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IPOコンサル時代を振り返って

今回は、証券会社時代のIPOコンサルタントの立場でのキャリアを振り返ってみようと思います。色々な思い出がありますが、IPOコンサルの立場で特に難しかった点を振り返ります。

この記事は、これから、IPOを目指す会社関係者様などの参考になれば幸いです。

その前に、まずは上場審査の全体像を簡単に説明します。その次に、その中で特に難しかった論点について何が難しかったという点と自分の体験したトラブル事例、そこから学んだことを解説しようと思います。

上場審査の全体像

まず大前提となる上場審査の全体像を解説します。

上場するには、約半年の証券会社の審査を乗り越えて、証券会社からの推薦書を得ます。その後、東京証券取引所に上場申請をし、約2ヶ月の取引所の審査を経て、取引所の上場承認を迎え、1ヶ月のファイナンス期間を経て、上場します。

証券会社の推薦書をもらうこと=東証に申請することを証券会社が推薦するということなので、証券会社のお墨付きをもらったことになります。

ところが、東証申請して、上場できない会社数も一定数あります。その上位に入る理由が上場申請期の予算の未達です。この予算に関する上場支援が自分の過去の経験では難しかった一つです。では、何がどのように難しかったのか以下で解説しようと思います。

適切な業績予想が策定できるか

IPOの審査において、将来適切な業績予想を開示する能力があるかという点が審査上、重要視されます。ここでいう業績予想は、予算と捉えてください。具体的にどのように見られるかというと、毎月の取締役会で報告される予算と実績の対比の結果です。よって、この予算と実績の対比が著しく乖離して、策定した予算が達成できる能力がないみなされた場合、上場することはできません。

予算の難しさ

予算は保守的なものを作ればそんなに難しいことはないのでは?と思われるかもしれません。しかしながら、予算は、上場時のバリュエーションの算定プロセスと深い関係があり、そんなに単純な話ではありません。

上場時に会社の資金調達額が決まる公開価格ベースの時価総額は、原則、上場申請期の利益✖︎自社に類似している会社のPERで算定されます。(注1)

つまり、上場時の想定時価総額のベースとなる金額(注2)が例えば、申請期の予想が利益2億円で、PER40倍だとすると、時価総額は80億円になります。そのため、上場申請時の利益が上がることに比例して、上場時の時価総額は上がるという構造になっています。

注1)ブックビルティング方式を前提にしています。この計算式は一番オーソドックスなパターンで、例外もあり必ずしもこの数式でない場合もあり得ますので、誤解なきようお願いします。

注2)上場時の時価総額が決まるプロセスは厳密にはもう少しステップがありますが、ここでは簡易的な説明のため、割愛します。

申請会社サイドのインセンティブと審査上のポイント

上記の構造のため、可能な限り、申請会社は高い予算を目標に置いて、高い時価総額を目指します。他方で、審査上、予算でみられるのは、達成可能な予算となっているかという観点です。なぜ、上場審査に置いてそこまで予算の達成状況にこだわるかというと、基本、個人投資家は業績予想をみて投資の意思決定を行うからです。そのため、上場後に業績予想を開示して、下方修正を出されたら、証券会社の審査は何を見ていたんだということで大問題になるためです。

よって、予算に対して実績が達成するほど現実的な予算であることと、その予算で申請会社が求める時価総額を達成すること、この2点のバランスを保つことが難易度が高かったです。

具体的には、上場申請期は一月でも予算の大幅な未達が出ると、予算を下方修正しない限りは上場することに対して、黄色信号が灯ります。

また、通常、IPOを目指す申請会社の株主(ファンド等)から上場申請会社の役員と証券会社の担当者は、上場時の時価総額という目標に向けて強烈なプレッシャーに晒されています。なので、安易に硬い予算を設定すると、申請会社の求めれている時価総額に達することができずに大きなトラブルになるため、堅実な予算を設定できないという難しさがあります。

過去の失敗

筆者は過去、ギリギリまで予算の達成を見極めた結果、最終的に上場承認1ヶ月前のタイミングで、予算の達成可能性が低いということを結論付けました。

申請会社にスケジュール通りのIPOは困難と伝えたところ、「言うのが遅い!」「判断過程を全て時系列で説明しろ!」と激昂され、同僚は申請会社のオフィスに朝まで経緯説明のレポート書くために拘束されました。

学んだこと

これらの経験を通じて学んだことは、申請会社の期待値をコントロールするコミュニケーションは必須であること、時価総額をクライアントの期待に添える水準にもって行くには、予算を高めにするのではなく、類似会社のPERを可能な限り高めを取りに行くこと。この2点が非常に重要と学びました。

この類似会社のPERを可能な限り高めに取りに行くという点はマーケティング次第で可能性が無限にあります。このIPO時に行うマーケティングについては、非常に奥深い話なので、またの機会に解説できればと思っています。

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