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#601 整体に来たおばあさん

「どうぞー。こちらです。」

クドウは治療にやって来たお婆さんを空いているベッドに案内した。

「はい。じゃあコミヤさん、今から治療始めていきますね。今日も腰の治療かな?」

「また来ちゃった。」

「はい?」

「この前のことが忘れられなくて、また来ちゃった。」

「ああ・・ありがとうございます。」

「1週間に何回も来る女は嫌?」

「え?いやいや・・全然そんなことないですよ。」

「この前の治療が忘れられなくて・・。」

「あ、そうなんですか。今日は腰で〜・・・」

「初めてだったの。」

「何がですか!?」

「あんなに気持ち良くされたの。」

「ああ、そうですか。」

「体の血流の巡りが良くなるのがわかって、腰の痛みも楽になって。生まれ変わったみたいだったの。その責任・・取ってよね?」

「・・・腰の治療でよろしいですか?」

「お願いします。」

「あ、じゃあこちらにうつ伏せになってもらっていいですか?」

「いやん。」

「え?うつ伏せ嫌ですか?」

「いやん。」

「あ、でもうつ伏せになっていただかないと治療の方が始められないんですけど。」

「でもうつ伏せになってくださいって言われてすぐうつ伏せになったら、あ、この女簡単にうつ伏せになる女なんだって思われそうで・・。」

「別にそんな風に思わないですよ!」

「本当に?信じていい?」

「大丈夫です。みなさんすぐうつ伏せになりますんで。」

「でも私はもっとこう・・駆け引きしてほしくて。」

「駆け引きとかないんで!」

「この前はしてくれたじゃないですか!どこが痛いのー?とか、いつから痛いのー?とか、どんな風にー?とか!もうこの女はうつ伏せになる女だってわかったら、そういうのはしてくれないんですか!?」

「前回は初診だったので!ただ問診しただけで、別にあれは駆け引きとかじゃないですよ!」

「・・・じゃあうつ伏せになってもいい?」

「お願いします。」

「・・・先生の前だけだからね?私がうつ伏せになるの。」

「わかりましたんで!うつ伏せになってください!」

お婆さんは手で頬を押さえながらゆっくりとうつ伏せになった。

「じゃあまずは腰回りの筋肉ほぐしていきますね〜。」

クドウはお婆さんの腰に手を当てて施術を始めた。

「いやああああん!!!」

「だ、だ、大丈夫ですか!?」

「これがいいっ・・!!これが欲しかったの、続けて!!」

「あ、はい・・・。」

「ああああ・・!!!気持ちっ・・いい!!あああああ!!!!」

「すみません、ちょっと声抑えていただいて!他の方に勘違いされちゃいますので!」

「もっと押し込んで!!!壊していいから!!!めちゃくちゃにして!!!」

「ちょっと・・コミヤさん!でも、筋肉も凝ってないし骨の歪みもありませんけど・・。」

「本当はもう腰なんて痛くないの!!!!」

お婆さんはそう叫ぶと、勢いよく立ち上がった。

「本当はもう腰痛くないの・・。」

「え!?」

「前回の治療で先生が治しちゃったから・・。でも先生が、これからも定期的に来てくださいねって言ってくれたから。その言葉信じて・・来ちゃった。」

「・・・・ありがとうございます。」

ベッドの上に、少しの沈黙が流れた。

「・・・・抱いて?」

「ごめんなさい。そういうのやってないです。」

「・・・また来てもいい?」

「ええ、お身体の不調があったらいつでも。」

お婆さんはその言葉を聞いてベッドから立ち上がった。

「今日から床の上で寝ちゃおうかしら。」

「やめた方がいいですよ。」

「帰りにペットボトルのお水たくさん買っちゃお。それを何度も持ち上げちゃったりして・・。私のこと・・・忘れないでね。」

お婆さんはそう言って診察室を出ていった。

「・・・忘れられるかよ。」

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