母が倒れた。コロナ禍で病院には駆けつけられない。様子がまったくわからず、毎日不安が募る。
何とか気を紛らわそうと川原を歩いていた。
いつもは黒いアゲハ蝶ばかりがたくさんいる。
でも、今日は。
見たことのない蝶々が目の前を横切っていった。
初めて見る蝶々だ。クリーム色に黒い縁取り。
他の蝶々と違い、飛び方が儚く、ふわふわっと、半円を描いては前に進み、半円を描いてはふわっと前に進んでいく。
空に描く模様も、他のとは違うのだ。
家の方へ、家の方へ。少しずつ 進んでゆく。
私を先導するかのように。
「大丈夫。ちゃんといる」
そう言っているかのよう。
大丈夫、大丈夫だ。私は 今、自分がやるべきことをしよう。
家に帰って洗濯を始める。
ベランダを開ける。私も洗濯物も太陽の光を必要としていた。
「え?」
さっきの蝶々がやってきた。ベランダの先で遊んでいるかのように。
川原ではよく見かけるが、私の家まで蝶々が来たことはない。
「やっぱりお母さんだ」
大丈夫と言っているに違いない。
少しして、父から電話が来る。母の声を電話で聞くことができたそうだ。
話した時刻は、ちょうど蝶々がベランダに来た時間。
「やっぱりお母さんだった」
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?