16 客層、客筋(4・完) 関係の結び目


 いろんなお客さんがやってきます。


①通りすがりの人
 →いわゆる「フリー」のお客さん。雑居ビルの3階ゆえほとんどおりません。「夜学バーってなんだ?」と気になって入ってくる人や、日曜の夜などに、他のお店がどこもやっていないから開いているお店を片っ端から探し回ってたどり着いた人など。イレギュラーな事態なので、場にとってはよきカンフル剤になることが多いです。
 これが起こりやすいので僕はけっこう日曜夜の営業が好きだったりします。ぜんぜん人がこなくてほとんど儲からない日のほうが多いですが……。すいてるタイミングを狙っている人にも日曜夜はおすすめです。


②インターネットを見て知った人
A Googleマップ等で「バー」とか検索していらっしゃる人
 →①に近い存在の方々です。

B (お店の)Twitterやホームページなどで知った人
 →ここがコア層で、いちばん多いかもしれません。インターネットだいすき。すでにお店のコンセプトなどをご存じで、興味がある方々。リツイートなどが「流れてきた」場合も含みますが、③に近くなります。

C 僕のSNSアカウントやホームページなどで知った人
 →僕(店主)個人と、お店のことをある程度ご存知の方々。④に近いです。


③口コミで知った人
 →「夜学バーという妙チキリンなお店があるらしい」といった噂を人づてに聞いた方々。直接だったり、SNSだったり。

 あるいは僕や従業員や広報委員(そういう役職があるわけではないのですが、方々で宣伝してくださる方がちらほらいます)がどこかのお店に置いてきたショップカードを見たり、そういったお店の方から紹介されたりといった場合も。
 できるだけ遠い場所に「口コミの種」を撒きたいと考えております。「湯島界隈」という閉じ方は絶対に避けたく、正直あんまりご近所の同業の方々とは懇意にできておりません(したくないわけではないのですが……)。北海道から沖縄まで全国あらゆるところに「タネ」蒔きをして、「鳥取から来ました」「山形から来ました」といったお客さんをできるだけ多くしていきたいのです。

 その意味でやはりインターネットは距離を無くしてくれるので非常にありがたいです。ただ、やはり物理的なモノや実際に対面することがいちばんなので、「広報の旅」みたいなことを頻繁にしています。とはいえあんまり宣伝っぽい感じで人と接したくはないので、バーなどに入っても、お店の名前も自分の名前も何も告げないことが多いです。「ここは! この人とは! 友達になりたい!」と僕が思って、先方も憎からず思ってくださっていると感じた場合は、「実は……」と切り出すような。でも、そういう時はたいてい自然とそういう話になっていきます。
 いろんな地方に「信頼できる友達」を持ち、その人が誰かに「あ、東京に行くんだったら、湯島(上野)に夜学バーってお店があって」と教えてくれれば、その人も実質的な「広報委員」のようなものです。(勝手にスミマセン……非常にありがたいです、本当に。)
 ②がコア層と書きましたが、この③も同じくらい重要だし、実際多いです。できるだけここの層を厚くしていきたいもの。「〇〇から来ました」は、〇〇が物理的・観念的に距離が遠ければ遠いほど、①と同じようにカンフル剤としても機能し、場はとても豊かになります。 


④僕(店主)や従業員の友人・知人
 →読んで字のごとく。この方々との接し方で、場の雰囲気はまったく変わってしまいます。ものすごく注意が必要な場面。

04 平熱からの飛翔」に書いたようなことは、この時に効いてきます。

 古い友人が急に扉を開けたとき、「おおっ!? ケンジ! それにユミ?! マァジでぇ!!?? どうしたん、おいおいマッテクレテやめろよエー無理なんだがー。懐かし〜何々お前らまだ付き合っとったん? いったん別れたがんなあ! いやカンテそれ、とりあえずアレだろお前はピーチウーロンなオッケー。ユミちゃんドースル? いやーもうやべーわーすでに明日マジ二日酔い確定ダワー」的な対応をしたら、完璧に店内の空気は一変します。(そりゃそうじゃ)

