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君、ババアと呼びたもうこと勿れ。

ババア。

ばばあ。

BBA。

お上品な言葉では無い。良いイメージも無い。そして、女性を蔑み捨てたようなこのフレーズ。

今一度言おう。

ババア。

あなたはこの言葉にどんなイメージがあるだろうか。

実はワタクシ、自らこの「ババア」を使っている。息子に対して限定だが。

「ババア、今日パート残業だから遅くなるよ。」

「ちょー、ごめん。ババアのコップ持ってきて。」

「みてみて!今日買ったトムとジェリーのTシャツ、ババアお似合いじゃない?」

ババアがトムとジェリーのTシャツを着て良いものかどうかは取り敢えず置いておいて、我ながらとんでもない言葉遣いである。

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私は息子が小学校に入学してからずっと小学校の図書ボランティアをしている。

ボランティアを始めた頃から、その中で思春期反抗期絶好調の大きいお兄ちゃんのいる先輩お母様方から「壁に穴が開いた。」だの「取っ組み合いのケンカをした。」だの「ババアと言われた。」だの、そんな思春期反抗期男子のご乱心っぷりを聞いてきた。

「うちの子もいつかそんな時期が来るのかぁ。」と、これから行く道に目を細め、諸先輩方の話を拝聴していた。

それから数年後、中学生になろうかという年齢に差し掛かった息子。何やらイライラしている事が増え、段々と親にちょい反発する姿もちらほら。

さぁ。来たで。来たで。
"親が嫌。なんか嫌。とりあえずウザイ。
一々返事するのも面倒くさい。"

遺伝子レベルで拒絶するその姿。

HA⭐︎N⭐︎KO⭐︎U⭐︎KIだ!

さぁ。心の準備をせねばならない。
何を大袈裟かと思われるかも知れないが、私は基本、小心者だし、イレギュラーな事が苦手だ。

だからピンチの時には私は精神がパニックを起こしアゲアゲ↑になる。脳内のアドレナリンがめっちゃ出るんだと思う。

そんなワタクシ、心の準備、超大事。

最悪の事態を想定し、早急に対策を練らねばならぬ。
"一番嫌な事ってなんだろう。"と、思った。

あるある話の1つ目(①)。
"壁に穴が開く"は、「まぁ、人に暴力が向くよりマシかなぁ…。」と思わんでも無い。
行き場のない若さの暴発であろう。多少なりは目を瞑ろう。
ただ我が家のローンはまだまだ終わらない事は知っておいて頂きたい。

2つ目(②)。
取っ組み合い…その時の状況によりけりか。もう腕力では敵うまい。
どっちかというと、激昂の果てに力に敵わない私が突発的に、噛み付いたりしてそうだ。
一応、応戦可能。
…息子を噛む。親として、人として如何なものか悩みどころ。

3つ目(③)。
"ババア"の暴言…。ドラマでもアニメでもよく聞くこのフレーズ。
「あるあるのある」だろう。一番ありそう。

あー。しかし「ババア」はかなりショックかも。
ショック過ぎて、小粋な返しが出来なさそう。
②の肉体的ダメージより、精神的ダメージの方がワタシにはキツそうだ。

別に若ぶっている訳でもないし、オバチャンの最上級形であるババアのの表現が嫌な訳じゃない。

なんというか…お分かりいただけるだろうか。

歳食った女性の表現以外に、すんごく他人行儀で打ち捨てたような、最高に自分にとってどうでもいい人っぽく聞こえる感じがしない?

