他の星から(5)

5.笑顔の化身

 不思議なことに、2人だけの空間で沈黙が続くことに抵抗を感じる相手とそうでない相手が存在する。
相手はただ黙っているだけなのに、
① その人のまとう雰囲気
② 普段の言動
③ 匂い
④ 自分がその人をどう思っているか
⑤ そして、その人が自分のことをどう思っていると自分が思っているか
そういったものが落ち着く相手かそうでないかを決定づけるのかもしれない。

 七瀬にとって奈々未は沈黙が続いても何の問題もない相手だ。
 奈々未は時折自分の中に沈み込んでしまい、誰かが何かを話しかけてもあまり反応が返ってこない状態になることがある。それは別に落ち込んでいたり、何かに怒っていたりするわけではなく、たぶん自分をニュートラルな状態に戻すために必要なルーティンなのだろう。ある程度時間が経つといつもの淡々としているが優しい奈々未が帰ってくる。
 たぶん、幼少のころからの癖なのだろう。七瀬にとってそういう奈々未は自分と共通している部分のように感じる。私と奈々未はそういう人間だ。

 それに対して、もしあの子と2人だけになったら、と七瀬は思う。すぐに沈黙が居座った居心地の悪さに、きっと私は耐えられないだろう。
 それでもあの子はなんとか話題を私に振って、気まずくないようにしようとする。しかし、そんな懸命な気遣いこそが余計に七瀬の心を焦らせ、落ち込ませる。次第にあの子も空回り始めて、落ち込んでしまう。それでも落ち込んだ姿を隠そうとする。そんな姿を七瀬は痛々しく感じてしまう。そう感じているのに何もできない自分に七瀬は嫌気がさす。
 あの子はいつも周りのことばかり考えて、辛い時も無理して笑って誰にも弱みを見せようとしない。
 率先してみんながやりたがらない役を引き受け、困難にぶつかっても懸命に前向きであろうとする。
 あの子のそんなところは素直にすごいと思うし尊敬している。その反面、自分にはきっと一生かかっても体得できない人間性だと七瀬は思い、劣等感を感じてしまう。

 秋元真夏。
なぜあなたは私の心をこんなにも揺さぶるのだろう。なぜあなたと私はこんなにもすれちがってしまうのだろう。
 もちろん、そのきっかけは分かっている。『制服のマネキン』で復帰した真夏が、七瀬が今までいたポジションに入り、七瀬は後ろに下がることになったあの時だ。
あの時はそのことに納得できなくて、真夏と距離を置いてしまったのは事実だ。でも今はそれも過去の話だし、真夏は七瀬にとって大切に思っているメンバーの一人だ。

真夏。私はあなたに謝りたい。何も分からない状態で入ってきて誰よりも戸惑っていたのはあなただったのに、冷たくしてしまったことを。
そして仲良くなりたい。なぜなら私は真夏のいいところをたくさん知っているから。

 目的地に到着して七瀬と奈々未はそのまま控室に入った。すでに他のメンバーの多くがいた。生駒里奈は七瀬が入ってくると驚いた表情をして声を上げた。
「あっ!なぁちゃんがいたよ!みんな、ちゃんとなぁちゃんがいるよ!」
 七瀬は訳が分からず首をかしげた。

(続く)

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