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ことばと生き方──ことばに対するこだわり

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若い頃から「ことば」というものに興味があり、2001年から2018年まで“ことばのWeb”を主宰していた流れで書いた文章を集めています。
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記事一覧

それは「言葉の乱れ」なのか?

「言葉の乱れ」みたいな言い方はしません。「乱れ」と言ってしまうのはあまりに乱暴だから。 それはちょうど、僕らが中学生の時に、制服の詰め襟のホックをちょっと外していたり、ちょっと幅の広いベルトをしてきたりしただけで「服装の乱れ」なんて言われたのと同じように思うから。 とは言いながら、この年まで専ら日本語を使って生きてきた老日本人としては、やっぱり昨今の皆さんの言葉の遣い方にあまり馴染めないところがあるのも事実です。 例えばこういうことが「言葉の乱れ」などと言われますが…例

写真はイメージです(和製英語のイメージ)

英語を学んでいる人にとっては和製英語の知識が鬼門になったりします。 普段日本語の一部として親しんでいるから、ついつい英語でも通じるもんだと思いこんで使ってしまったり、あるいは逆に、これは和製英語だろうから通じないと思っていた表現が意外にも英米で使われていたり…。 まあ、学んでいるうちに知識も次第に蓄積されてはくるんですけどね。 例えば、OL(オフィスレディの略)は誰もが知る和製英語ですが、この表現が使われ始めたころには BG(ビジネスガールの略)という和製英語もありまし

フリーレンの登場人物たちの名前の意味

かく言う私もそのひとりですが、日テレのアニメ『葬送のフリーレン』が終わってしまって、フリーレン・ロスに呆然としている御仁も少なからずおられるのではないかと推察します。 ある人の note で、フリーレンという名はドイツ語の frieren という動詞(英語の freeze に当たる;「凍らせる」の意)から来ているという話を読みました。 そう言われると、他のキャラクター名もドイツ語っぽい響きを持っていますよね。ひょっとしたら全員かもしれません。 幸いにして私の大学時代の第

好きな言葉──我々の異性は女性です

先日、嫌いな言葉について書きました ↓ ので、今回は好きな言葉について書きます。 僕が、恐らく中学時代だったと思うのですが、思春期に出会っていたく感動した表現──それは「我々の異性は女性です」でした。 おぼろげな記憶で書いているので間違っているかもしれませんが、多分1970年代初頭の資生堂の男性化粧品ブランド「ブラバス」の CMコピーでした。(追記註:ブラバスだと思い込んでいたのですが、調べてみるとどうやら資生堂は資生堂でもブラバスではなく MG5 のコピーだったようで

ポケモンの名前に見る和英翻訳の妙技

先日、英語の先生と話しているときに、ポケモンの日本語名と英語名の話題で盛り上がったので、そのことについて書きます。 その先生はユダヤ系アメリカ人で、来日して日本語の翻訳者になるべく勉強をしている人です。 彼は小学校時代ポケモンカードの収集に熱中したのだそうです。僕は年が年だけにポケモンのことは近年までほとんど何も知らなかったのですが、数年前から iPhone で Pokémon GO をやっています。僕がそのことを話したのが発端でした。 そこで、「君の一番のお気に入りの

「◯球」──球技の名称についての考察

人気漫画『ハイキュー!!』のタイトルは、言うまでもないですが、バレーボールが昔「排球」と呼ばれていたことを踏まえたものです。 明治以降の日本人は、外国語を訳すときに、それが今まで日本になかった物や概念であった場合、それらしい漢字を当てはめて新しい日本語を作ろうとしました。例えば明治初期に作られた「自由」とか「権利」とか「哲学」などという言葉がその例です。 そして、スポーツの世界でもそれは行われました。多くの球技に「◯球」という訳語があります。 野球さて、今ではバレーボ

荒れるソーシャル・メディアを考える──あなたはそこに行ったことがあるか?

僕は2009年に twitter を始めましたが、そのころの、言わば日本における黎明期の twitter は、嫌なことをつぶやく人がほとんどいない、とても快適な空間でした。 たまに嫌なこと、攻撃的なことを書く人が現れても、皆でそれをガードしようという雰囲気さえありました。 例えば、あれはアカウントを作って2年目ぐらいだったかな、僕に対して所謂クソリプをぶつけてきた人がいて、僕が「けったくそ悪いツイートを読みたくないので、そのツイートが早くタイムラインの下のほうまで行って視

「#」を何と読みますか?