"ババア"って。

それを仮にもお腹を痛めて産んだ我が子がワタシに言い放つのだ。
息子とは一歩二歩と離れる気持ちは勿論あるものの、ババアの光年レベルの距離感は流石に傷付く様な気がするのだ。
ババアは想像出来る範疇のあるあるのクセに私には致命傷なDead word。

破壊力抜群。


でも不思議なことに、自分で言う分には全然平気なのだ「ババア」。

全然言えちゃう。ババア。

考えてみると、自らババアと称する事でそれは予防線にもなり「大丈夫ですよ!ワタシはババア位じゃ傷付きませんよ!」的なアピールになる。
(本当はガッチリ傷つくクセに。)

それに、いきなりババア発言が来たとて、多少なりとも自ら発する言葉で聞き慣れている分、ショックは軽減されそうだ。

イケる!この作戦!
完全に虚勢だけど。


そんな訳でワタシはある日から自分の事を息子限定で「ババア」と呼ぶ事にした。

思春期反抗期が色濃くなってきたイライラ息子は自室のクッションに当たっている形跡はあるものの①の"壁に穴を開ける"事態に至るまでは無かった。

が。

ある休みの日の昼下がり。
リビングで彼が苛ついた感情のままに私と言い争い、話し合いを放棄した。息子がプイッとソッポを向き自室に向かおうとした時、私が思わず彼の手を掴んだその瞬間。

息子は反射的に思いっきり私を振り払い、私はよろけて無様に床にこけた。

ついに②、発動の瞬間である。

ワタクシ精神的ダメージ推定65%。結構クル。

しかし、その即座に

「お前はさっきから、何をしてんねん!!」

と、怒号がリビングに響いた。

その瞬間までソファで寛ぎ「我、関せず」体制だった夫だ。

普段、物事に動じず「はっはっは。」と、しか言わないような"キング オブ 穏やかさん"の夫。

夫は私の事を決して「お前」と呼ばないので、この怒号は明らかに息子に向けられた言葉である。

思わぬ事態に息子はバツが悪そうに少し下を向き自分の部屋に行った。

夫は普段、声を荒げて怒ることがないので、息子は自分のやらかし具合の重さを感じ取った様だった。

夫はそれ以上、息子に何も言わなかった。

夫もかつては反抗期を経験した元男子。
思う事もあるようで、あまりうるさくは言いたくないようだ。

「多分、もう分かってると思うから、もう何も言わんでいいよ。様子だけ見といて。」と、ワタシに釘を刺す夫。

「訳:いらんこと言うな」である。

私が整然と話そうとしてもやはり、何処かガバガバな話になる事も多く息子を混乱させる事をお見通しである。

下手すれば最終的に「お前の母ちゃんデベソ!」レベルの諍いになってることもありうる。
「お前の母ちゃんデベソ!」と、私が言ったところで彼の母はワタシなので強烈なブーメランが返ってくるのだが。

そもそも「なぁ…息子よ。ババアは思うんやけどな。」と、諭すも一人称がババアな時点で緊張感も説得力もゼロだ。
何でこんな時まででもババアかと言うと、もう完全に自分でクセになってしまっているからだ。

