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「水道局の方から来ました」みたいな生命保険営業

「水道局の方から来ました」とインターホン越しに言われてドアを開けてしまうと、「水道局が物理的に所在する住所と同じ方角から来たので嘘はついていない」と居直る民間業者が謎の浄水器を押し売りするという商法が社会問題になったことがありました。

先日、私自身の将来相続対策(=法定相続人x500万円が非課税枠となることの利用)のための「終身保険」を探していたところ、ある外資系生保の営業パーソンから「介護保険付き終身移行型変額保険」という商品を勧められました。

この商品は一見すると「掛け捨てではない終身型で、加入すると生涯にわたる相続対策にもなる保険」に見えてしまいますが、その正体はまったく異なります。

「水道局の方から来た」という人が「水道局職員」ではないように「終身移行型保険」は「終身保険」ではありません。

一般的な定期保険(例えば保険金額1,500万円で保険期間15年)に「特別勘定」という名称の“投資信託もどき”が同じ期間抱き合わせ販売されているだけの代物です。

そしてその「特別勘定」を自己責任で運用した結果の金額で、定期保険終了時に一時払い終身保険を新規に買うこともできますよ、というオマケが付いているだけです。

そもそも「本物の」終身保険の引き合いに対して、確信犯的に誤解を招く商品名を使った似て非なる保険を勧めること自体に悪質性を感じますが、それ以上の問題点を実際に手交された「保険設計書」を基に解説していきます。

まず、私の性別と年齢で最初の15年間(これを第1保険期間と呼ぶそうです)に振り込む保険料は、1,500万円の死亡保障で総額1,800万円弱となります。

「保険設計書」にはこの保険料総額の内訳は何も記載されていませんが、合理的に考えれば、1,500万円死亡保障見合いの定期保険料、投資信託もどきへの出資金額、保険会社が得る利益の3要素で構成されていると推定できます。

そこで先ず定期保険部分の比較対象としてネット保険で私の年齢・性別をベースに15年間1,500万円の定期保険を見積もると15年間の払込総額は300万円弱との結果が数秒で表示されました。

次に投資信託もどき(=「特別勘定」)の部分での15年間運用した結果の15年後の解約返戻金ですが、利益は上げられなかったが損もださなかったという運用益0%の場合で1,200万円弱という設計になっています。

この2つの事実を併せると、「払込総保険料1,800万円弱」マイナス「定期保険分の保険料300万円弱」マイナス「勝ち負けゼロベースでの特別勘定での運用後の15年後の返戻金1,200万円弱」=300万円強が、保険会社の取り分と試算されます。

( 別途この保険商品の「売り」としては、第1保険期間中は「要介護認定2でも保険金を支払う」とか「3大疾病時には保険料払込免除する」というトッピングが付いていることらしいですが、ここの部分にかかる純保険料はその統計学的発生確率からして余程の高齢者でもない限りそれほど高額になるとは思えません。

また、比較対象とした定期保険を販売するネット生保も当然一定の利益を確保した上での見積もりでしょうから、イメージとしてはちょうどこの2点が相殺しあっていると考えても良いでしょう。)

300万円強/1800万円弱=約17%が蒸発する保険商品の設計は衝撃的です。

次の問題点は、私の保険目的が相続税非課税枠活用のための終身1,500万円(ちなみに私の法定相続人は3人です)の死亡保障額の確保という点であったにもかかわらず、本設計では15年後に「終身移行(これを第2保険期間と言うそうです)」する時点以降に1,500万円の保険金を維持する為には、第1保険期間での特別勘定での運用結果が年平均最低3%以上であることが求められる点です。

つまり、高額な販売・管理手数料が発生する特別勘定なので3%以上の運用結果を残せない限りは本来の目的であった1,500万円の死亡保障すら15年間に渡り総額1,800万円弱をつぎ込んでも維持することができません。

頂いた保険商品のパンフレットの表紙にはきりっとした笑顔の好青年の写真の横に「豊かな未来のために、今から」と大きく書いてありましたが、そういえば「あなたの未来」とは書いてありませんでした。

この保険商品はいったい誰の豊かな未来のためなのでしょう。

追記:

「水道局の方から来ました」という人が訪ねて来た際に浄水器をちょうど探していた、みたいな超偶然が発生する可能性はゼロではありません。

しかし例えそのような場合でも、その「水道局方面の方」とその場で契約をする前に、Amazonや近所のホームセンターで同じ性能の浄水器が幾らで売っているかを確認することは基本動作です。

同様に、今回の事例にあげたような保険商品の売り込みを受けたタイミングで偶然にも定期保険への加入と投資信託の購入を考えていたとしても、いったん立ち止まり、ネット保険やネット証券から同じ効果をもたらす商品をそれぞれ単体で買うと幾らで構成できるかを調べてみましょう。

ちなみに「終身移行」の部分は、定期保険満期時にそうしたければ別途一時払い終身保険を買えばいいだけの話であり、保険会社が何か魅力的な仕組みを組成してくれている訳ではまったくありませんので無視してくれて大丈夫です。

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