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梶尾真治「壱里島奇譚」

梶尾真治「壱里島奇譚」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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 商社マン・宮口翔一は、栖本常務からの特命で、現代科学でも謎な商品「おもしろたわし」を調査してほしいと、生産地・天草諸島の壱里島へ出張を命じられた。その小さな島には、不思議なできごとが次々と起こっていた。一方で大きな社会的な問題を抱えていた。翔一は島の自然と人情に魅せられながら、パワースポットライター・機敷埜風天と行動を共にする。
 この作品は紋切り型に言ってしまえば、過疎の離島における地域振興と環境保護の葛藤を描いている。しかし物語は、島を魑魅と見立てた霊的かつ幻想的な展開を見せる。そこにはあるはずだったものがなく、ないものが形を見せ、どこまでが夢でどこからが現実なのかが判然としない。ただ一つハッキリとしていることは、翔一にとって島での暮らしは都会での生活よりも、必要とされてやりがいのあることだった。時間やストレスに追われる現代人に、壱里島というユートピアを著者はユーモラスかつファンタジックに力強く描いて見せている。

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