見出し画像

精索静脈瘤手術記録③

 手術を申し込んでからは早かった。

 まず、術前検査のために再度病院へ。採血のみで、相変わらずのコロナ対策完全予約制なので滞在時間はほんの15分くらい。梅毒や肝炎の有無を調べるらしい。検査費用と手術費用はこの時にカードで支払うことができた。

 数十万円という痛い出費だが、10%はマイルとなって返ってくるし、確定申告をすれば医療費控除でさらに10%くらいは返ってくる。それに、その程度の出費で一生ものの改造手術を受けられるのであれば安いもんだ、と言い聞かす。

 手術前日。手術で切開するのは左の鼠径部あたり。チンチンの付け根のやや左上。もろに陰毛のエリアであるので、陰毛はすべて剃るように指示を受けていた。これも初めての経験なので、内心ワクワクしていた。

 鼠径部当たりの毛は剃りやすく、特に苦労せず眉毛用のはさみとT字の髭剃り(5枚刃)でつるつるにできた。しかし、そこを剃ってみて初めて知ったけど、陰毛って「こんなところからも!?」ってところからも生えているようで、チンチンの付け根のあたりや陰嚢のあたりの毛は非常に剃りにくく、また変なところの皮膚を傷つけてしまうのではないかという恐怖からもなかなか作業が進まない(陰嚢の毛まできれいに剃ってくるように、医者からは指示を受けている)。風呂場で股間を覗き込みながら悪戦苦闘する私の丸まった背中を見た妻はただ笑うばかりであった。

 時間をかけてなんとかつるつるにできた時には、なかなか爽快な気分。今後も処理しようかなとさえ思った。

 そして手術当日。予約の13時に病院へ。手術前は3時間前までに食事を済ますことと、手術後は早めの食事をとって抗生剤を飲むことを勧められていたので、手術後はラーメンを食べて帰る約束を妻とかわし、病院の前で妻と別れる。妻は少し心配そうにしていたけど、私は「1時間横になってりゃ終わる」と比較的楽観的な気分で病院へ。

 病院に着いたらまずはしっかりと手の消毒を行う。いつものアルコール消毒ではなく、イソジンみたいな色のついた液体で手を洗って、その後はすぐに手術室に。下半身は靴下以外はすべて脱ぐように指示され、手術台へ。病院についてまだ10分くらいだというのに淡々と手術が始まる。手術ってこんなに軽い感じで始まるのか、というくらい軽い感じ。

 看護師さんに好きな音楽を聞かれそれにこたえる。するとすぐに看護師さんが「アレクサ、○○の音楽をかけて」と言い、そのアーティストの音楽が流れ始める。なるほど、声で操作すれば消毒後の手の清潔さを維持できるわけか、と少し関心する。

 手術台に横になり、上半身と下半身の間はカーテンで遮られる。医師や看護師はカーテンのすぐ向こうにいて、気さくに話しかけてくるので私もそれに応える。そして「これから麻酔です」という一言で、手術が本格的に始まった。

 少し皮膚をつままれ、チクリと針が刺さる感覚と、液体が注入される感覚が一瞬。そして、麻酔が効いたのか自分の鼠径部あたりの感覚が遠のいた。感覚がないわけではない。医師が皮膚に触れているのはわかる。そこで何かしているのはわかる。しかし、痛みは全くなくなった。今まで大きな病気をしたこともなく、手術はもちろん初めてで、虫歯にもなったことがないから歯医者にも行ったことがほとんどない私は初めての麻酔にやや感動する。こんなに感覚がなくなるんだ、と。

 「はい。一番痛いところが終わりましたよ」という医師の言葉に安堵する。実は私は注射が大嫌い。怖い。手術より麻酔が怖かったのだ。でも、なんかよくわからんうちに終わった。

 その後、感覚がなくなった鼠径部の上で医師の手が何か動いていて、しばらくすると鼠径部当たりをトントントンとタップするような感じがあった。それで何となく「あぁ。多分メスが入って、出てきた血を拭いたんだな」と予想。そして、つらい10分が始まった。

