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午前二時、公園で


「なんか話したくなってさ」

屈託なく笑いながらそう言う彼女の顔を、月明かりが照らしている。

俺は彼女に呼び出され、この公園に来ている。時刻は深夜2時。かなりの肌寒さに思わず肩を竦ませる。

こんな真夜中に「なんか話したい」というだけの理由でこんなところへ呼び出してくるこの女とは、もう2年か3年の付き合いになる。この公園も我々ふたりの間ではおなじみの場所だ。

付き合いになる、といっても交際してるとかではなくて、でも別に仲のいい友達っていうわけでもない。大学にいた頃にいつの間にか知り合っていた。いつどのように知り合ったのか俺はよく覚えていないし、彼女はまったく覚えていないだろう。そのままお互いフリーターになった今も交友が続いているのだ。

「結構さむいねえ」

「そうだな」

そういう彼女が半袖であることには特に触れなかった。

あいかわらず変な人だ。俺はこの人のことがよくわからない。でも我々はお互いのことをなんとなく理解し合っているように思う。なにしろ、俺がいつも夕方に起きて朝に寝るような生活を営んでいることを把握しているから、彼女はこんな時間に俺を呼び出すなどという行動に出られたのだろう。

「なんか飲みもの買ってこようかな」

「おう」

彼女は自販機のある方向へ歩いていった。根拠はないのだが、彼女といると、この関係はいつか何の前触れもなく消えてしまうかもしれないな、とたまに思う。ある日に突然音信不通になって、家まで行ってみても誰もいなくて、本当に何の前触れもなく、もう俺の手の届く場所に彼女はいなくて。そういうことがいつか起こりそうだなと、なんとなく思うのだ。そういう刹那性のようなものを彼女は感じさせる。そして、もしそうなったら、俺は特に焦りもせず、いつも通り過ごすような、そういう気がする。

「自販機うごいてなかったよ」

タバコに火を点けていると、彼女が駆け寄ってきた。まあこんな時間だし、稼動していなくてもおかしくはないだろう。

「そういえばさあ」

ベンチに腰かける。

「このまえ行った本屋がね」

他愛もない話を綽々と続ける彼女をまっすぐ見据える。
彼女は俺のほうを見ずに話している。

俺にはわかる。
曖昧に「なんか話したい」と言ってはいたが、おそらく彼女は今、そんな理由でここにいない。互いに遠慮を捨て去っている我々だが、夜中にわざわざ呼び出してくるなんていうのは初めてだ。
それが何か看過できない事態を報せるサインであることくらいは、俺にもわかる。

俺にもわかる、ということを彼女はわかっていて、ここに呼び出したのかもしれない、とも思う。

「それでね、結局その日は帰ったんだけどさ」

「なあ」

俺が話を遮ると、彼女は口を噤んだ。

「話せよ。なんかあるんだろ」

「……やっぱりわかっちゃうかあ」

「わかるよ。どうしたんだよ」

彼女は俺に背を向けて、夜更けの空を見上げている。星の一つも見えない夜だった。

「じゃあ聞いてもらおうかな。こんな話をしても、君なら失望せずにいてくれるだろうし」

俺の手元で、タバコの煙が揺れている。

「ずっと、おかしいと思ってたんだよね」

「何を」

すこし黙り込んだあと、彼女は、初めてこっちをまっすぐ見た。
あいかわらず綺麗な、そして、どこか不安そうな目をしていた。

「───あのね」




「蒲焼さん太郎の、『蒲焼さん太郎』っていうネーミング、おかしくない?

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単に『蒲焼さん』とか『蒲焼太郎』とかなら全然わかる。でも『蒲焼さん太郎』って何????『さん太郎』ってどういうこと???

もしかしたら商品名を決める会議で候補として『蒲焼さん』と『蒲焼太郎』の二つが残って、意見がまとまらないまま最終的に折衷案として蒲焼さん太郎になったのかもしれないよね。

だとしても蒲焼さん太郎にゴーサインを出すことある?『蒲焼さん太郎』って何??子供のときから食べてたから違和感とか覚えてなかったけど、よく考えたら『蒲焼さん太郎』って何???『蒲焼さん太郎』なんてことある????絶対おかしくない??」

「どう思う?」


俺は黙って帰宅し、彼女のアカウントをブロックした。

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