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第3章:「コネクテッドカー」から「ロボットカー」へ(後編)

『10人に小さな発見を与えれば、1000万人が動き出す。〜ビジネスに役立つデジタルコンテンツの話』(2015年6月刊)から

自 動 車 の「 再 定 義 」が 行われる時代

 さて、インターネットに常時接続可能な状態になった自動車=コネクテッドカーは、従来の車の概念を変える体験を僕たちに提供してくれます。車載OSを持ち、オンラインにつながったコネクテッドカーでは、車に乗ればデジ タル・コンシェルジュがあなたを出迎えてくれます。渋滞を避けた最短ルートはもちろんのこと、目的地の天候や、移動ルート上のお勧めレストラン、旅の目的のために必要な買い物の方法などを、ストレスなく知ることができます。駐車場を探して、ムダな時間を使うこともありません。あなたと同乗者用にカスタマイズされたBGMを聴きながら、快適なドライブが楽しめます。 一方で、テクノロジーの進化が高機能な電気自動車を可能にします。エコロジーの観点からも電気自動車への転換は進むでしょう。充電池の機能向上は、長時間運行な どの課題を克服するだけではありません。高性能な充電池を持った自動車があること は、災害対策にも有効です。地震などで停電になっても、ガレージに自家用電気設備があれば、安心ですね。復旧までの間の電力としては十分でしょう。
 インターネットの情報が簡単に入手でき、災害時の非常電源を持った自動車は、自宅が倒壊した際の「避難場所」としての機能があります。仮に道路が動かなくても、 車内に居れば、ある程度の安全確保と、適切な情報収集ができますから、非常時に社会インフラを補完することができるのです。東日本大震災でも日本が地震国であることが改めて認識されました。災害時の活用も意識して自動車を選ぶ時代になっています。
 これまでの自動車は、おおまかにいうと「ガソリンエンジンにタイヤとハンドルがついた乗り物」でした。燃費がいいこと、排気ガスを少なくすること、車体の振動を抑えることなど、ガソリンエンジン車として進化をしてきました。ロボットカーは、「OSにタイヤがついて、ネットにつながった乗り物」になりますから、ガソリンカー時代の特権は失われます。すでにアメリカでは、テスラモーターズという電気自動車専業の自動車製造会社が出現しています。 ガソリン自動車からの変換は、自動車産業に自らの役割の「再定義」を迫ります。
 日本の自動車会社は、さまざまな基本技術を組み合わせて設計開発する「テクノロジーデザイン」に長けているといわれています。この「テクノロジーデザイン」の高さは、「ガソリンカー」が、「ロボットカー」になっても、有益です。そのためには、ベンチャーとの連携も重要。モノづくりの仕組みが変わったことで、ITベンチャーによる製造業参入が増えています。ユニークな発想や、機敏な行 動のためには起業家精神が重要です。
 2001年創業の日本のベンチャー企業「ZMP」は、優れた自動運転技術開発 で、世界的に注目を集めています。二足歩行ロボット技術をベースに、自動運転中の 認知について先進的な技術を持っているからです。

 ロボットカーの時代は、大手企業の蓄積されたノウハウとベンチャーの革新的なアイデアを融合されることで、飛躍が起きることでしょう。2015年2月には、一部報道機関が「アップルが2020年にも電気自動車を製 造開始する」と報じました。アップルからの公式発表はありませんが、既存の技術を 組み合わせて、高いデザイン性で市場ニーズに応えるというのは、Mac、iPo d、iPhoneでアップルが得意としてきた手法です。近い将来、自動車を購入する際、アップルかトヨタか、グーグルかボルボか、とい う選択を迫られる時代がくるでしょう。

