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権利のルールと実態を知るべし

 音楽ビジネスというのは権利ビジネスの塊でもある。実際、アメリカでは弁護士がマネージャーのケースが多い。
 日本の場合、明文化されていない業界慣習で回っている側面も強いから、著作権法と契約書に強いだけではマネージャーとして不十分だ。
 シンガーソングライターのマネージメントの立場だとすると、そのアーティストは、著作者(作詞作曲)であり、実演家(歌い演奏する)であり、CDをだしたり、ライブをやったり、映像作品としてテレビ番組に出演することもあり、それぞれのケースで、権利が発生し、契約が必要になる。他のアーティストに楽曲提供したり、アレンジ、プロデュースをしたり、サポートミュージシャンを務めることもあるだろう。俳優業をしたり、写真家や小説家として才能を発揮するケースもある。それぞれの分野でルールがあり、ギャラや印税の「相場」がある。アーティストマネージメントは、権利の束をハンドリングし、売り込み、交渉をする仕事なのだ。
 それぞれの業界の慣習は、明文化されていないことも多く、ましてやギャラの金額や印税率などは外部から知るのは難しい。知らない分野に関わる時は、基本構造を把握することから始めよう。そのビジネスにおけるキープレーヤーは誰なのか?例えば書籍を出す時は、出版社がキープレイヤーだ。著者印税は定価の10%というのが相場になっている。テレビで放送された音楽番組に出演した後に映像商品になる時は、出演者全員の許諾が必要だ。出演時の契約に、パッケージ化のギャランティまで含まれた内容で署名しないように気をつけよう。
 それぞれのビジネスでキープレイヤーがいて、自分たちに都合の良いルールを定めようとする。対抗するために業界団体が作られていて、団体間で話し合いをして料率やルールを定めるというのが日本では一般的なやり方だ。業界団体が何故こんなにたくさんあるのか不思議に感じるかもしれないが、それぞれの団体が、どんな権利の徴収分配をしているか、何のルール形成に発言権を持っているかという視点で見ると存在意義がわかると思う。
 何もかも知っている人はいないので、初めてでも臆さずに勉強すればいい。法律で定められていること、業界慣習的に決まっていること、個々の交渉によるパワーゲームの3種は区別して、構造的に学んでいく姿勢を持っておくとよいだろう。

『ミュージシャンが知っておくべきマネジメントの実務 答えはマネジメント現場にある!』(2017年9月刊)Chapter.7「契約とお金の話」から

 本コラムを書いた3年前と比べて、エンタメビジネスの民主化は進んだと思う。事務所を辞めて、そのプロセスや理由をYouTubeで語る有名タレントも増えている。セルフマネージメントの時代を以前から提唱している僕が言うのも変だけれど、そんな彼らがhappyにスケールアップするイメージは正直持てない。自分中心にしか世の中を見ることができないアーティストには、客観的な視点を持ったパートナーが必要なのだと改めて感じている。このままだと中途半端な弁護士の登場の機会ばかりが増えていきそうで憂慮している。そう、過払い金返還の時に活躍した弁護士事務所のように、、。まさにニューミドルマンがマネージメントやエージェントで活躍してもらえるように「場作り」していきたい。

 環境作りという意味では、昭和から引きずる無駄な慣習をとっととやめることも重要だ。日本はコロナ禍の今でも変わらず、紙の契約書を郵送している。特に音楽出版社が紙の契約書と捺印にこだわり、その事務のために何人ものスタッフを雇用しているのは、「構造的クリエイター搾取」だと思う。その工数は、本来楽曲の開発や作曲家の育成に使われるべきものだ。音楽出版権が利権として横行させるのは時代遅れだという感覚を日本の音楽出版社、特に放送局の子会社に認識してもらうことは音楽業界を良くするために重要だと思っている。そして、一日も早く紙の契約書をやめれなけばならない。もう昨日までのことが明日も続く時代ではない。みんな感覚が麻痺している自分に気づこう。麻痺している間に生産性が落ちて、日本が貧しくなっているのだ。


モチベーションあがります(^_-)