静かな熱量を持って、姿を整えること

うちにはアイロンがある。

新卒の頃、近所にあるクリーニング屋さんとうまくソリが合わず(間に合わない&受け取れない)、だったら自分でスーツやシャツにアイロンをかけた方が楽かもしれない、と思って買った代物である。

それから早5年。今ではスーツを着て仕事をしていないけれど、お気に入りのシャツを着るときとハンカチを洗濯したときに、アイロンは顔を出す。

アイロンには大きな役割がある。

ご存知の通り、熱を蓄えることとシワを伸ばすこと。そして、僕に信条を刷り込むことだ。

どういうことか。

最初の二つの役割が、僕自身のありたい価値に近くて、使うたびにそれが自身に刷り込まれる気がするのだ。

まず、静かに熱を蓄えること。当たり前だが、アイロンはスイッチを入れても、見た目が全く変わらない。ガスコンロのようにすぐ見た目では判断できない。なのにめちゃくちゃ熱くなる。なぜなら熱を出しているのではなく、自身に熱を帯びているから。これを静かな熱量と勝手に呼んでいて、僕にとって大切なものなのである。

生きていく上で大切なものは、やっぱり自分の意志だと思っている。自ら淡々と熱を帯びなければ、自分で歩いているとはいえない。そういう意味で、何かを温める機能を持つものはたくさんあるけれど、自らに高い熱を持つことにここまで意味があるものは、ふと周りを見渡してもアイロンくらいしかないように思う。

もう一つは、シワを伸ばすこと。くしゃくしゃになったシャツがみるみるうちにスーッとあるべき姿に戻っていく。ただの熱とちょっとした水分だけなのに魔法みたいだ。毎回心の中で「すげー」と言っている。本当に素晴らしい。

で、僕もそんなパフォーマンスをしたいと思うのだ。何か課題を抱えているヒトやモノに対して、自分が持っているブランドやデザインへの熱量を使って、姿を整える。

静かな熱量と姿を整えること。どちらの要素がかけてもダメで、二つセットで初めて意味がある。そして、それを思い出させてくれるのがアイロンなのだ。

きっと僕が海賊旗を立てるなら、アイロンがアイコンの骸骨になるかもしれない。どれだけネットクリーニングが便利になっても、これだけはきっと代えがきかないだろうなと思う。

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