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【塾生通信 #2】今は亡き、ばあちゃんに告ぐ決意。

7月号の個人記事の執筆は、金沢医科大学医学部医学科に通う、梶野由祐君に担当して頂きました!

まだ6期が始まって3ヶ月しか経っていないですが、梶野君は日頃から関心のあるニュースについてみんなに問いかけ、5月にはCOVID-19に関連する勉強会を開催してくれました。そして先月には、勉強会担当のリーダー的存在として、「社会保障」をテーマとした実りある勉強会を作り上げてくれました。

このように6期生随一の熱意を持って、薮中塾にも参加してくれている梶野君。彼をそれほどまでに突き動かしているものは、一体何なのでしょうか?

今回はその理由について、心を込めた記事で伝えてくれました。
以下、梶野君による記事です。
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今年2020年の6月7日に、僕の事を10歳まで育てて頂いた方(仮称:ばあちゃん)が亡くなった。

僕の両親は仕事で忙しかったので、ばあちゃんとその息子さん(仮称:おじ)の2人に、幼い頃は育ててもらっていた。
「三つ子の魂百まで」と言われるように、幼い頃の経験はその人物の人格に大きく影響する。今から振り返ると、僕に愛情を沢山注いでもらい、そして、直接言葉で言われたわけではないが、人として一番大切な事を教えてくれた方だった。

それは、

・自己肯定感を持つこと
・人として誠実であること
・真っ直ぐであること

の3つだ。
そしてこれらは今も、自分の大切な価値観として深く根づいている。僕が社会の矛盾を強く意識するようになったのも、医師になる事を志したのも、この方がいてくれたからだった。

僕の生きる意義

僕は高校を卒業してから浪人を経験し、医学部に入学した。(ちなみに、浪人時代に予備校に通っていなかった僕は、とある自習室で、現在の親友であり、薮中塾の同期生でもある濱田君と出会う)

元々、向上心は人一倍強かったが、当時の僕は「毎日なんでこんな勉強しないといけないのだろうか」と悩んでいた。18歳にして初めて困難に直面し、初めて自分の生きる意義を考え始めたのである。その時に、自分の幼い頃の記憶が蘇ってきた。

当時、ばあちゃんとおじがお金に困っていた事は、幼いながら感じ取っていた。詳しく言及はしないが、日本の相対的貧困層*の中でも、かなり厳しい状況に追い込まれている方々だった。現在もおじはご存命だが、障害者で就労支援を受け、月給は2万円ほどだ。

相対的貧困:国民の所得の中央値の半分未満にある状態。その国の文化水準、生活水準と比較して困窮した状態を指す。それに対して、絶対的貧困とは、人間として最低限の生存を維持することが困難な状態を指す。こちらは低所得国がメインとなる。

そうした記憶を思い出し、18歳の私はとても悩んだ。
「どうすれば、弱い立場の人を守れるのだろうか。」と。

そうした自問自答を繰り返す中で、
「弱い立場の人を守れるような、圧倒的に強い存在になりたい。自分がこれまで恵まれてきたからこそ、必死に勉強して社会に還元したい。」
という信念が生まれた。

それは人生で初めて、武士道たらん精神、ノブレスオブリージュ精神*とでも言えるような信念が、強烈に生まれた瞬間だった。

ノブレスオブリージュ:仏(noblesse oblige)「高貴さは(義務を)強制する」を意味し、一般的に財産、権力、社会的地位の保持には義務が伴うことを指す。欧米社会における基本的価値観である。(From Wikipedia)

僕が薮中塾で学ぶ理由

それから今までの4年間の大学生活では、色んな世界に赴き、多種多様な方々と触れ合う機会をいただいた。日本国内はもちろんだが、ケンブリッジ大やスタンフォード大などの欧米の大学への留学、インドのような発展途上国でのボランティアや、インターンシップも経験した。一貫性が無いように見えるかもしれないが、自分自身の経験としては全て綿密に考えた上で行動しているので、全て繋がっている。そして「自分の欲望は一体何なんだろうか」という疑問に答えを出すべく考え、動き続けた。

