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映画「浅田家!」と「木村伊兵衛写真賞」

映画「浅田家!」(中野量太監督)が公開された。主演が嵐の二宮和也ということで、東宝系全国342館で大々的に上映されている。ストーリーは、写真好きの父・章(平田満)の影響を受けてカメラマンを志す浅田政志(二宮和也)が、テーマに悩んで家族写真を撮影したところ、写真専門学校の最優秀賞を受賞する。これに味をしめた政志は、兄・幸宏(妻夫木聡)の協力を得ながら様々なモチーフで、母順子(風吹ジュン)を含む浅田家4人を撮り続ける。東京に出た政志は、浅田家の家族写真を出版社に売り込むが、今どきそう簡単に無名カメラマンの写真集を出してくれるところはない。業を煮やした幼なじみの同棲彼女である若奈(黒木華)が個展の開催を企画したことによって、政志の写真集が赤々舎で刊行され、その写真が「木村伊兵衛写真賞」を受賞する。「家族写真」という生涯のテーマを得た政志は、記念写真の撮影を希望する全国各地の家族を訪問する。そんな中で3.11東日本大震災が起こり、撮影した家族の消息を案じて被災地に入った政志は、その惨状にカルチャーショック以上の価値観の展開を迫られる。
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 ここで政志が受賞した「木村伊兵衛写真賞」について触れてみたい。そもそも木村伊兵衛(1901〜1974)は、報道写真、宣伝写真、スナップ、肖像、舞台写真など多岐に渡って、戦前戦後を活躍した写真家で、日本写真家協会の初代会長である。彼の業績を称えて、朝日新聞社主催で「木村伊兵衛写真賞」が1975年に創設された。映画中で政志が語っていたように「写真界の芥川賞」と言われる、新人から著名写真家への登竜門である。ここから藤原新也、岩合光昭、三好和義、星野道夫、都築響一、蜷川美花などの著名写真家を輩出している。映画は実話で、浅田政志は2008年に「木村伊兵衛写真賞」を受賞している。映画そのものは家族の絆をテーマとしたホノボノ路線のエンタメ作品であるが、写真家の生涯にスポットを当てたという点でユニークな作品である。今週の12日までと会期あと僅かだが、渋谷PARCOミュージアムで写真展「浅田撮影局」が開催されている。ここでは浅田政志本人が撮影した写真の数々が鑑賞できる。ご本人は、故郷の津市で、母親と共に父の遺した写真局を経営している。彼のこだわっている被写体は、赤ん坊と遺影。考えてみれば写真は「ばえる」ために撮るのではなく、愛する人との思い出のために撮ることが大半。見ただけで、破顔一笑してしまう写真である。
 誰しもがスマホで写真を撮り、一眼レフを構えるにわかカメラマンが増えたことで、写真家の裾野は無限大に拡がっている。そして画像そのものはネットで、いくらでも無料で拾える。そんな中で写真集を出すということは、写真家にとっても、出版社にとっても、ハードルの高い事業となった。政志が写真集を出してもらえたような幸運は、写真家にはなかなかない。自分も出版社を経営した時代に、多くのカメラマンから写真集刊行の相談を受けて、沈黙せざるを得なかった。写真集として売れている本は、いずれも社会や世相をユニークな断面から切り取った作品だった。アーティストとして写真家が認められ、独り立ちできるプロセス。何を撮りたくて、何が望まれているのか。この映画で、浅田家の家族愛以外に、その視点を以って鑑賞して欲しい。この作品で徳間文庫のノベライズ本の電子書籍化に関わったので、そちらもご一読頂きたい。
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