 思いがけず知己が急に視界に入ったらそりゃ驚きますし、嬉しい気持ちにもなるでしょう。しかし、だからと言って「それまでの空気や流れ」をすべて台無しにしていいかどうかは別の話。もちろん、そうすべき時もあるかもしれません。「この空気……なんとか変えたいな」と思っているような時だったら、話題を「古い友人」にシフトさせることは渡りに舟という考え方もできます。

 僕(夜学バー)は、原則としてはそれまでの空気や流れ、雰囲気や話題を温存・継続させたいので、久方ぶりに会う友人や尊敬する方などがいきなり来てもできるだけ「平熱」を心がけます。
 とはいえ実際驚いてしまうのは確かなので「え」くらいの声が出てしまうことはありまして、その場合はすぐ平静に戻るか、状況が許せば「えー、いや、この人はですね」と場に説明を加えます。また、前述したように「ここは驚いておいたほうが刺激になるな」と判断したら、あえて「えー、まさか」みたいなことを口にして、「なんだなんだ」という好奇心を煽るような演出をしてみたりも。
 
 なぜ、原則として平熱でいるのか。「お客に差をつけない」がまずあります。もちろん然るべき理由があれば差別も存在するわけですが、やたらとあるべきものではありません。「あ、やっぱりジャッキーさん(僕のこと)は私らよりも昔から知ってる友達やジョーレン的な人たちが好きなのね、さよなら」と思われたらおしまいです。いや、どんだけ気をつけたってあらゆる僻みや被害妄想は導かれる時には導かれるのですが、やたらと導くべきものでもないので。
 僕には人の好き嫌いがありますし、いわゆる世間一般でいわれる「平等!」みたいな感覚はあんまりないです。好きな人は好きだし、あんまり好きだと思えない人もいます(ただし誓って言いますが、ものすごく少ないと思います。好悪よりも「夜学バーという場を乱しがちかどうか」という観点のほうがズーーっと重要です)。だからと言って、初手からそれを表明するのは悪手というか、意味がないと思っています。
 また、やってくる友人としても、「そういうふうに馴れ合いっぽくやられるとこっちがやりづらい」と思う場合がけっこうあると思います。「ほかのお客と同じように扱ってくれ、友達だからって差別しないでくれ」と。けっこうこれが正常の感覚だろうと僕は思っているので、そのように努めます。


 ①から④までざっくりと分類しましたが、このように色々な人がくるなかで、特定の属性の人にだけ特別な接し方をすると、場がグラつきます。バランスが悪くなります。いかにみんながフラットな状態でいられるか、それが「複数の人が同じ場をたのしく共有する」ために絶対必要なことと思います。

 夜学バーの客層、客筋の理想は「いろんな人がいること」で、かつその人たちができるだけ「いいひと、いいやつ」であること。
 そして、夜学バーの仕事は、「いろんないいひと、いいやつを呼び寄せること」であって、「夜学バーに通うことによって、その人がよりいいひと、いいやつになるよう努める」ことです。
 ゆえに、夜学バーは教育機関であるという自負を持っていなければならないわけです。


 現状、嬉しいことに夜学バーにはちゃんといろんな人が来ます。通りすがりの人から、僕の小学校の同級生まで。その人たちがいかに、バランスよく「同じ場を共有するか」が最重要テーマ。

 一人ひとりのお客は、さまざまな関係でお店と繋がっています。その関係の線がすべて交わって、一点で重なった時、その地点が「その時の夜学バー内」にあることを目指すわけです。
 みんなとお店との関係の線が重なった結び目。みんなはその一点を見つめて話をします。お互いに見つめ合う必要はないし、従業員のほうを見る必要もありません。そのイメージは「10 ものを反射する(テーブルを介す)」に書いたようなことだと思います。

 


【定型文】
 2022年6月のみ更新されるnoteです。毎日17時に投稿され、一定時間経過後にTwitterで告知されます。(企画詳細
 この1ヶ月はお店の営業がほぼありませんが、僕(店主尾崎)以外の人が何かをやっていることもあるので、ぜひホームページ等をご確認ください。僕もいるかもしれません。
「ぐうたらする」ゆえ今月は6桁の赤字が見込まれております。よろしければ存在への対価というおねだりページをご覧くださいませ。あるいはなんらかの方法で。

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