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白昼夢

 お昼寝って幸せ。
 一人でするお昼寝はただスッキリするだけだが、彼女と一緒にするお昼寝はとても幸せだ。

 昨日はお昼過ぎくらいに彼女の家に行き、ソファーでしばらく喋ってから「なんか頭が痛いから少しだけ寝ていい?」と言って寝室に向かった。
 
 彼女と付き合って2年4ヶ月。
 付き合いたての頃は「頭が痛いから寝たい」なんて弱い部分を見せたくなくて言えなかった。
 しかし、付き合っていくにつれて考え方も変わった。

 自分の弱い部分を見せないと彼女も弱い部分を見せれない。
 
 そんなふうに考えるようになった。
 もちろん、いきなり弱い部分を見せられるようになったわけじゃないけど少しずつ、少しずつ時間をかけて見せられるようになった。
 そうやって彼女に支えてもらったら今度は僕が支えていく。その繰り返しだ。

 そんなわけでベッドで横になり、彼女の鎖骨あたりに額をくっつける。
 彼女のTシャツから優しくて落ち着く匂いがする。柔軟剤の匂いではなく彼女の匂い。
 好きな人の匂いはアロマを嗅ぐより入眠に良いと思う。

 彼女はインスタを開き、動物の動画を見せてくれた。
 犬が楽しそうに遊んでいる動画や猫の寝ている動画など癒される動画ばかりだった。
 「動物の動画って無限に見れちゃうわ」と言って画面を閉じた。

 「30分くらい経ったら起こそうか?」
 「おしゃべりする時間短くなるの嫌だから20分後に起こしてもらってもいい?」
 「いいよー!」 
 「ありがとー」
 そう伝えて目を閉じた。退屈にさせちゃって申し訳ないなと思ったけど、こればかりは仕方がない。
 
 彼女は僕の前髪を手で梳(と)かしてくれた。それがとても心地よくてすぐに眠ってしまった。
 犬が飼い主に顎の下を撫でられると気持ち良いように、僕も彼女に前髪を梳かされると気持ちがよくてすぐに眠ってしまう。

 そして、20分が経ったのかアラームの音が聴こえてくる。
 まだ、痛みが残っているから彼女に起こされるまでは目を瞑(つむ)っていようと思っていると彼女も眠り始めた。
 僕の思考が読まれているのか?と思ったけど、いつの間にか僕も眠ってしまった。

 僕が目を覚ますと、彼女は寝返りを打って背中を向けていた。
 彼女の背中を見ていると、何かの引力に吸い込まれるようにくっついてしまう。
 ニュートンはリンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見したらしい。
 僕は背中に吸い寄せられるのを感じて万有引力を体感した。

 
 犬が投げられたボールに反応するように、彼女の寝ている背中を見ると抱きしめたくなる。
 これは人間の本能というやつかもしれない。抗うことなどできないのだ(抗うつもりもない)。
 
 トトちゃん(飼っているハムスター)の寝ている時の背中も愛おしさを感じる。彼女の寝ている時の背中からも愛おしさを感じる。
 好きな人や動物の寝ている背中には愛おしさが詰まっているのかもしれない。
 そんなことを考えながら、彼女のお腹あたりに手をまわし再び眠る。

 目を覚ますと40分ほど眠ってしまっていた。
 
 彼女を起こそうと思い、顔を覗いてみると口を半開きにしながら気持ち良さそうに眠っていた。
 これまた愛おしい部分を見つけてしまった。
 彼女は普段、美容に気を遣っていたりと外見を磨く努力を惜しまない(もちろん性格も素敵だし、内側も磨く努力をしている)。
 というより、美容に関することが大好きなのだ。
 
 メイクをしている姿も大好きだけど、口を半開きにしながら寝ている姿も同じくらい大好きだ。それぞれ違った可愛さや綺麗さ、そして愛おしさがある。
 頑張っている姿も素の姿も全部ぎゅーっと抱きしめたくなるくらい大好き。
 
 
 彼女は目を覚ますと「寝過ぎちゃった」とむにゃむにゃとしながら言った。
 まだ眠たそうにしている彼女の表情を見ていると、幸せな気持ちになった。
 土曜日のお昼過ぎにお出かけもせず、ただ一緒にお昼寝をする。
 幸せな夢を見ているかのような休日。
 
 窓の隙間からは心地の良い風が入ってくる。
 僕は再び、夢の世界に戻る。

読んでいただきありがとうございました。