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若い料理人のための食器案内 その3 志野 +閑話:伝統工芸は伝統的じゃない?


美濃の焼き物

まずは美濃のスタイルの焼き物を紹介します。なぜかといえば和物で一番格が高いのは美濃の焼き物です。(楽焼も格が高いですが食器は基本的にないので、ここでは省きます。)一番と言い切るのは過言だったかもしれませんが、美濃の焼き物は後述する唐津や備前にも影響を与えており、桃山時代から伝えられてきた食器群の質、多様性は一番と言ってよいかと思います。美濃焼の代表的なスタイルは大きく分けて4つです。志野、黄瀬戸、瀬戸黒、織部です。この中で瀬戸黒はほとんどが茶碗ですのでそれ以外の3つを紹介します。


志野

代表的作品
卯花墻(茶碗)
振袖(茶碗)

和の焼き物の王様と言っても良いでしょう。茶碗から食器まで素晴らしい器が生まれてきました。大雑把に言えば程よい焼き締りの砂っぽい白土に白い半透明の釉薬をかけた器が志野です。絵付けを施したものも多く、精密な筆致ではありませんが確かな技術を感じさせるものです。上に名品を挙げておいたので検索してみて良いものの雰囲気を掴んでください。赤がはっきり出ているスタイルのものもありますので、色が欲しい場合は赤志野など探してみてください。器種としては皿など単純なもの以外に縁が直立した銅鑼鉢や鍔付きの鉢、円形ではなく型で整形した四方など角形や長い筒型の向付けなどテクニカルな形のものも多くあるのが特徴です。トップの写真も湯呑ではなく、筒型の向付です。
歴史的には名品は数多いですが、現代で良いものを作る人はそれほど多くありません。土、釉薬、造形いずれも難しいのです。

作家の紹介

瀧川恵美子
かなりクラシックなスタイルの方です。良いものは光が釉の内部で乱反射するかのような焼き上がりです。食器の種類も豊富で、幾何学的な形のものでもちょうどよい動きがあります。

大森礼二
この方もクラシック気味です。造形は少し独自性が見られます。

鈴木都
現代的なところも有りながら、先人に根ざしたしっかりしたものを作っています。猩々志野のような色彩の派手なものも手掛けています。

藤田登太郎
釉調が桃山の良いものに迫っています。ただ食器はあまり手掛けてないかもしれません。

ただし志野を買う上で注意点がいくつかあります。一つは焼き締まりです。現代において志野に一般的に使われている土は焼き締まりが弱く、汚れた時に不潔感を覚える物が少なくありません。上記の作家でも焼き上がりによってはもしかしたらそういうものもあるかもしれませんので料理屋さんは特に注意して買ってください。あと一つは貫入です。現代の志野には大きな貫入が大胆に入っているものが多いですがそれもおすすめしません。貫入に色が入った時にみっともなく見えます。
志野は古陶でもそうですが、失敗の多い焼物(いろんな焼き上がりが出てしまう)なので会場でよく吟味して時にはギャラリーの方に質問して買っていただければと思います。

閑話:伝統工芸は伝統的じゃない?

そういえばよく焼き物のことが伝統工芸なんて言われることがあります。伝統とは昔から受け伝えてきたこととかものを示すらしいですが、焼き物の本当に良いものを作る技術というのはほぼ受け継がれてきませんでした。ここで紹介する美濃焼も後述する唐津焼も1世代か2世代くらいで良いものは一度終わっています。備前のような鎌倉から江戸初期まで長い期間に渡って良いものを作り続けた産地はあることはあるのですが、それぞれの年代で特徴はやはり移り変わっていきます。
いま古典的な良い焼き物をつくる作家は昔から細く何とか継いできた技術そのままではなく、それを元にして自ら独自に試行錯誤して再現、再興したというのが実際のところであります。

次回は黄瀬戸と織部を紹介します。

写真の出典:https://webarchives.tnm.jp/

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