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しかし振り返れば、結局いつも答えは一緒だった。
自分が涙が出てしまうぐらい強烈な感情になるのは、医師になろうと思ったきっかけになった弱い立場の人を守れる圧倒的に強い存在、そして、できる限り多くの立場の弱い人を守れる存在にになりたいという事だった。

そんな自分の哲学を作ってくれた、ばあちゃんが今年亡くなってしまった。今は亡きばあちゃんには何も恩返しする事はできなかったけれど、今の僕ができることは、医学、そして社会のあらゆる側面についてひたすら勉強することである。敵を正しく認識しなければ、問題解決には繋がらない。社会システムが複雑化する事で問題も複雑化し、一つの専門性では太刀打ちできなくなっているからだ。

現在の社会の問題点、そしてこれからの僕の展望

およそ資本主義のシステムは、人口が増加し、経済が成長をする、所得は増えるという”進歩主義的な成長”を前提に、社会経済システムが作られてきた。しかし、我々がこれから生きる世界はそうした前提が崩れた、少子高齢社会であり、今までの社会経済システムでは、社会の歯車が狂って来ている。僕達はそんな混沌とした社会で生きている。だからこそ、人々は変化を求める。歴史上、為政者は社会が不安定化すると問題を特定の立場の人のせいにして来た。

それが、ポピュリズムに代表されるトランプ大統領の誕生など、ヨーロッパでも大衆迎合主義の力が強まっている。人には、問題が生じると誰かを犯人にしたくなる、"犯人探し本能"なるモノが存在する。(日経BP:Factfulnessの文言を借りる)しかし、何かを批判の対象にして、人気取りになったとしても、真の問題解決には決して繋がらない。社会は巨大な有機システムで構築され、全てが関連し合っているからだ。

ポピュリズム、大衆迎合主義:政治指導者が大衆の一面的な欲望に迎合し、大衆を操作する事によって権力を維持する方法

今回のコロナ禍では、新自由主義・グローバリズム・産業構造の変化などにより形成されてきた格差によるリスクが一気に露呈した。今後はテクノロジーの進展で、より一層格差が助長されると世界的に懸念されている。そしてそうした世界の潮流の中で、再び医療や教育などの社会サービスが重要視される方向性へと移っている。Lancet(最も評価の高い世界五大医学雑誌の一つ)もコロナ禍により世界が、Well-being has a higher value than GDPである事を再認識したと述べている。

しかし現在のように、ただ国の債務を増やしても、それは将来の若者へのツケになるだけだ。したがって、我々は次世代へのツケを残さず、かつ弱い立場の人を支える経済システムや社会システムを何としてでも作らなければいけない

20世紀は格差と不平等が社会不安へ繋がり、性急な解決を求め、人々はより強権的な指導者を求めた。(ポピュリズム)それが結果的に、社会の分断を引き起し、第二次世界大戦への道を突き進んで行ってしまった。世界中で格差問題が大きくなる中で、民主主義を守るためにも、そして世界の平和と安定を守るためにも、経済成長と両立し、何としてでも社会的弱者を支えていく社会を作りたい。これが僕の人生最大の野望であるし、これからの世界で最も重要な課題である事は間違いない。(イスラエルの著名な歴史学者であるユヴァル・ノア・ハラリは、21世紀に人類が直面する最も大きな三つの課題として、格差問題・環境問題・そして核兵器による戦争を挙げている)

そのために、まずは世界のあらゆる側面について知り、それらの背後にあるシステムを知る偏見を捨て、あらゆる立場の人の話に耳を傾け、社会の真実を模索する。薮中塾でお世話になってまだ3ヶ月だが、すでに自分自身の成長を感じる。学生生活は残り僅かだが、一歩ずつ、謙虚に、直向きに、功を急がず、努力したい。

                       2020年7月5日 梶野由祐

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