どこの業界にも会社にも独特の専門用語や符牒があるもので、僕も大学を卒業して放送局に就職したときに、たくさんのよく分からない言葉に出会いました。 その中でも特に不思議だったのが、番組(特にドラマなどの続きもの)の回数を示すのに「シャープ1」「シャープ2」などという表現が使われていることでした。 台本の表紙にも書いてありましたし、会話でも例えば、「あの番組、シャープ3ぐらいまでは良かったけど、その後グダグダになってきたね」などと使います。 初めてその表現を聞いたときには、シ

これって徳島弁?(どなたか徳島県出身の方いらっしゃいませんか?)

僕の母方の祖母は徳島県出身で、大阪に出てきてからもかなり徳島弁(阿波弁)の語彙で喋っていたように思うのですが、中に時々「これってほんまに徳島弁?」と首を傾げたくなるような単語や表現があって、もし note を読んでいる人の中に徳島出身の方がおられたら訊いてみたいなと思ってこの記事を書きました。 祖母は明治時代の末に徳島で生まれ育って、徳島で結婚し、二女を設けましたが、夫とは早くに死に別れ、まだ幼かった長女と次女(僕の母)をつれて大阪に出てきました。 そして、僕の母が結婚し

漢字の愉しみ──1つの漢字にいろんな意味がある

僕は漢字が大好きです。 漢字は表意文字なので、漢字を使う日本語は表音文字を使う英語などより少ない量で多くの意味を伝えられると言います。 だから、twitter の初期には同じ 140文字だったら日本語でつぶやくほうが有利だなんて言われました(その後英語の文字制限は 280文字に拡大されましたが)。 そして、漢字は元々中国の文字ですから、我々は中国語を知らなくても、中国語圏に旅行したときには案内看板やメニューなどを見て大体意味が分かります(同じ漢字が日中で全然違う意味の場

関白とスニーカーの頃

先日、カラオケに行った時に友人が『関白宣言』を歌ったのですが、それを聞いていた別の友人が、「こんなの、いまだったら完全に差別で歌えないわよねえ」と言いました。 確かにそうでなんですよね。ただ、さだまさしの巧妙なところ(と言うか、僕としては「悪質なところ」と言いたいのですが)は、歌詞の中でこれから妻になる女性にまさに関白的、男尊女卑の権化のような要求を山ほど積み重ねておいて、最後に「できる範囲で構わないから」と添えて締めているところです。 末尾に付け加えたこの一行にうっとり

ぶりぶり

前にも書いた、と言うか、あちこちに何度も書いているのですが、僕は「どんぶり」を「丼ぶり」と表記するのが気持ち悪くて気持ち悪くて仕方がないのです。 もちろん言葉というものは変わって行くものだということは重々承知しているのですが、いや、これだけは何とかならんものか、と思ってしまうのです。 表題写真にあるように、全国に多くのチェーン店を展開する企業がこんな看板出してくれちゃたまらんなあ、と今日もため息をつきながら写真を撮ってしまいました。 多分知らない人が多いからこんなことに

「癒やし」「泣ける」「実話に基づく」 ~僕が避けている3つのフレーズ

皆さんは、例えば映画の宣伝文句で、聞いただけで萎えてしまって観る気にならないようなものがあるでしょうか? 僕が気難しい人間だからなのかもしれませんが、僕にはそういうのがいくつかあります。萎えた気持ちで観たって却々のめりこめないので、そういうフレーズで売っている映画はついつい観るのを避けてしまいます。 それは「癒やし」「泣ける」「実話」の3つです。 まあ、でも昨今そういう売りの映画が大変多いですから、完璧に避けるのは難しいし、宣伝文句には拒否感が強くても他に観たくなる要

あなたのお尻はいくつありますか? ~翻訳は難しい

ここ数年、僕は家でヨガをやっています。最初は YouTube の動画を見ながらやっていたのですが、今はアプリを入れています。で、このアプリの日本語が微妙に気持ち悪いのです。 元々は英語で作られたアプリを日本語化したものらしいのですが、時々翻訳のミスがあって「足」と言うべきところを「手」と言っていたりするのです。そんなもん、動画を見てりゃ分かるだろうと言われるかもしれませんが、画面を見ながらだとできないポーズもたくさんあります。 だから、画面を見ずに音声だけ聞いてやっている