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(続)三つ子の魂百までも 25




「あの、佐伯って云う人、私、あんまり好きじゃないのよ。」
と、広田さんは急にタメ口になった。
まるで、親しい人と世間話をするかの様に喋り出しさらに、

「佐伯はね、新美君を嫌っていたの。しかも難癖をつけて。
佐伯より、新美君の方が優秀だからヤキモチ妬いていたのよ。
新美君、イケメンだから、モテるけど、それにも嫉妬していたのよ。」

「新美さんから、佐伯さんの悪口を聞いた事ありますか?」
と、裕美が聞いた。
「新美君から、直接聞いた事ないけど、佐伯の事を新美君、嫌っていたわ。顔を見れば判る。新美君って直ぐに顔に出るのよ。
正直ものだから、嫌なことや嬉しい事があったら直ぐに顔に出すのよ。また、そこが可愛いのよ。」

と、広田美枝子さんは、新美さんのファンみたいだ。
もしかすると、新美さんに告って、振られたのは広田さんは本人ではないの?と云う気持ちが僕に芽生えた。

「新美さんの評判が二つに別れるのですが、新美さんという方は、
誤解され易いのですか?研究室であった人達の中にも、新美さんの
事を、良く言わない人が居ましたが、そのあたりはどの様に考えですか?」
と、僕は素直な疑問を聞いた
「さっきも言いましたが、新美君は直ぐに顔に出るから、嫌われるのかも知れません。嫌いな人には新美君は近寄らないし、
人間を観察する目が普通では無いぐらい、敏感な人でした。
でも、心を許すと、本当に猫の様に甘えてきます。
と言っても、精神的に甘えて来ると言う事ですが。
愛情に飢えていたのかも知れません。」

僕は、新美さんに同情する想いだった。
幼い頃から、両親を知らず、施設で育ち愛情をさほど受けずに育ったとしたら、自分を受け止めてくれる人には、心を許すであろう。
その点僕は、養父母に愛情たっぷり育ててもらった。
本当に感謝である。

「新美さんは、自分中心だと、学長が言ったいたが、その点は、
どの様に感じているかね。」
と、またもや、上から目線で伊東さんは言った。

「新美君が、自分中心? 誰だって、ワガママ言うでしょ!
その人の価値観によっては、人と違う事があっても仕方ないじゃないですか!新美君は頑固なだけよ。決して自分中心では無いわ。
むしろ、学長の方が自己中よ。
佐伯もそうよ。自己中よ。」
と、広田さんは興奮気味に強く言った。

「佐伯さんのどこが自己中なのですか?」
と、僕は聞いた。ここは大事な所だと思った。

「佐伯はね。大橋教授の腰巾着みたいな男よ。
大橋教授におべんちゃらを言って、次の教授の椅子を狙っているのよ。私には、判るわ。誤魔化しても。みんなは気付いていないみたいな振りしてるけど、心では思っていると思うの。
新美君は、大橋教授の事 嫌いだったのよ。新美君の顔を見たら
直ぐに分かったわ。でも、我慢していたと思うのよ。
何か目的があったみたいで。研究が同じだったからかもしれないし、そこでしか、研究できなかったのかも知れないわ。
判らないけど。」
この広田さんは、関西の人かも?と直感で僕は感じ、再び聞いた。

「佐伯さんが、腰巾着と言う事は判ったのですが、どこが自己中なのですか?」

「要するに、教授の椅子を目指して他の事は、目に入れずにその事のみ追いかける。自分中心と思いませんか?自分の目的だけを考えている人間ですよ。新美君は教授の椅子何て目指して無いです。
研究に没頭していただけです。それも自己中と云うので有れば、
人間みんな自己中ですね。」
と、強い語調である。

確かにそうである。人間は何かに思いを入れ、それに向かっている時、周りのものは見えにくくなるのは否めない。
ただ、それが自分だけの利益の為なのか、それとも多くの人の役に立つものなのか?によって自己中心かどうかを判断しないといけない。

「大学にあった新美さんの所有物が無くなっているのですが、ご存じありませんか?」
と、僕は警察で聞いた事を、秘密にせずに聞いた。

「聞きましたよ。新美君のものが、無くなっているって。
新美君の大事にしていたパソコンも無いって聞きました。
誰かが盗んだか、大学で保管したみたいですが、学長は知らないと言ってましたね。私は・・・・・」
と、言ってまたもや、広田さんは勿体ぶった。

「佐伯さんが持って行ったのではありませんか?」
と、裕美さんは広田美枝子さんを真剣な眼差しで見つめている。





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