欠肝人間・追記

先日の『欠肝人間』について、もしかしたら言いたいことがちゃんと伝わってないかもしれないな、と思ったので追記します。

めちゃめちゃ堅苦しくわかりづらくなってしまったのですが、要するにこういうことです。

あの文章を書いたのは『下戸は飲み会でこんなにつらいんだよ優しくしてよエンエン』と訴えるためではなく、『お酒飲めないって生きていくうえで想像以上にハンデなんだなあと思った』という話をしたかったからです

それだけわかればもうOK、ページを閉じてくれて構わないんだけど、せっかく書いたので載せておきます。

以下、本文。

“飲めない側”の人間の書いたこの記事を読んで、友人が“飲める側”視点のコメントをくれた。

私の友人のなかで誰よりも極端な“アルコール至上主義界隈”に生きている彼女からすれば、「自分も含めてみんなが頑張って飲んでるからこそ、飲まない人を見ると悪感情を抱いてしまう」らしかった。飲み会は「頑張って飲むことが当然である」という価値観に基づいて開催されており、そこに疑う余地はない。「そんなに嫌なら飲まなければいいのに」なんて正論は何の意味も持たない。そういうことだ。

要は、その場所の価値観に合わない人間はその場所にいるべきではない。シンプルかつ当たり前な話である。

私だってそんなことは百も承知している。だから飲み会には極力行かない。それでも、行かなきゃいけない(と思われる)飲み会があるのも、ちくちくしてくる人がいるのも、そして上手く振舞えない自分も嫌だなって思う。

けれど、そういうことじゃないんだ。

私が『欠肝人間』で書きたかったのは、「飲み会のこういうあれこれが嫌」というミクロな話ではなく、「下戸は成人社会におけるマイノリティ≒弱者である」というマクロな話だ。

例えとして“アルコール至上主義界隈”の話をしたのが悪かったのかもしれない。
そんな極端な場所でなくとも、成人社会全体において、アルコールというものはコミュニケーションツールとしてあまりにも大きな役割を担っている。そこでは、下戸はある意味でコミュニケーション弱者である。

具体的な話。

一般に、「飲みに行こう」の言葉が発された段階で、下戸は参加者から除外される。誤解しないでほしいんだけど、これは断じて「下戸でも飲み会に誘え」という意味ではない。誘われても困るし断る。ただ、コミュニケーションの機会は確実にひとつ消える。

これはもちろん他のことにもいえて、たとえば「バンジージャンプに行こう」ってなったら、高所恐怖症の人は参加者から除外されるじゃない(ちなみに私は高所恐怖症でもある)。それももちろん仕方ないことだ。ここでもコミュニケーションの機会はひとつ消える。

でも、人生で「飲みに行こう」と「バンジージャンプに行こう」が発される回数にどれだけの差があるかって話。酒が飲めないという理由で失われるコミュニケーション機会の数は、他のアレルギーや好き嫌いによるものと比較にならないほど多いんじゃないかな。

これがプライベートならまだいい。行きたくないなら行かない、それで切れる縁ならそれまで。そういう話だ。
でもこれが仕事の関係だったら? 会社の集まりなんてほぼイコールで飲み会だろうけど、断り続ければ角が立つかもしれない。それでも、行ったら行ったで「飲まない人がいると萎える」なんて言われるかもしれない。酒が飲めないというだけで、会社での人間関係にしこりが生まれる可能性すらある。想像ではあるけど、なくはない話だと思う。

社会はコミュニケーションで成り立っている。そしてコミュニケーションにおいて「飲み」が占める割合はとても大きい。つまり、成人社会はある程度酒を飲めることが前提で構成されているといってもいい。そして社会がいかに「酒ベース」で動いているかは、マジョリティである“飲める側”の人間からは可視化されづらい。だって多くの人が当たり前にできることをできない人がいるって、ちょっと想像しにくいでしょ。それによってその人がどんなハンデを抱えているのか、正確に認識するのは難しいでしょ。たとえば私だって社会が「右利きベース」に作られていることを実感する機会は少ないし、左利きの人が抱えるストレスをまるごと汲むことはできない。

だから私はある意味で「マイノリティから見た社会」を書くために、『欠肝人間』を書いたのだ。

こう言っていいのかはわからないけど、構図としては「性的マイノリティから見た社会」に近いのではないかな。(異)性愛が当たり前とされる社会において、それをしない/できない人たちが抱える違和感や生きづらさは、私の悩みと似た種類のものなんじゃないかと思う。“普通”ができないことは大きなコンプレックスになり得るし、実害もある。社会は“普通”を基準に動いているので。

いろいろ難しく話してしまったけど、何にしても「人並みかそのちょっと上」であることに越したことはないよなあ。あんまりお酒強すぎてもなかなか酔えなくてコスパ悪いらしいし。中の上を目指したいわね。


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