大雪日和 -白雲岳で紅葉狩り-
春から秋が約4ヶ月に凝縮された大雪山。頂上付近では8月末に秋がはじまります。
年によって前後しますが、8月末の頂上付近は秋の雰囲気が漂っています。ウラシマツツジやクロマメノキなどの低木は赤や黄に染まり、エゾナキウサギやエゾシマリスは、頻繁に駆け回り食料を咥えて巣穴を往復しています。すでに冬支度、貯食に大忙しです。
『大雪日和』の第3編では、大雪山で出会った紅葉の景色を紹介します。
今回は『白雲岳で紅葉狩り』と題して、頂上付近の紅葉です。
01 氷点下の朝
9月5日の朝5時。白雲避難小屋の前の雨水を貯めるバケツには薄氷が張っていました。朝方にかけて冷え込んだと感じていましたが、この時期に氷点下になるとは。
テント場を5時半に出発して白雲岳頂上に向かいます。風はなく快晴。朝陽が白雲岳の斜面をゆっくりと降りてきます。白がかったハイマツの葉がみずみずしい緑色に戻りキラキラと輝きだします。
小屋を出て5分くらい登ったところで霜に縁取りされた色とりどりの葉に目にとまります。チングルマです。
葉を縁取る霜が溶ける瞬間を狙おうとじっと待っていると突然、バキバキっと大きな音が響きます。20mほど先のハイマツの森が音と共に激しく動きだしました。
音がしたところを見ながら慎重に後退りしているとハイマツからヒグマの顔が出てきました。私ではなく小屋の方を見ながら鼻で風を感じているようです。まだ私には気づいていないようです。ゆっくりと後退りを続け、ヒグマが見えなくなったところから足早に白雲分岐に向かって登りました。
この写真を見るたびにその時の光景が思い出されます。
02 色づく景色と山の住人
ウラジロナナカマドとヒガラ
白雲岳の斜面のウラジロナナカマドの朱に見とれているとヒガラの群れが飛んできてハイマツの枝に止まりました。一休みして、皆が飛び去っても1羽だけなかなか飛び立ちません。
毛並みをみると幼鳥のように見えます。鳴いて仲間(親)を呼びますが、反応はありません。しばらくして、意を決して皆が飛び立った方角に飛び立っていきました。
ウラシマツツジとエゾナキウサギ
頂上直下では、ウラシマツツジが真っ赤に染まっていました。
冬眠しないといわれるエゾナキウサギは長い長い冬に備え、頻繁に現れては草を刈り取り巣穴に引き返します。そして、貯食の合間にはいつものように岩に登って、しばらくじっとあたりを眺めます。
何を見、何を感じているのか。
真っ赤に紅葉したウラシマツツジが見える岩の上で。
黄葉の斜面とエゾシマリス
8月終わりには陽光を照り返していた真っ赤なウラシマツツジの葉も9月中頃にもなるとずいぶんと色があせていました。そんな斜面を食べ物を探しながらエゾシマリスが駆け回ります。
エゾシマリスが立ち止まった岩から見渡す景色もまた秋色が広がっています。
03 秋色の絨毯
白雲岳の頂の直下に広がる草原では、たくさんのチングルマの果穂が輝いていました。少し前までは活き活きとした緑基調の草原が秋の装いになっていました。
6月は荒涼とした岩礫の斜面が7月には緑に覆われ、そして9月にはこの景色。斜面を彩るのはウラシマツツジやエゾツツジ、チングルマ、クロマメノキ、ミネヤナギなどの低木。相変わらずの濃い緑はハイマツ。照りつける陽射しに斜面が輝きます。
04 冬支度
早いときは9月に冠雪し、草原が見えなくなるほど積もることもあります。そして長いときは翌年の6月までの約8ヶ月間、雪に覆われます。
エゾナキウサギの貯食
まもなく雪に覆われることを知ってか8月下旬には、食料集めに奔走しています。エゾナキウサギは冬眠をしないといわれており、冬ごもりの間の食料を集めなければなりません。何度も何度も草や低木を刈り取り、巣穴に運びます。
刈り取った食料を咥える姿は可愛いですが生きるために懸命です。
エゾシマリスの冬支度
まだ冬支度が十分ではない9月中旬の大雪。積雪を免れた岩陰のわずかな草地を求めてエゾシマリスが駆け回っています。食料を見つけては頬に貯え、見通しのよい岩に登っては辺りを見回しながら頬の中を整理します。
ぷっくりした体を見ると、この子に限ってはもう冬ごもりの準備は万端のようです。
05 過ぎゆく季節
17時前の山頂。まもなく沈む太陽を薄雲が覆い、溢れ出した光が、虹色の環を浮かび上がらせます。秋色に染まりはじめたエゾノマルバシモツケの彩りが増していきます。
夕陽に染まりゆく白い波は、音もなく山肌を打ち付けています。
≪編集後記≫
花にはほとんど会えず、紅葉には早い8月末はほとんど登っていませんでした。2019年にはじめて登るとエゾナキウサギに出会う頻度がこれまでで一番でした。しかも背景には紅葉が入ります。
エゾシマリスも同じでした。しかも少々の雨や風でも活動しています。
この時期の大雪山も好きになってしまい、翌シーズンから外せなくなりました。
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