ついでに言うとこの時から数年後の今現在もクセは抜けていない。

習慣ってコワイ。

暴力(?)の域なのかは分からないが、息子が私に突っかかる事はあれど、手を出したのはこれっきりだった。


ところで、私は諸先輩方から来たる反抗期に向けて金言を授けられていた。


「男子なんて走らせときゃいい。」

である。

夫にも「若い時、こう…モヤモヤ、イライラした時ってどうしてた?」と、聞いたらば

「え? その辺走ってた。」

と、言うのでこの金言は信憑性がかなり高い。
そういや、弟も中高生の頃よく走ってたっけ。

でもどうやって走らすの?
「そんなイライラするなら走っといで!」
と、言ったところで大反発請け合いだろう。

そんな疑問の中、イライラモヤモヤの男子は、そうこうしている内に高校受験という自身が初めて大きく試される試練を経験する年齢となった。

ワタシはこの時、自分の時は思わなかったある事を強く思った。

何で思春期反抗期エイジに受験なんてイベントがあるねん。


イライラモヤモヤに加えて、ピリピリがはいるのである。
すんごく面倒くさい。

よく忙しい事や吉事が重なり、その賑やかな様を「盆と正月が一緒に来たようだ。」と、言うがこれはそのダメな方面の対義語である。

これから皆さんも「思春期と反抗期と受験が一緒に来たようだ。」を是非、語彙に加えていただきたいと思う。

話は逸れたが、そんな自分の心の揺らぎに敏感でそれを制御出来ない時期を彼は過ごし、私は私で嵐が過ぎるの待つか様に、見て見ぬふりをしつつ放っておいた。

たまに風穴を空けないと大火事になりそうな膠着状態時もあった。
しかし、息子の"いなし方"を早々に習得していたワタシは、

「うもー。またそんな態度とって甘えちゃってぇー。(棒読み)」

を繰り出した。

すると彼はよくハッとした顔をした。

考えるがいいのだ。
ガムシャラ猪突猛進だけが芸じゃない。

そうしている内に、受験の空気が強くなる夏に差し掛かる頃、息子は少し時間があると近くの川沿いを自発的にランニングするようになった。

その時、ワタシは初めて諸先輩方の金言である「男子なんて走らせときゃいい。」の本当の意味を知る。

「おお…古き言い伝えは誠であった。」
完全にナウシカの大ババ様状態になるワタクシ。

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こちらが仕向けるのではなく、"本人の自発的解消を待っときゃいい。"なのだ。
そしてそれが発動したらば、それを"見守る=走らせときゃいい。"なのである。

本人にしても、持て余すエネルギーを発散するには走るのが一番手っ取り早いのだろう。

思春期反抗期の嵐の中、ワタシはすっかり忘れていた。
子育ての基本は「待ち」なのだ。

ワタクシ、眼から鱗。

自分のどんな気持ちも思いも結局自分自身だけのもの。
それに気付くのなら、息子はずいぶんと大人になっていると思った。

そんなこんなで、次第に機嫌のハイ&ロウはありつつも理不尽で機嫌任せの反抗は、徐々にさざ波の様に寄せては返しと落ち着いていった。


その夏真っ盛りの夕方、パートの帰り。
首筋にジリジリとした熱を受けながら歩いていると、後ろから「チリチリ」と空回る自転車のベルが聞こえた。

振り向くとそこには学校帰りの息子が居た。

「…後ろ乗る?」

にわかに信じ難い事を息子が言った。

家まで100メートルほどの地点。
もうここからは殆ど車の通りはない。

「警察に捕まるで。」と返したらば、息子は「大丈夫やろ。いざとなったらお母さんが怒られて。」と言った。

自転車の荷台に乗る。
前カゴに載せた学校のカバンだって相当重量がありそうだ。加えてババアひとり。

2人乗りなんて、夫と若い頃に乗ったっきりか。
ああ。違うな。この子が小学校に上がるまで、この子は後ろで私は前で漕いで2人乗りだったっけ。
今はすっかり逆になってることに、ついニヤついてしまった。

20m走ったぐらいだろうか。
息子は突如急ブレーキを掛け大声でこう言った。

「あー!しまった!! ババア乗せてもうた!! 初めて自転車乗せるのは、彼女にしようと思っていたのに!!」


ババア。

ばばあ。

BBA。

ワタシの頭の中でリフレインするババアの3文字。

ここにきて③発動である。

そんなん言われても知らんがな。
そもそも、アンタ彼女おらんやん。知ってるで。

ぶつくさと息子は文句を言いながら、再び自転車をグイッと漕ぎ出す。

ワタシは何だか笑いが込み上げ、先程の息子に負けないぐらい、大きな声で笑いながら

「ざまあみろー!!」


と、言ってやった。

自転車はギュンと進む。息子は何も言わない。
汗でにじむ肌が風に撫でられ心地良かった。
アスファルトから上がる湿気を帯びた空気。
夏の夕方、赤紫の空の色。

反抗期ももう終盤なのだろう。そんな気がした。



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