#561 暑くなっちゃう男
「現在モデルルーム実施中でございます。どうぞ、お気軽にご覧になってください〜。」
モデルルームのチラシ配りをやっているノグチの元に、先輩社員のタカダがやって来た。
「ちょっと、ノグチ。」
「はい。なんですか?」
「今、気温何度あるか知ってる?」
「え?気温ですか?」
「うん。知ってる?」
「いや・・あんまわかんないですけど。今日30度くらいあるんですよね?」
「そう。31度あるんだって。」
「へー。そんな暑いんですね。」
「そうなんだよ。でもノグチさ、今ジャケット着てるじゃん?暑くないの?」
「あー、まあ大丈夫ですね。」
「ホントに?暑いだろ?俺、半袖なのにすごい暑いよ?ジャケット脱げば?」
「あー・・」
「え、なんでジャケット着てんの?」
「まあ、日焼けしたくないんで。」
「日焼けしたくない?」
「はい。」
「あ、それで・・暑いの我慢して・・えぇ!?」
「はい?」
「いいんじゃないか?日焼けぐらい。」
「いや、日焼けしたくないですね。」
「あー・・そうか。」
「え、なんかまずいですか?」
「いや、俺あそこでチラシ配ってたんだけどさ、視界に入るお前を見てると、なんか見てるこっちが暑くなってくるんだよな。だから脱げば?って思って。」
「いや、日焼けしたくないんで。」
「あー、そうか。まあ・・そんなに言うならな。熱中症だけ気をつけろよ。」
「はい。」
タカダは少し不満そうに、自分の持ち場に戻っていった。
「さあ、どうですか?現在モデルルーム実施中でございます。チラシご覧になってください〜。」
「やっぱ暑くないか?」
「はい?」
自分の持ち場に戻ったはずのタカダが、再びノグチのもとにやって来た。
「暑いだろ、それ。」
「いや、別に暑くないですって。」
「いやー、暑いんだよなあ。俺が。」
「タカダさんがですか?」
「うん。脱いでくんねえかな?」
「え?」
「なんかもうお前の方見ないように、見ないようにってしてたんだけど。そう思えば思うほどお前の方見ちゃってさ。その度、体感温度が上がってきちゃうんだよ。俺軽く熱中症気味だよ。」
「なんでですか!?」
「なあ、脱いでくれよ!」
「いや、僕日焼けしたくないんで!」
「・・・お前さっきからずっと何言ってんだ!?」
「はい?」
「お前正気かよ!なんだよ、20代男が日焼けしたくないって!日焼けってするもんだろ!しろよ、日焼け!」
「嫌です!絶対日焼けしたくないんで!」
「お前日焼けに親でも殺されてんのか!?もう・・あー!!!!今こうしてる間も暑いよ!お前と喋ってると血管が沸騰しちまいそうだよ!頼む、脱いでくんねえか!?」
「嫌です!」
「脱いでくれよ!!!」
「嫌です!」
「脱いでくれって!!!」
「タカダさん、なんか勘違いされちゃいますよ!」
「なあ、どうすれば脱いでくれるんだ!?頼むよ、脱いでくれって!!!」
「変態みたいになってますよ!?そんな汗ダクダクでやめてください!!」
「脱いでくれ〜〜!!!」
「わかりました、わかりました!もう脱ぎますよ!」
「おお、脱いでくれるのか!?」
「周りにめちゃめちゃ見られちゃってるんで!やめてください!」
「おお、すまん!」
「・・・まったく。日焼けしたくないのに。」
ノグチは上に着ていたジャケットを脱ぐと、下にロングTシャツを着ていた。
「長袖!?」
「はい?」
「下も長袖!?」
「はい。」
「いやああああ!!!!!」
タカダは倒れた。
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