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死体と操縦

 同僚が解体されていた。

 流れていく部品を認識した瞬間、全身を過電流が走った。それでも《指先》は再利用可能な素材を自動的に選っていく。洗浄された神経網はおにぎりの管布みたいだ。私たちは管布おにぎりの集合体。さしずめ金属繊維は合飯で、皮殻はのりかな。そんなことを考えながら、跳ね上がった負荷が落ち着くのを待つ。
 全身に疎らについた感覚機を剥がしていく。脊髄は一世代前。視神経は中の下。免疫機構は安物だが移植先はあるかもしれない。私たちの稼ぎなら性能はこんなものだろう。ただ一点、右手指を除いては。
 同じ作業区にいた同僚の両手には、私と同じく《指先》接続機が付属している。彼の接続機は右だけ拡張済だった。神経網先端に付着した、鈍く光る瘤状の機塊。一つが作業員の給料半年分の価値を持つ。私は部品を五つ丁寧に剥がすと、規格外の箱に転がし入れた。

 業務終了の鐘が鳴り響く。箱から五つの機塊をつかみ取り、混入物排出口に放った。十指がぷしゅっという音を立てて《指先》から外れ、接続機の上に金属繊維が紡がれ皮殻が覆っていくのを待つ。仲間たちが喋りながら作業場から離れていく。私はひとり廃棄場に向かい、ちょうど転がり出た部品を拾う。
「作業員017」背後から監督官の声がして、私は制止する。「どうした?」
 振り返りざまに笑みを浮かべる。間違えて廃棄しちゃって。またか、見つからないうちに戻しとけよ。すみません。手のなかの機塊を前掛けの収納袋に潜りこませ、そそくさと通り過ぎようとする。
「待て」
 巨大な単眼が鋭く絞られ、私を走査する。伸びてくる細長い手を振り切って駆け出す。
「横領だ! 捕まえろ!」
 叫び声に固まった機体のあいだを縫って走る。工場内に響き渡る警報、巨大画面に映される社長の顔。文字が赤く明滅する。
「横領は犯罪です!」
「在庫は会社の資産です!」
「会社第一!」
 準備室で自分の棚から雑嚢をひったくり、前掛けを脱いで突っこむ。

#小説 #SF #導入 #逆噴射小説大賞2019

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