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知っておきたい高齢者の薬の使い方~⑨血液を固まりにくくする薬

薬には副作用が起こることがあり、生活上に支障をきたす場合があったり、思いがけない事故につながる場合もあります。もちろん安全に使っていたら問題ありませんが、使っている薬の種類に応じて、起こりうる反応について知っておくことで的確に対処することが出来ます。
この連載では、薬を服用している高齢者を介護しているご家族、または介護ヘルパーの方に向けて、お年寄りをサポートする上での注意点をお伝えします。


なぜ血液を固まりにくくする必要があるの?

◎血を止める仕組み(止血作用)

血管の損傷により出血がおこると、一次止血⇒二次止血の順に、血を止める仕組み(止血作用)が働きます。
一次止血:血液中の血小板が集まって、出血した部分をふさぐ
二次止血:血液中の凝固因子が働き、フィブリンという”のり”のようなものを作って出血した部分をふさぐ
一次止血・二次止血において、出血した部分をふさぐために作られるのが”血栓”です。

◎血栓が原因となる病気の発生を防ぐ

血管の状態が正常であれば、必要な時のみに止血作用が働くため、特に問題はありません。
しかし、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病、喫煙の習慣や肥満があると、血管が硬くもろくなる動脈硬化が起こります。動脈硬化が進んでいると、血管の内側の組織がはがれやすくなり、血管が損傷したときと似た状態になります。すると、出血しているわけではないのに、止血作用が働いてしまい血栓が作られます。血栓によって血流が悪くなったり、血管が詰まりやすくなったりすると、狭心症や心筋梗塞・脳梗塞・肺梗塞などの命に関わる病気が引き起こされます。
血液を固まりにくくする薬には、血栓を作らせないようにすることで、血栓が原因となる病気の発生を防ぐ役割があります。

血液を固まりにくくする薬の種類

血液を固まりにくくする薬には、以下の2種類があります。
① 抗血小板薬
血小板の作用を抑えて、動脈の血栓を防ぐ
② 抗凝固薬
凝固因子(フィブリン)の作用を抑えて、静脈の血栓を防ぐ


血液を固まりにくくする薬の使用上の注意

◎出血症状に注意する

血液を固まりにくくする薬を服用すると、副作用によって出血しやすい状態になります。特に便や尿の色の変化など、目に見えない部分の出血は発見が遅れると危険なケースもあるため、注意が必要です。
以下のような症状がみられる場合には、薬が効きすぎている可能性もあるためすぐに医療職に報告してください。

~観察のポイント~
・鼻血
・歯茎からの出血
・痰に血が混じる
・あざ(皮下出血)
・尿が赤色や赤褐色になる(薬は血液を固まりにくくするだけなので、尿に血が混じっていると思われる場合は、膀胱がんなど出血の原因となる病気が隠れている可能性もあるので泌尿器科の受診も大切です。)
・便の色が黒くなる
・吐いたものにコーヒーの残渣のようなものが混ざっている
・急なひどい頭痛
・体のだるさ(貧血の症状を含みます)
・関節の腫れ・痛み

◎飲み忘れを防ぐ&飲み忘れ時の対応を事前に確認

血液を固まりにくくする薬は、他の薬以上に、決められた量を決められた時間に飲むことが大切です。お薬カレンダーの活用など、飲み忘れを防ぐために工夫しましょう。さらに、服用期間が途切れてしまわないように、残りの薬に余裕がある状態で受診して次の薬をもらっておくことや、災害時に備えて予備薬を用意しておくことも大切です
また、万が一飲み忘れてしまった時に慌てず対応できるように、飲み忘れた時にどういった対応をすればいいのか、事前に医師や薬剤師に確認しておきましょう。

◎飲み合わせ・食べ合わせに注意する

血液を固まりにくくする薬の中には、飲み物や食べ物によって、効果に影響が出てしまうものもあります。
例えば、抗凝固薬のワルファリンはビタミンKによって作用が弱まってしまうため、ビタミンKを含む納豆や青汁などを控える必要があります。反対に、DHAやEPAなどのサプリメントは血液を固まりにくくする作用があるため、血液を固まりにくくする薬の作用を強めるものとなり、注意が必要です。
薬によって注意が必要な飲み物・食べ物は異なるため、薬を処方してもらう際に、どんなものに注意したらよいのか医療職に確認して、高齢者本人や家族とも共有しましょう。

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<監修>
堀美智子
薬剤師。医薬情報研究所(株)エス・アイ・シー取締役/医薬情報部門責任者。一般社団法人日本薬業研修センター医薬研究所所長。名城大学薬学部卒・同薬学専攻科修了。著書、メディア出演多数。
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