PPP的関心【サブスク型事業モデル構築の挑戦と包括連携協定とPPP】
除雪作業請負を「サブスク」で…。なんともキャッチーなタイトルがついた取り組みの記事を見かけました。
今回は、「除雪作業のサブスクリプション事業モデル構築にトライ」という記事を読んでいて、行政と民間企業、民間同士の関係作りから包括連携協定そしてPPPについて考えが広がりました。
不安定な受発注関係を安定させる挑戦
雪国の冬にとって除雪という作業は発注者にとっても受注者にとっても大変だと土木建設会社を経営する知人から以前聞いたことがあります。
発注側は突然の大雪への対処で(費用的にも、作業的にも)通常でない依頼とわかっていても依頼しないという選択はできない。受注者にとってもいつ発生するか分からないし、何もなければ人・機械の手配といった準備が無駄になる。けれど、いざ大雪の際には速やかに対処できるよう準備しておかなければ機会損失の恐れもある。発注者も受注者も不安定さを感じながら備えを怠ることはできない。
記事ではそんな不安定な状態・関係を安定したものするべく「サブスク」と「一体化」で変えていこうというアイデアとトライアルが書かれています。
サブスクと一体化で安定実現。鍵はDX
一般的にサブスク(定額サービス)事業の成否は、合理的な定額収入の中で顧客に「なくてはならないサービス」、「使い続けたいと感じる成功体験」を提供し続けられるかが分かれ目です。
提供サービス価値のアップデートをせずに定額制が成立している?新聞等の月極購読のような例もありますが、いつでも解約可能なサブスクでは継続的なサービス提供、サービスのアップデートが要素の一つです。
・DXのD。デジタル(というよりビッグデータ)活用
定額収入の妥当性(発注者の納得と受注者の収益化が両立する合理的水準)は定額サービスの成立の前提です。
記事では5年分の気象データを活用するとありましたが、より長期間の気象データを用いた推計はもちろん、除雪範囲の想定に地域別の人口・世帯数の将来推計とか人流・物流導線の実績から見た優先度などを加味しながら作業発生頻度や作業量の推計精度を増す気がします。
・DXのX。役割の転換、置き換え
記事ではサービスのアップデート策にもつながる「(除雪シーズン以外の)道路管理との一体化」の検討について触れられています。
作業の違いによる投資設備の違いがあるかもしれませんが、もし通年で定額受発注が成立すれば、コスト変動幅も縮小し定額料金の合理的な検討・設定に貢献しそうな気がします。もっと言えば、こうした企業が複数社登場して地域を分担しあって通年で維持管理を担当することになればさらに変動幅も縮小して成立しやすくなるのではないでしょうか。
記事から思い浮かんだ包括連携協定
除雪作業の受発注は、大変だけども自然相手だしそういうものなんだろうななどと思っていましたが、記事にあるような定額制事業モデル構築の挑戦が成功して各地に拡散することで、喜ぶ地域や事業者はものすごく多いことだと思います。これからも注目です。
と、ここまでのいいトライアルだなと思いながら記事を読んでいて、ふっと思い浮かんだ言葉が「包括連携協定」でした。
包括連携協定って
事業モデル構築をより確かなものにする際、記事にあるような夏季・冬季にまたがる複数の業務(事業)を同時に請け負うことはモデル構築に効果的だと先ほども書きました。そのような通年で一括で複数事業の契約を締結する際に、「地域の将来に向けて建設的でオープンに良い議論ができる関係」を継続できるようになっておきましょう、という話になりそうです。
そのような場合に耳にするのが「包括連携協定」の締結です。
包括協定のケースと実態
自治体と民間企業との間の「包括連携協定」について、" まとまった "情報をうまく発見できなかったのですが、株式会社 Public dots & Company により調査、まとめられた情報にたどり着くことができましたので、それを以下に引用させていただきます。
詳しくはリンクの PublicLab レポートをお読みいただくとして、ざっくりと捉えると、調査で示された「包括連携協定」の実態を見ると、約束によって実現をしたい地域課題やターゲットが官民間でずれていたり曖昧だったり、極端に言えば「今後力を合わせて色々とやりましょう」という合意" だけ " が交わされているような関係が多そうだということがわかりました。
ビジネス上の契約で言えば、「基本合意」(いつでも対話できる良い関係を結び、何かあったら" まず "声かけますねという約束)は結ばれたけれども「個別契約」(具体的な案件について、誰が、誰に、何を、いつまで、どのように、いくらで…など具体的な取り交わし)までは結ばれていないという状態です。
PPP的な関係との対比
(またかと言われそうですが(笑)…)PPP的関心の記事では、PPP(PFI)導入検討やPPPによる取り組み実行の際に、官民間の活動における「リスクとリターンの設計」と「契約によるガバナンス」という原則が用いられる、と何度も書いてきました。
「リスクとリターンの設計」がなされているとは、官民間の活動の中で生じうるリスクの想定とリスクに対して最も適切に対応・対処できる役割分担がなされているか、そしてリスクへの対応・対処に見合った利益が与えられているか、について事前に分析・検討されているという意味です。
「契約によるガバナンス」がなされているとは、官民間の活動に際して分担した役割の責任や義務、それらを果たした時の報酬や、果たせなかった時のペナルティ等を官民相互で共有、明示されているという意味です。
先述の例えで言えば、まさに「個別契約」(具体的な案件について、誰が、誰に、何を、いつまで、どのように、いくらで…など具体的な取り交わし)ということになります。
包括連携協定とPPP的な契約関係を比べて、その優劣や良し悪し、要不要に言及する意図はないのですが、契約における目的の違いを再確認することができたと思います。
冒頭の事業モデル構築挑戦にとっての協定とPPP
契約行為の先にある目的の「違い」があるわけですが、民間企業が持てる力(技術、人材、ノウハウ)を活かして「地域の生活サービスの持続可能性」の向上に貢献する、とりわけ地元企業が貢献を明示をすることは大きな意味があると思います。例えば人材の確保や企業、企業活動の認知向上に役立つのではないでしょうか。いいことは黙ってやる、という考えもありますが、地域行政と包括連携協定を結ぶことには、旗を立ててリードする姿勢を示す意味があると思います。
一方で、「道路インフラの維持管理という公的サービスの民間よる提供」と分野を絞った目的(政策ターゲット)を実行する際には、包括連携を前提にしたとしても(至極当たり前なことですが)曖昧を残さない契約を結ぶべきです。
地域事業者が地域インフラの維持管理に「より大きな」貢献をできるようになるために自治体と新しい関係を創る取組を読んで「これも新・建設業だ」と注目しているうちに、つい余計なことに話が及んでしまいました。
ともかく記事にある事業モデル構築の挑戦がこの先も順調に進展することを期待しています。