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六滅ラーメン 種子島宇宙港本店

「ろくめつ」と書かれた暖簾を潜り抜ける。防護服から顔を出した店員の「お客様1名ご案内いたしまーす」の案内とともに鋼鉄の二重扉を潜る。そこから店内専用の装備へと着替え、さらに真っ白な廊下を進む。防護服の越しに店員「それではカウンター席へお連れします」

巨大なエレベータを使って地下へ、さらに重厚な隔壁を越えカウンター席へとたどり着く。他の客もすべて同じように防護服を身につけているが、やはり地球人の客は私一人であろう。他は全て、この店のラーメンのために遠路はるばる銀河を超えてきた酔狂な宇宙人たちだ。広大な室内を前後に隔てる分厚いガラスの向こうには厨房で働く職人たちがいた。我々が身につけているものよりもさらに重厚な防護服を身につけたラーメン職人たちが、アームを操作しているのが見える。

巧みなレバー操作により、特殊合金製の碗へとスープが注がれてゆく。その成分は秘中の秘とされているが、世界中から集められた希少な鉱物資源を惜しみなく使っていることが容易に想像できる。なんという贅沢であろうか。そしてその隣では高温に熱された専用の棒を使って特製の麺が炉から丁寧に巻き上げられてゆく。飴色に融解した麺が互いに決して溶着することはない。恐るべき技術だ。

出来上がったラーメンが、専用のレーンを通じてカウンター席へと供される。客たちが隔離用の窓に半身を突っ込んで勢いよくラーメンを啜る様子が見える。至福の様子...なのだろう。

この神秘のラーメンは開店からわずか3年で、宇宙最高の食物の地位を手に入れた。その客足が途絶えることは決してなく、予約は15年先まで空くことはないとまで言われるほどだ。

「いかがでしたか。これまで地球人のお客様はただの1人もございませんでしたから」
店主のキダ・平八郎は穏やかな表情だ。だがその遠い眼差しは彼が歩んできた道のりが決して平坦なものではなかったことを表しているかのようだった。

【続く】

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