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R62
2024年11月3日 12:20
社員旅行 規模にもよるが社員旅行を合同でやるのは珍しくはなかった。十月半ばになり、今年はレンの働いている懇意の印刷会社と合同で中型バスを二台借りてビーチに行き十棟ほどのヴィラに各五人づつ泊まる二泊三日の日程だった。出発前部下に節度を守って楽しむようにお灸をすえたが、バス内はカラオケ大会になった。流行りの歌なのだろうがほとんどわからなかった。 彼辞めたんだって? と言ってバスのとなりの座席
2024年10月28日 22:36
スナックの風船顔の女の装いは派手になっていた。 桃色のチークが満月に添えられ、まるでおたふくだ。装飾品も金色を中心として固められ、どこかのブランドの財布を持っていた。縫い目の僅かな綻びから察するにウルトラコピー品だろう。だが、そもそもこの街のあらゆる物がはなから綻びている。はて、僅かな綻びが本物と偽物を分かつなら、本物に綻びができたときそれは偽物と評されるのだろうか。むしろ、あの顔面の綻びと
2024年10月27日 14:10
告白 彼女の原付のうしろにまたがり街を走った。 ——掴んでて。 ん? 腰! 風が身体の粗熱を冷まし、気持ちよかった。橋を渡ると川へと竹竿で糸を垂らしている老人が五、六人いる。私は彼女の腰から正面まで手をまわして寄りかかった。目を閉じて、背中の温度と振動を感じとる。風圧と轟音がそばで通り過ぎていった。大型トラックであろう。 ここの——、行ったことある? 彼女が声をあげた。
2024年10月22日 00:56
電気も点いていない薄暗いカフェが道路片側に無数に点在している。戸は常に空いており、何よりカフェの前で二、三人の女がいる。女たちは、退屈そうに木製のリクライニングチェアに腰掛けていたり、パイプ椅子に座っていたり、壁に寄りかかっていて、我々が目の前を通っても、つまらなそうに一瞥し、入る? と目で訴えてくるだけだ。傍らにはボス猿のような老女が佇んでおり、実際カフェのボスで女たちの取りまとめ役なのだろう