってくれていると思います。

2020年12月25日 映画「AWAKE」公開予定

そうしてついに9月30日に、公式に公開予定日程がアナウンスされました。


以上、こう見ると結構ありがたいことに将棋界の盛り上がりのタイミングで、映画「AWAKE」の節目も偶然やってきているような気がします。そして、一報出し時のコメントで僕は「長かったなー」と言いましたが、こうやって並べると長かった感がある程度伝わるんじゃないかな、と。とはいえ新人とはいえこちらもそこそこに中年ではあるので、5年前とかこないだだよね、という感覚もあるっちゃあるんですが。

個人的にそんな時間かかるんだ!と思ったのは劇場が決まるタイミングが想像より先だった、ということです。考えてみれば向こう一年くらいは番組決まってるのは当然でして、はーそういうもんか、と。ちなみにここで言う「番組」は「映画」の業界人っぽい言い方です。他には「本編(ほんぺん)」とかも相当に業界人っぽいですが、寿司屋で醤油を「ムラサキ」と呼ぶくらいにはレアなので積極的な使用はお勧めしません。

脚本は、ダウンサイズしたものの、撮影前にどちらも読んでくれたスタッフの方からはいい意味で大きな印象は変わらない、とのことで長い改稿作業は有益であったのかなと思います。少なくとも、こちらが伝えたかったことややりたかったことを大きく曲げて仕上がったものではない、ということでそこはご期待ください。

さて、しょっぱなから取り留めなくなってますが、締めどころがわからなくなって来ましたので、まずはこの辺りで。次回は今回やってみてある程度自分なりに理解した、「映画監督ってなにやるの?」ということを説明してみようかと思います。