「コネクテッドカー」から 「ロボットカー」へ。期待と課題

 100年以上の歴史を持ち、モータリゼーションで世界を席巻した自動車は、コネクテッドカーとして再定義されつつありますが、それもまだ過渡的な状態です。 コネクテッドカーは、すぐその先でロボットカーによって再定義されるのです。
 コネクテッドカーは、従来の自動車にネットが接続されて、より利便性が高まるというものですが、ロボットカーの登場は、社会の仕組みと自動車の役割を根本から変えることになります。 「ロボットカー」の普及で解決が期待できることはたくさんあります。
 まず交通事故が大幅に減らせるでしょう。特に日本では高齢化時代をむかえ、普通免許に年齢上限を設ける議論がされていますが、そんな心配もなくなります。
 また道路状況をリアルタイムに把握して、統合的に管理するので、交通渋滞も大幅に解消されると思います。現在、都市部を走っているトラックが無人化されると、物流コストの大幅削減にもつながります。ショッピングモールなどでの大型駐車場が必 要なくなり、公道での違法駐車がなくなることで、都市設計の効率化も期待できるで しょう。いいことづくしに思えるロボットカーですが、社会に大きな変化を促すことになるために、実現のための課題も山積しています。 道路交通法をはじめとする法律の整備が必要です。交通法の根本の概念からつくり直す必要があるでしょう。激減するといっても、完全にはなくすことができない交通事故に対する、自己責任の範囲や公共の交通システム運営の担保なども課題です。
 自動運転プログラムにミスが起きた場合に、所有者の設定が悪いのか、自動車製造 会社の責任なのか、ソフトウエア開発会社に事故賠償責任はあるのか、難しい問題です。そもそも交通事故件数が100分の1になったとしても、その1回がコンピュータのミスで起こったものならば、人為的な事故よりも、許せないという気持ちがわいてくるかもしれません。
 最近は、アノニマスというハッカー集団のサイバー攻撃などもニュースになっています。自動運転システムを、サイバーテロの対象にされると、大規模な事故につなが る危険がありますので、セキュリティ面の課題もとても大きいものです。既存の産業への配慮も必要になります。すぐに思いつくのは、タクシー業界、運送業界、自動車教習所などのビジネスに影響を与えるということです。これらの業種は、法律や行政指導で規制されているので、新規参入の障壁が高く、結果として既存のプレイヤーが既得権益を守っているのです。自らの業態が脅かされる変化には、強い反発が予想されます。実際、「ウーバー」もタクシー業界の反発があり、日本では あまり普及していません。
 一般的にユーザーは新しいものに対しては、漠然とした不安がありますので、そうした不安心理を利用したネガティブ・キャンペーンが展開されるでしょう。交通安全 を大義名分として、運輸、警察官僚とその周辺が反対勢力にならないよう配慮する必要があります。
 たとえば、あらかじめ、渋滞の最小化をミッションとした自動運転事業の管理を運輸、警察などの新たな業務にするのはどうでしょうか。日本では業界同士の対立構造 が生まれたときに改革が止まってしまうケースが多いので、既存勢力にもメリットが 感じられる進め方をするのがポイントです。
まずは、高齢化が進む地方で、特区をつくり、ロボットカーによる自動運転の街をつくりましょう。世界的に注目されますし、自動運転に伴う、新たなビジネスも生まれ、地域の活性化にもつながるでしょう。 近年、ちょうど「地方創生」が叫ばれています。人口が減っている地域で、むやみに公共事業を行ってもムダ使いで、活性化にはなりません。地域の創生施策として 「ロボットカー導入特区」の街づくりを提案します。自動車産業は世界の最前線で日本を牽引している業界です。「ガソリンカー」での 優位性が失われてしまう前に、日本こそが、世界に先んじて「ロボットカー」の導入 を進めていくべきでしょう。
 多額の研究開発費を投じ続け、テクノロジーデザインに秀でた日本の自動車産業 が、「ロボットカー」についても世界をリードする立場を確保することは、日本の産 業界にとっても非常に重要なのです。ロボットカーが一般化すると、自動車の中は、エンターテインメント・シアターに なるでしょう。移動中も自宅と同様、スナックをつまみながら映画を観たり、雑誌を めくりながら音楽を聴いたり、ニュースをチェックすることもできるのです。
「ロボットカー×エンターテインメント」は、日本の魅力やこれまで培ったさまざま な発想や技術を活かしていける分野です。
 自動車免許を持たない僕は、ロボットカー特区の街ができたら、すぐさま訪れ、車内エンターテインメントの楽しみ方を伝える、コンシェルジュとして役に立ちたいと 思います。歌詞検索や楽曲リコメンド機能を使って、移動中の景色や名所にちなんだ 作品を楽しんでいく、そんなドライブは楽しいと思いませんか。
 ところで、エンジンの振動が好きで、車の運転が趣味の方は、ロボットカーの時代 になると、楽しみがなくなると、不安になっているかもしれません。ご心配なく。そういう趣味の方に向けて、ガソリン自動車で高速運転ができる環境 を提供するサービスが生まれることでしょう。
 ガソリン自動車を自ら運転することは、贅沢な嗜好として残っていくのです。 そう、乗馬クラブのような高尚な趣味として。

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<2020年のPost Script>
 5年前は、まだおっかなびっくり書いている感じですね。最近は世の中に自動運転車に対する認識が広まっていることも感じます。人々の意識や習慣が自動運転車の一番の課題ですから、準備ができつつある気がします。TOYOTAはこの一歩先に行くためにスマートシティをつくる発表をしましたね。社会を大きく変える分野ですもありますし、日本が世界的にトップクラスで、多くの雇用も抱えている自動車産業をどう時代に合わせていくのかは、政治的な課題でもあると思います。
 いずれにしても、移動中がエンタメシアターになる時代はそんなに先ではありませんので、エンタメビジネスに携わる人は、しっかり構想を練りながら、そろそろ準備を始める時期になっています。位置情報と紐付けて音楽をリコメンドするみたいなアイデアは昔から語られていますが、もうすぐ当たり前になるでしょうね。ARゲームをするために移動する人も出てくるでしょう。観光業とエンタメの連携もやりやすくなってきます。タクシーやバスの運転手は失業するけれど、バスガイドからスターが出てきてモビリティアイドルという分野ができるかもしれません。移動することはエンターテインメント。エンタメを楽しむために移動する、そんな発想で新しいサービス考えたいですね。

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モチベーションあがります(^_-)