 このつらさは予想していなかった。カーテンの向こうで何をされていたのかは今でもわからないが、体の内部の何かを引っ張られているような感覚が続いた。きっと、睾丸につながる血管や神経などの束を引き出しているのだろう。睾丸を引っ張られるような、何とも嫌な感覚が続く。何とか深呼吸したりして落ち着こうとするも、脂汗が額から噴き出す。痛くもかゆくもないけど、心の中では悶絶していた。

 手術は1時間くらいと聞いていた。この感覚が1時間も続くならちょっと耐えられないかも……と思ったころ、看護師さんの「はい、一番つらいところは終わりましたよ」という声が聞こえた。救われた。

 言葉の通り、この後は痛いもつらいも気持ち悪いもなかった。医師が淡々と動脈や静脈を選別しながら、悪い静脈を縛っていっているのはわかった。その間私はただただぼーっと横になっているだけ。手術室に流れる好きなアーティストの楽曲を聞き流す数十分。

 そして、縫合。もちろん感覚なし。糸を縛るときの医師の手の力み具合が伝わってくるくらいである。

 で、手術終了。縫った傷口は傷パワーパッドのようなテープが張られ、さらにはハンドタオルで保冷剤をくるんだものを押し当てられ、それがずれないようにテープで下半身をぐるぐる巻きにされる。しばらくは陰嚢がぶらぶらと動かないほうがいいようで、陰嚢もテープで固定される。

 なるほど。陰嚢に毛が残っていてはいけないわけだ。陰嚢の毛まで剃るように言われたのはこのためだったのかと、妙に納得(このためだったのかどうかはわかりませんが)。

 そして、立っていいですよと言われ、普通に自分の二本の足で立ち上がり、パンツとズボンを履く。しばらく待っていると医師が戻ってきて、手術の結果について説明をしてくれた。

 動脈、リンパ、精管、神経をどれだけ温存して、どれだけの悪い静脈(逆流している静脈)を縛ったのか教えてくれた。縛ったのは37本。結構多かったらしい。結構多かった、というのがどういう意味を持つのかは聞きそびれたので、また3か月後の検査の時に聞いてみようと思う。

 手術費用などはすべて事前に支払っていたので、その領収書と1週間分の抗生剤と6回分の痛み止めだけ受け取ってこの日は終了。妻と合流し、ラーメンを食べて帰宅した。

 終わってみれば手術は非常にあっさりしていた。術後に食べた豚骨ラーメンのほうがこってりしていたくらいである。10分ほどの苦痛はあったものの、それだけだった。

 結果がどう出るかはまだわからない。3か月後(6月ごろ)に再度検査をして、睾丸のあたりの血流などを調べるらしい。受けてよかった、という結果になることを祈る。

 手術後2週間は禁酒。シャワーは翌日からOKで、事務仕事なら翌日からでも問題ないとのこと。軽い運動は1週間後から。私の仕事は肉体労働ではないので、その気になれば翌日から出勤してもよかったのだけど、大事をとって2日間休みを取っていた。しかし、その2日間は「普通に仕事できたなぁ」と思うような2日間だった。痛みもほぼなく、痛み止めも寝る前に念のために飲んだだけ。痛むようなら傷口や睾丸を冷やすようにと言われていたけど、冷やす必要もないくらい痛まなかった。

 ただ、睾丸がぶらりと揺れると、確かに何か嫌な感覚がある。病院からもそれを和らげるために、ボクサーパンツの中にタオルを丸めたものをいれて、睾丸をある程度固定するように言われていた。術後1週間はその処置を施し、やや股間を広げて歩く毎日だった。

 手術から1週間がたった時、傷口のシールを外した。伸びかけの陰毛がシールに絡み、激痛だった。傷口自体はしっかり塞がりつつあるようで、痛みはなかった。

 以上がとりあえず現時点での手術記録。また今後、検査結果が出たりすれば追記していこうと思う。

 手術から約10日がたった今。この一連の手術前後で一番つらかったのは何かと聞かれれば、麻酔でもその後の体内の何かを引っ張られている感覚でもなく、手術後3日目くらいから始める生え始めの陰毛のチクチク感だと、自信をもって答えられる。とにかくチクチクする。日常生活に支障をきたすレベルでチクチクする。

 それくらいに手術自体はストレスの少ないものだった。ありがとう先生。ありがとう看護師さん。

 あとは結果が伴うかどうか。乞うご期待である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?